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12 王都との亀裂

 アルファードは事を決断するとそこからは素早い。

 野盗対策のため、副都に隣接する小領主たちに少しずつ軍隊を出させて、それを代表者が指揮するシステムを作った。


 鎮圧は思いのほか、簡単に進んだ。

 野盗の数は知れているので、正規武装した十分な数の兵士が鎮圧にあたれば、どうということはなかった。


 彼らは降伏して捕縛され、小領主たちの領内には大規模な囚人を収容する施設がないので、便宜上、副都の刑務所に送られた。


 もっとも問題はここからだ。


 そこで面倒な事実が発覚した。





 ある日、キルアラが明らかに本職の軍人の顔をして女性問題相談室に入ってきたので、すぐに他人に聞かれないところに移動した。


 キルアラの本職は軍人、というより武人だ。時に後ろ暗いことも平気で行う。


「野盗の中で口の軽そうなものを選んで拷問したのですが」


「それ……法に依拠しない行為だと思うけど……まあ、いいわ、続けて」


「自分たちは王都で雇われたということを言っていました。しばらく暴れまわれば、王都に帰還した時に金を払うと」


「それは雇い主が中央の人間という考えでいいのかしら?」


「副都を狙った攪乱作戦の可能性はあります。副都が発展することを喜ばしく感じない者が手を引いているとわたくしは判断いたします」


 王都側の勢力は副都が力を持つのが気に入らないのだろう。

 だが、だからといって自分の国を荒そうとする発想は理解しがたい。


「副都は何かルールを破ったわけではありませんから、王都がいきなり攻めてくるようなことはないでしょう。さすがに大義名分がなさすぎますし、もし潰しきれなかった場合、都合の悪いことになりますから。ですが――」


 キルアラは厳しい表情で、私に注意しておけと伝えていた。


「将来的に、副都が、お嬢様夫婦や一族が危険にさらされるおそれがあることは認識されておくべきです」


「ありがとう。キルアラ、あなたはやっぱり忠臣だわ」







 当然、アルファードも野盗の正体は知っていた。もしかすると、捕らえた野盗の尋問の前から予想がついていたのかもしれない。


 あまり寝室でしたい話ではないが、人に聞かれることがないという意味ではこの場所が適切だった。


「これまでも小規模な嫌がらせはあったんだ。けど、今回は規模が大きすぎる。これ以上エスカレートすると厄介だな」


「危険ではありますね。しかし、堂々と各地の領主と協力しようとすれば、いよいよ反乱を疑われてしまいますし」


「まあ、今の僕にできることは道理に沿った統治を続けることだけだね。そうすることで、北部の領主たちは僕を支持してくれる確率が高まる」


 それはそこまで的外れな楽観論ではなかった。

 もし戦争になっても北部の領主がことごとくアルファードを支援すれば、国が分裂することになる。それは王都への牽制にはなる。


 元々、北部の領主は副都に好意的なイメージを抱いている者が多い。王都は遠すぎるし、南部にある王都は北部を田舎と軽蔑することが珍しくない。


 だから、王都への潜在的な反発心は北部に宿っているのだ。


 しかも、アルファードの副都の統治は評判もいい。総督を王と見なすような大それたことはどこの領主もしないが、総督は一種の北部の王のように思われている。



「王都が上手く治まってる間は、弟もそこまで無茶なことはしないだろう。あいつは偉そうだけど小心者だ。だが、評判が悪くなると、なりふりを構わなくなるかもしれない」


 そこまで言ってから、アルファードは私に「ごめん」と言った。


「早速、クラウディアを危険なところに巻き込ませてしまった。まだ結婚一年目なのに」


 私は首を横に振った。


「どうということはありません。むしろ、軍師として活躍できるチャンスが来ないかとわくわくしています」


「クラウディアはかわいい顔に似合わない女傑だな」


 かわいいと言ってくれたのをきっかけに私は政治的に重い話は一度、どけることにした。


 お互いに甘える時間も必要だ。


 私はアルファードにそっと寄り添った。


 もっとかわいいと思ってもらわないと、ずっと女傑とばかり思われても困るので。



◇ ◇ ◇




 おそらく、野盗の問題があったせいでもあるのだろう。


 アルファードは北部の各地との物品のやりとりを意図的に増やそうとしていた。


 そうすることで経済の中心としての副都の価値を高めることができる。副都が栄えることが北部の利益になるようになれば、副都が滅ぶような選択は受け入れづらくなるはずだ。


 王都側にしても、副都が荒廃してしまえば、国家の経済全体に大打撃になるので、大軍を動員して副都を火の海にするなんてことはできない。


 王になったジェフリスは身勝手なところがあるが、副都を荒廃させれば、暗愚な王として一生記録されてしまう。それは耐えられないと思う。


 また、アルファードは北部の領主たちとの会食の機会も増やした。これもわかりやすい、結びつきを深める手段だ。


 これまではどちらかというと、副都に派遣されていた領主一族との会食が主流だったが、そこに直接、領主と会う機会も増やした格好だ。


 領主側が夫婦で来た時は私も参加する。


 宮廷マナーはおおかた身についているはずだ。粗野な人間と思われるメリットはないから、食事中は慎重になった。


 ただし、アルファードを讃える時は徹底して讃えた。


「休日、お忍びで街を歩いていたアルファード様は、悪漢に襲われそうになっていた私を守ってくださったんです。長く伸びた脚が悪漢を蹴り飛ばしたのを今でも覚えています」


「あまり言わないでくれ……。恥ずかしいよ……」


「いえ、あれでアルファード様が武勇にも優れていることを知ったのですから、欠かすことはできません」


 武勇に優れていること――北部の領主がいざという時、アルファードを担ごうと思えるかどうかは、これにかかっている。


 政治がどんなにできても、ひょろひょろの文人みたいな奴と思われたら、どうしようもない。


 私はアルファードの武勇を広める広報官になる。

 それが結局は、アルファードも副都も守ることにつながるのだ。


 アルファードを守るためなのだから、少し恥ずかしいぐらい我慢してもらわないと。

次回は明日、午前7時ぐらいに更新予定です!

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