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呪人《カースマン》  作者: さばみそ
第一章
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祥請《しょうしん》

「改めまして、阿留多伎あるたきコウシロウと言います」

サングラスを外してスーツの胸ポケットにしまい、右手を差し出してきた。がっしりと握手をする。熱くてゴツい手だ。目付きは優しいが鋭く、師匠と同じく百戦錬磨の凄味を感じる。

そうしているうちに、もう一人が歩いて合流する。師匠同様に髪を後ろで一つに結びながらやって来た。さっきまで隠れていた右目からは強い霊力の残り香を感じる。

「そいつは神職の家系でな、たまにそういう力を持ったのが生まれるらしい。ま、お前の目と似たようなもんさ」

師匠がそんなことを言う。

「いやいや、邪眼と神眼と一緒にしないでくださいよ。おう、俺は熊埜御堂くまのみどうミコトだ。よろしくな。ちなみに、先生の婚約者だアッ!」

言い終わらないうちに師匠の鉄槌が落ちる。再び気絶… はせずに悶絶している。

「そんな事実はない!」

「ひどい! ちゃんと約束守ったのに!」

婚約者発言にびっくりしたが、なにやらもめている。 阿留多伎さんがやれやれという感じで見ているので、きっと日常茶飯事なのだろう。とりあえず放っておくことにした。


ヒジリの案内で辿り着いたのは村に一軒だけの民宿。今日はここに泊まりだそうだ。女将さん、というかお婆ちゃんが出迎えてくれた。

「遅くまでご苦労様~食事の用意するから、ゆっくり温泉に入っておいでね~」

その言葉に甘えて温泉に向かう。各自の想いは様々だが、温泉にでも浸かって癒されたいのは皆一緒だったようだ。


裸の付き合いとはよく言ったものである。タケトは包帯を取って鏡に映る自分を見る。おぞましい姿だ。先程までのこともありタケトは二人の前に出るのが余計に恥ずかしくなった。なので、なるべく誰にも見られないように気をつけて奥の方へと行こうとする。

「気にしねーで大丈夫だぞ? 客は俺らしかいねーし。旦那さんも料理で忙しいからこねーだろ」

とミコトが言う。むしろこっちでいろいろ話そうぜと笑顔で呼ぶ。第一印象とは違い人懐っこい性格らしい。自分の呪いも気にしていないようだ。

「お前、ちょっと落ち込んでるだろ?」

その通りだ。見透かされている。そう思うと余計に恥ずかしくなる。

「そんなに落ち込むことはありませんよ。聞けば、修行を初めてまだ1ヶ月そこら。むしろ、凄い成長速度です」

師匠にもそう言われた。だからこそ過信していたのだ。今は誉められるのが逆に心苦しい。

「そーとーヘコんでるな… ま、悔しいのは悪いことじゃない。その悔しさをバネにして努力すりゃいいだけだ。跳ねっ返るまでの時間は自分でなんとかするしかねーさ」

この人たちにも挫折はあったのだろうか。タケトはポツリと呟いた。

「「もちろん!!」」

二人は声を合わせて叫ぶ。そしてミコトは語り出す。

「俺んちは神職の家系でな、それだけでもしんどいってのに、俺にはこの神眼が引っ付いてきやがった。おかげで自分の人生なのに全部他人が指示してきやがる。全部他人の言う通りに生きないといけなかった。わかるかこの気持ち!?」

話自体はよくあるが、その境遇はレアすぎる。しかし、ある意味では自分も同じだと思った。

「んである日、とうとう俺は家を出た。超が付くくらいの大喧嘩をしてな。まぁ、出たはいいが宛もなく、こんな見た目だからかそういう連中に声をかけられて、仕方なく言われるままに着いてって、そのままつるんで… それはそれで楽しかったんだけどよ… ある日、とんでもねー悪事の片棒を担がされてたって気付いてぶちギレて… 無我夢中で暴れていたら、いつの間にか人を殺しかけてた… そんな俺を救ってくれたのが先生だったんだ。強かった。カッコよかった。すげーキレイだった。一目惚れってやつだ。その後は弟子入りして、必死で口説いた! 口説きまくった! 出された条件が『最低でも私と同等の強さ』『家族と和解』だったってわけよ」

それから彼はすぐさま家に帰り謝罪して和解。協会に入り修行して稼業を継ぎながら努力し続けて一級まできたそうだ。コウシロウさんの解説によると、協会には下から平の協会員、二級、一級、特級、幹部と分かれている。昇級するには筆記、実技、面接の他にある程度の功績が必要らしい。上になればなるほど功績は重要だそうだ。故に、その努力量のものすごさがうかがわれる。ほんとに好きなんだなぁ…

話しに一区切りついて、のぼせる前に湯から出て部屋へと戻る。コウシロウさんが早く喋りたそうな様子なのが意外で笑えた。

ミコトが包帯巻きを手伝ってくれる。得意分野ということであっという間に巻き終わる。器用だなぁ。術もかけ直してくれた。

部屋に戻ると全く予想してなかった豪華な料理の数々。何事だと驚いた。ヒジリもびっくりしている。

パンパンッ!パパンッ!

クラッカーの音が鳴り響く。

「昇進、おめでとうございます。先生!」

「せっかく追い付いたと思ったのに、あっという間に先に行っちまうのな~」

兄弟子二人が拍手と共に言う。旦那さんと女将さんもおめでとうございますと言って、ささっと片付けてごゆっくりと部屋をあとにした。タケトだけが理解していない。その状況にまたもや落ち込む。

「先生はね、功績が認められて昇進。特級になったんですよ」

コウシロウがこっそり耳打ちしてくれた。

「直ぐに追い付いてやるからな! そしたら結婚だ!」

「その前に私が幹部になるさ。そしたら二度と追い付くことはないね!」

なんだかんだ仲が良さそうに見えるんだけどなぁ…

そうタケトは思う。思うだけで口にしてはいけないように思えた。二人には二人なりのなにかしらがあるのだろう。自分は子供だ。弱い子供なのだ。背伸びしてもろくなことはない…


料理はものすごく美味しかった。大人たちは酒も進み酔っ払っている。ヒジリとミコトはいちゃつこうとして、殴られ、笑って… それなりに楽しそうだ。コウシロウは… と視線を向けると、待ってましたとばかりに寄ってきて語り始める。

「昔は優秀な子供だったんですよ。いい大学、いい会社、順風満帆な人生でした。しかし、人生が変わるのは一瞬。会社は不況で倒産。再就職もままならず、実家に帰ることも出来ず、あてもなく歩く中でふと目に入ったビラ。すがるようにそのビラに記された住所へ向かいました。とあるキャバクラ。そこのスタッフ募集のチラシだったんですね。というか黒服。私はそれなりに腕も立ちましたから即採用。なんとか繋いで生きていました。で、そんなある日事件に遭いました。店で起こった喧嘩。それに巻き込まれて生死の境を彷徨い、再び目覚めると病院のベッドの上。しかも霊能力に目覚めていたんです。ちなみに、その時私を助けてくれたのが先生というわけです」

なるほど。そういう経緯いきさつがあったのか。みんな偶然が重なり今に至るというわけだ。

「ん? 飲み屋で事件? あれ?」

「はい。死にかけたのが私で殺しかけたのがミコトですね。故に私たちは同期というわけです」

驚きを遥かに通り越して、よくコンビ組んでるなと逆に呆れるタケトであった。

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