幻の色
春の朝のバスは1番前がいい
座るのも、立つのも
どちらでもいい、とにかく1番前がいい
バスの大きなフロントガラス
1番前でその向こうを眺めていると
やがて近づいてくる、桜並木
まだ春の入り口の辺りから
なぜか桜の枝はほんのりと色づき始める
ふうわりとピンク色
最初は気のせいだと
次はつぼみが膨らみ始めたのかと
でもまだ咲かない
何日も、何日も
桜並木を歩いてみた、その木の下を
小さな、小さな、硬いつぼみらしきものが見える
まだ開きそうにないそのつぼみ
ああ気のせいだったかと
期待する目の錯覚だったかと
なんとなく下を向いて
朝、またバスの1番前で
ほんのりとピンク色に染まる桜並木
見間違いかのように、ふうわりと
ほんのわずかにピンク色
遠目にしか見えないその色は
近づくにつれ見えなくなってゆく
幻なのだろうか
春に狂っているのだろうか
わたしの目にうつる気のせいのようなピンク色
かすかに、まばたきをした次の瞬間にはもう消えていそうな
霧のような、霞のようなピンク色
お前はきっと咲きたいのだ
早く咲きたい
花開く夢を見ている
わたしはきっとお前の夢を見ている
夢の中で美しく咲き誇るお前を
風が吹けば消えていきそうな
日が動けば散っていきそうな
そんなお前の儚い夢を
わたしはきっと見せられている
眠るお前の春待つ夢を
咲きたいと願う心は、花も人も同じだから
だから
わたしは今日もバスの1番前で
儚いお前の夢に囚われる
お前が目を覚ます日を待ちながら