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11 野盗対策

 結婚してから二か月が過ぎ、私は「女性問題相談室」の室長に就任した。


 女性からの相談だけを受け付けるという機関だ。


 機関といっても、名前のとおり、空いている庁舎の一室を使った規模のものなのでまだまだ小さいが、総督の妻がずっと雑用をするわけにもいかないし、いきなり副都の重役がつくポストにつくわけにもいかないので、扱いとしては妥当なところだろう。


 それにホーリニア王国第2の都市である副都には、都市ならではの問題も多い。


 たとえば私とは縁のない世界だが、娼館や置屋もいくつもある。

 そこで働く女性や、女性から生まれた子供を保護する措置が必要だ。


 ホーリニア王国は法的に奴隷の存在を認めていない。だから、奴隷のような環境で働く人間がいるとしたら、それは改善されねばならない。


 なかなか重い話だが、目を背け続けるのが正しいことでもない。


 それに貧しい人の陳情を見る中で、わかってくるものもある。






「王都から移ってくる人が、多くないですか?」


 私と一緒に「女性問題相談室」の職員となったキルアラが言ってきた。護衛が私から常に離れているわけにはいかないので、これは当然の人事だ。


「私も同意する。大都市から大都市の移動と考えれば不思議はないけど、それにしても多い気はする。理由はわかるけど」


「どんな理由です、お嬢様?」


「王都は比較的近いところに鉱物資源が多く取れる山がたくさんあった。だから、王都を押さえた一族が王となることができた。でも、建国から時間が過ぎるにつれて、産出量はじわじわ減ってくるし、とくにこの20年は明らかに量が落ちている」


「ああ、土地のうまみが減っているということですね」


「さらに数年前に疫病も流行したし、じわりじわりと王都の価値は下がってる。けれど、中央は対策を打ってきたとは思えない。むしろ人口が減って税収が減って、王都の内側に住む人間の税金を上げた」


「それは副都に人口も流れますよね」


 もしアルファードが王になっていれば、もう少し王都の発展のために何か手を打ったと思うが。

 最低でも、堅調に発展を続けている副都から何か学べないかと考えたりはするだろう。


 現状、中央は副都の成功から目を背けている気がする。

 比較すると、王都が落ちぶれていることが明らかになるからだ。






 そして秋が深まり、私も次第に自分の職務に慣れてきた頃、副都に厄介な問題が持ち上がってきた。


 夕飯を食べ終えて、寝室でアルファードと二人きりの時間を過ごしている時、こんなことを切り出された。


「すでにクラウディアも聞き知っているかもしれないが、副都の外縁部で野盗の騒ぎが増えている。略奪だけでなく、火をつけたりもする凶暴な連中だ」


「家が焼かれたという陳情を受けたこともあるので、知っています」


「活動場所が一定してないせいで、鎮圧が上手くいかずにいる。しかも副都の領内ではないので、副都の警察隊を出動させることもできない。どうしたものかと手を焼いている」


 たしかに副都の外側ということは、そこにはその土地の領主がいる。


 たとえば山岳伯の領内で野盗が出れば、領主の軍隊を差し向ければいい話だが、王都も副都も大きな都市のそばは小規模な領主がひしめいているので、まともに軍事力も持っていないのだ。個別の領主では、軍事力がまったく足りない。


「副都だけで解決するには厄介な問題ではありますね」


「ああ、警察隊に副都と外の境界線の警備は当たらせているが、あまり意味があるとは思えていない」


「あの、少し本を参照してもよろしいでしょうか?」


 こういう時は先人の知恵を借りよう。


「本? 何の本だ?」


「『古戦録』という過去の戦乱の部隊の編成や戦場の地理などを集積した本です」


「それは大きな会戦などについて書いたものだよね? 野盗問題に役立つ気はしないんだけど……」


「そんなことはありません。過去を知れば、必ず今に活かせます」






 軍事関係の有名な本はちゃんと空いている部屋に集めていた。元々は暇な時に趣味で読むためのものだったが、ここに来て役に立ちそうだ。



 小規模な領主を多く従えて、会戦にのぞんだケースを私は確認する。


 うん、前例としては、これで問題ないだろう。


 私はすぐにアルファードのところに戻った。


「アルファード、このカルネア会戦の編成のところを読んでいてください。私が説明しますから」


 カルネア会戦は三百年以上前の、複数の州を支配する大領主同士の大規模な争いだ。それに付随して、小領主たちも争いに参加している。


「たしかに小領主たちも軍役で兵士は出しているけど、それなら今も領主たちが領内を守ろうとしているのと違いはないんじゃないかな?」


「いえ、その会戦で勝利した側は小領主が提供した兵士を、1番から15番までのグループに編成して、戦争に投入しました。指揮権は盟主の大領主と番を動かす命令を得た武将です。対して、負けた側は小領主の提供した兵はその指揮官が別個に指揮しました」


「つまり……負けた側は寄り合い所帯だったというわけか」


 アルファードは戦争に慣れてないとはいえ、頭の回転は速い。すぐに理解してくれた。


「そのとおりです。現在、小領主たちはわずかな手勢で野盗対策をしています。これでは数が足りません。ですが、近隣の領主たちから兵を供出してもらって、それを担当の方が指揮すれば、より機動的な戦い方ができます」


 私はアルファードの肩に手を置いた。


「そのプランを伝えるのはアルファードです。アルファードが小領主に構想を話せば、彼らも聞き入れてくれます。副都の警察隊を使わなくとも、この規模の野盗には立ち向かえます!」


「わかった。そのようにする」


 力強く、アルファードはうなずいてくれた。


 それから、何かを思い出したように笑った。


「おかしなことを言った覚えはないのですが……」


「以前に、義理の父の山岳伯がクラウディアを頼りにしろとおっしゃったが、その意味がわかったよ。クラウディアは軍のことに本当に詳しい」


「戦場に出たことはないですから、実績はないんですけどね」


 謙遜する私の頭をアルファードは撫でた。

 くすぐったいが、夜だし髪が少し乱れてもいいか。


20時ぐらいにもう一回更新したいです!

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