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王子に婚約破棄された伯爵令嬢が若き総督と新たな国を作るまでのお話~悪いですが、この戦争、あなたの側の「謀反」ですよ~  作者: 森田季節


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17 慶賀のための軍隊

 王の即位2周年の記念式典に、私はアルファードとともに王都へ出発した。

 副都の治安を守るため、警察隊は連れていけないので、私たちはごくごく少数の出発だ。


 そして、途中の街道沿いの宿場町に私たちはしばらく待機する。


 やがて北部の各地から軍隊を引き連れた領主やその名代が集まってきた。


「副都総督、お疲れ様でございます。さあ、王都へ参りましょう!」「王都の民に北部の兵の威容を見せつけてやりましょう!」


 合流した領主たちがそんな言葉をアルファードにかける。


「ええ。皆さん、全員で陛下を祝おうではありませんか。多くの領主の兵士がパレードを行えば、さぞ壮観なことになるでしょう!」


 アルファードの声に参加した兵たちが勇ましい声を上げた。


 これが私が考えた暗殺対策の考えだ。


 アルファードを信頼してくれている北部領主たちから少しずつ兵を借り受ける。


 言うまでもなく、ごく一部だ。私たちは戦争をしにいくのではない。そのまま王都を占領するぞというような数の兵士を連れていくことはできない。

それを記念式典のためと言うのは無理がある。


 しかし一つの領主がせいぜい30人ほどしか兵を随行しないなら、それは慶賀の使節で通るだろう。



 それでも、多くの領主から少しずつ式典用の兵が集まってくれば、それなりの数になる。王都の人々も潜在的な軍事力を知るはずだ。






 さらに南下していくと、私のよく見知った顔も合流してきた。

 山岳伯のエルクス・リンバール、つまり私の父だ。


「お父様、やけに兵の数が多くないですか?」


「50人連れてきた。ワシは総督の義父なのだからな。親族なら多目に儀礼用の兵を送るのも自然だろう」


「理屈ではそうなのですが、ほかの領主が、『だったらもっと兵を用意したのに』と思うかもしれませんから、親族だからということは強調して説明してくださいね……。足並みが揃わないのは困りますから」


「言われるまでもないわ。別に北部同士でいがみあってもおらん。それにしても、絶妙な人数だな。これなら、王都を侵略しにきたとは見えん。しかし威圧感もある」


 父が兵たちの様子を眺めて言った。多くの兵は戦争ではありえないほどに、きらびやかな見た目をしている。まさに儀礼用の部隊なのだ。


「そこはアルファード様とよく検討しました。王都に入る前に反乱軍扱いされて鎮圧されても困りますし、兵が3000人いれば王都制圧が目的にしか見えませんし」


「だが、これなら仮に陛下に悪意があっても、何もできんだろうな」


 楽しそうに父は笑って、こう続けた。


「総督がおかしな死に方をすれば、これだけの北部の領主が黙っていないぞというメッセージになる。まして王都にそれなりの数の兵がやってきている。小心者ならだいそれたことはやらんだろ」


「『やらんだろ』ではなく物理的に決行できないようにしますがね。信頼できる領主の方々にはアルファード様のそばについて移動してもらいます。仮に暗殺者が用意されていても、北部の領主も一緒に殺してしまう危険があるのでは実行できないはずです」


 王たちが最初から北部と戦争を行う準備でもしてないかぎり、そんなことはできない。


 そしてアルファードだけを効率よく消すつもりだった王たちにそんな準備などあるわけがない。


「だろうな。けれど、これで王たちが次にどう動くかも読めなくなるぞ。総督ごと滅ぼすしかないと覚悟を決めるおそれもある」


「その時はその時です。当然、一手先や二手先のことも考えています。成功するかはわかりませんが、今はまずアルファード様が無事に帰還できるように全力を尽くすべき時です」







 各領主による合計400人ほどの慶賀の兵は予定通りに王都のそばまで来た。

 そのうち50人はパレードには出ない。一時的に借り受けた原野に寝泊まりできるテントを設営する。


 数百人の兵が王都の中で宿泊するのは現実的ではないし、もし兵士が増えたことで治安が悪化したりすれば、王国全体での北部の印象自体が悪くなる。


 それでは何の旨味もないので、400人の兵はパレードが終われば王都の外に出るのだ。それに兵が集まっているほうが急襲される危険もない。


 そしてこの兵たちの代表者は総督であるアルファードなので、アルファードもこの設営テントまで来て、寝泊まりする。


 まかり間違っても、宮廷で寝たりなどしない。


 これで攻撃を仕掛けられるなら、やってみるがいい。


 


 王都からは内容の確認を求める役人があわててやってきた。


 パレードのために兵が来ることはすでに聞き知っているはずだが、いざ本当にやってくるとなると、細かい確認をしないわけにもいかないのだろう。


 ここはあえていかめしい北部の領主に応対を任せた。

 雪原伯カーラス・ウォーレン、65歳。北部領主の長老格だ。


 テントの外にまで彼の応対の声が聞こえた。


「我々は式典のために兵を派遣しただけじゃよ。兵士の装備をあらためてもいいが、こんなもので王都を占領できるわけないと子供でもわかるよ。こちらは任についてから一度も王都に戻らなかった総督が戻るほどの式典と聞きつけて、わずかばかりの供を連れて、来ただけじゃ」


 役人も今更どうしようもないらしい。これでパレードに兵を入れるなとは言えないだろう。


 役人たちはしぶしぶ帰っていった。

 その背中を見て、私たちは賭けに勝ったのだと思った。


次回は17時更新予定です!


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