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13 結婚2年目の治世

 王国の北部は雪に覆われるところが多い。

 私の実家のメセナ州も場所によっては人間一人分ぐらいの高さまで雪が積もり、二階から出入りしないといけないところもある。


 ただ、副都は海がそばにあって、風が吹くせいもあり、積雪は少ない。

 総督公邸の庭にうっすら雪が積もったことはあったが、実家の雪を思えば、ほとんど降ってないようなものだった。


 そして私が結婚した年は、庭にわずかな雪を残したまま終わりとなり、2年目が始まった。


 新年最初の数日は休日で、副都郊外の寺院で行われた火祭りを見学したのと、総督公邸の中でも一番奥まった建物に祀られている神像(副都の元になる街を作ったという伝承がある)にお祈りした以外は行事らしい行事はなかった。


「なんだか、意外です。アルファードは王族ですし、もっといくつも行事に参加させられると思っていたんですけど」


 二人での朝食の時間中、そんなことを言った。

 年明けなので、料理人やメイドさんにも休暇を出しており、キルアラがパンと果物の簡単な朝食を用意してくれた。


 用意が終わると、監視のためと言って建物の外に出ていったのは、私たちに気をつかってくれているのだろう。


「たしかに王都に住んでいた頃はいろんな行事に参加させられたね。王家がこの国を支配する正統性を確認することにもつながるから。クラウディアの実家も、州の行事にはいろいろ参加させられたはずだ」


「はい。けっこう忙しかったです」


「その点、僕はあくまでも総督だ。代々、この副都を支配していたわけじゃない。問題があればクビになるし、王家でないものが地位につくことも珍しくない。あくまでも役人の中のトップにすぎないから、参加する行事も少ないんだ」


 言われてみればそうか。

 アルファードは副都に根付いているわけではない。



 すっかり生まれながらの副都の王みたいな立ち位置だが、あくまでも十代の終わり頃に王都から総督として派遣されたにすぎない。



 もし、特定の一族が代々副都を支配することになれば、その一族が副都周辺を支配する権限があるような印象を与えて、国の分裂を招きかねないから、一族での継承をさせないというのは理にかなっている。


「王族であることをあまり強調しなくともよいと、派遣される時も父親に言われたよ」


「前王陛下の考えは正しいと思いますが、北部の、さらにはほかの地域の領主の支持も得るには、ほどほどに権威を足していったほうがいいかもしれませんね」


 もし王都から討伐命令を受けた時に、周囲の領主が役人としか認識しないのでは戦力を集めるのが困難になる。


 アルファードは王になるつもりなどないし、私もそんな権力欲はないが、もし王都と戦うことになった際は、アルファードは王位継承権がある人物だと思わせたほうが得策なのだ。


「クラウディアの言いたいことはわかる。ただ、さじ加減がとても難しいな。反乱分子と思われると元も子もない」


「では、王家であることを強調せずに、アルファードの権威を高められるような方法を考えましょう。それなら、いいとこどりができますよね」


「そんな便利なものがあるかなあ……」


「なくはないです。たとえば、何かの記念スピーチの時、代々の副都総督を讃えていくとか。総督の歴史が輝かしき副都の歴史と重なるような印象を与えるんです。総督の並びが疑似的な王の系譜に感じられるようにするわけです」



 アルファードは少しぽかんとした顔になった。


「どうしました? そんなにおかしなことを言ったつもりはないんですが……」


「クラウディアが山岳伯から軍師と呼ばれていた理由がよくわかるよ。その発想はいかにも軍師だ」


 どうやら、呆れられたわけじゃなくて、褒めてもらえたらしい。


「もっとも、焼け石に水ではありますけどね。やれることだけはやっておきたいんです。ほかにも、人口も増えてきていますし、副都の外側に、大寺院や大学を作っておくのもよいかもしれません」


 副都の外側であっても、その土地の領主が許可を出せば、建設は問題ない。


「ちなみに、それは何のためなんだい?」


「敷地の広い寺院や大学は、北部の領主が私たちのために挙兵してくれた際、兵の駐屯地になります。副都の内側に、大軍を収容する能力はないですからね」


「やっぱり軍師だ。人口が増えてきてるし大学を作る意義もある。早速検討してみよう」







 あとで、外にいたはずのキルアラから、「二人でいるのだから、もう少し色気のある会話をしてもよかったのではないですか」とクレームを受けた。


 むしろ、二人きりのはずなのに、きっちりと聞いていたのはどういうことだと思う。


「お互いに甘える時は、タイミングをわきまえているだけよ。それに、昨夜もアルファードはけっこう甘えてきたし……」


 私は余計なことを言ったと思って、口をつぐんだが、キルアラのほうもそれ以上を聞く気はないようだった。


「すみません、わたくしも悪かったのですが、のろけの話は聞きたくありません……」





◇ ◇ ◇



 アルファードは早々と副都に接する領主の土地に寺院と大学を作る手筈を整えた。


 建設には時間を要するだろうが、土地が確保できた時点で駐屯地としての存在意義はできる。


 それと大規模な建築事業が進むことで、副都にはさらに人口が流入してくることになった。


 この10年で見ても今年は最大規模の人口増加ペースとなりそうらしい。


 副都の発展はまだまだ続きそうだ。


 それと、この年の頭には、私にも大きな出来事があった。


 私はアルファードとの子供を授かった。


 この年のうちに王都との間に大きな問題が起きなければいいなと思ったが、幸い何もなかった。


 年末に生まれた子供は男の子だった。名前はエリック。

 将来、歴史の流れによってはこの子が王になることもあるのだろうか。

次回は夕方17時ぐらいに更新予定です!

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