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呪人《カースマン》  作者: さばみそ
第一章
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殆志《たいじ》

夕刻。逢魔が刻。この時間帯は、そういうモノと出会いやすいそうだ。昼と夜のはざま。あやふやな、虚ろな、不安定な空間。そこは人ならざるモノの領域。未熟な自分は、先ずは心が飲まれないようにと呼吸を整え、心を落ち着かせ、森の奥へと入っていく。夕刻の森は更に静けさと暗さを増していき、普通の人間ならば目を凝らして一歩ずつ慎重に歩かねばならない程になっていた。タケトは左目を集中させ、暗視と妖気探知を同時に行いずんずんと進んでいく。我ながら成長したものだと、タケトはちょっとだけ自信を得た。

しかし、見つかるのは野生動物ばかり。妖気など欠片も感じない。ほんとは野生動物を見間違えたのではないか?そう思い始めた時、彼らに出会った。後ろに突然現れた気配。バッと振り向き臨戦態勢に入る。そこにいたのは二人の男性。一人はオールバックにサングラス。黒いスーツを着ていた。もう一人は金髪で長髪、派手なシャツを気だるそうに着ている。そして、その髪で右目が隠れている。タケトは瞬時に思考を巡らせる。その中で師匠の教えが頭を過る。


「戦いとは、始める前に八割方終わっている。経験を積めばわかるさ。相手のレベル、戦い方、周囲の状況、あらゆる事を考慮して有利に持っていけるように尽力しろ」


自分には経験が無い。そこは圧倒的に不利だ。しかし、師匠お墨付きの思考速度と判断能力がある。目の前の二人をしっかりと観察しようとする。すると、男たちが喋りだす。

「なんでこんなとこにガキがいるんだ?」

金髪ロン毛が言う。

「失礼ですよ。気になるなら、ちゃんと話を聞くのが筋でしょう」

オールバックが言う。

タケトは、まだ判断しかねている。だが、ある予想が浮かんでいた。二人とも目を隠している。もしかしたら、男たちは術師かもしれない。師匠の言葉を思い出す。


「師匠って普段は髪を束ねてるのに、仕事の時はほどくんですね?」

普通は逆なのでは?という疑問だった。

「ん?なんだ?ほどいてた方が好みか?」

いたずらっぽく言うヒジリ。マヤが「そうなの!?」とびっくりしている。ので、真顔で違うと否定した。そんなことはない… と思う。

「はは。すまんすまん。これは呪い対策さ。呪いの中には『視線を合わせる』が条件のやつもあるからな。そういう簡単なやつは大したものではないんだが、実力が拮抗してると、その『ほんの少し』が大きな差になるからな」

予想に反してまともな、そしてかなり重要なことだった。幻術、金縛り、能力低下、思考阻害、様々なモノが予想できる。故に、しっかりと胸に刻み込む。そんなタケトを見てヒジリが言う。

「その力、絶対に人に使うなよ?」

もちろん人間を傷つけるつもりはないが、一応理由を聞く。

「お前は言わば半人半妖の不安定な存在。実のところ、協会でも意見が割れた。協会内にはな、呪いに侵された人間は即処分って過激派がいるんだ。だから、マジで気を付けろ。正直、守りきれる自信は無い」

いつも自信過剰ではないかと思う程の言動の師匠の、まさかの発言だった。それ故、マジでヤバいのだとしっかりと理解した。

「あぁ、あと例外があってな。呪詛師って知ってるか?」

呪詛師、人々を呪うことを生業とする人々。それは人々を救うことを目的としている協会とは別にある存在。もちろん敵対関係である。だが、皮肉なことに彼らの存在があってこそ協会が必要不可欠な存在になり、政財界と親密な関係を得られることに繋がっている。呪詛師から見れば協会もそういうものなのだろう。とても嫌な需要供給、ウインウインの関係だ…

「呪詛師相手の場合は遠慮するな。あれを人とは思うな!」

師匠の言葉は強く、重かった。



(目の前の男たちは何だ?)

タケトは考える。自分の動向次第で自分だけではなく、師匠の立場も大きく変わる。責任は重大なのだ。

「おい、坊主。こんなことで何してる?」

一見、短絡的に聞こえるが、その質問はベストチョイスだと思った。実に一般的な質問だし、仮に彼らが呪詛師だった場合『質問に答える』が呪いの発動条件の可能性も有り得る。だが、協会の人間であった場合は下手なことを言うと反感を買うかもしれない… 後ろに師匠が控えている安心感もあり、ここは正直に答えることにする。

「ここの村人の依頼で、妖怪の調伏に来ました」

品定めをするような雰囲気の男たち。今度はオールバックが言う。

「あなたが? 妖怪の調伏ですか? 半妖のあなたが?」

サングラスを右手でくいっと上げる。グラスの奥からは見えないはずの視線が鋭く刺さる。どうやら、こちらのことは気づいているようだ。

「僕は、僕の名前はつくもタケト。最近、協会に登録しました。一尺八寸かまつかヒジリの弟子です」

この言葉で空気が一変した。悪い方に…

「あなたがそうですか…」

「そうかそうかそうか。なら、しっかりと『挨拶』してやんねーと、なっ!」

金髪が鋭い蹴りを撃ってくる。タケトはギリギリでかわすと、そのままダッシュで逃げた。

(師匠! どーゆーことっすか!? もしかして、同僚にめちゃくちゃ恨まれてる?)


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