開怨《かいえん》
「またかよ。今回はパスだ!」
「そんなこと言わないでよ! 今回は本物だって! 叔母さんのノート覗き見して確認したんだから!」
下校途中の近所の神社。その敷地内の東屋で、少年少女が仲睦まじく語らう。と、遠目にはそう見えるだろう。この赤毛混じりの茶髪をポニーテールにしている小柄な少女の名は御薬袋マヤ。根っからのオカルトオタクで、霊が出ると噂を聞けば小遣いをつぎ込み遥か県外にも遠征するくらいの熱中ぶり。隣で嫌そうな顔をしている、真ん中わけのすらっとした体型の少年の名は白タケト。彼女の幼なじみで昔から仲が良く、いつも一緒に遊んでいた。彼女の趣味にも寛容で、しっかりものの彼はある意味お目付け役として『遠征』にも付き合っていた。しかし、彼らも中学生となり来年は受験を控えている。今のところ霊という存在を確認したこともない。将来のことも考えて、少年はそろそろこの趣味を『卒業』したいと思っていたのだ。
「叔母さんのノートを覗き見って… お前、いつかほんとにシメられるぞ…」
「絶対内緒だからね!」
彼女の叔母さんは有名な霊能力者で、依頼を受けては全国各地を飛び回っているほどだ。最近、仕事が一段落して帰ってきていると聞いていた。だが挨拶には行っていない。タケトたちは昔、そのノートを覗き見てひどく怒られた思い出がある。というか、すげえボコられた。それ以来、ちょっとあの人が苦手なのだ。
「でね、雛坂トンネルの怨霊って噂があって、叔母さんのノートにもその記述があったのよ! これ、絶対出るってことじゃん!」
「それって逆に言えば、あの人が行くくらいヤバい場所ってことだろ? 俺らには荷が勝ちすぎるわ」
彼らには霊感は無いが、それでも叔母さんが本物であることは理解していた。故に、そのノートの信頼性はその辺のホームページの情報などとは比較にならない。初めて出会う霊がとんでもない凶霊なんて勘弁願いたい。
「大丈夫。だって『D』ってチェック入ってたもん。ランクが上から4なら問題なし! ね?」
目を輝かせて訴えてくるマヤ。彼女に対して友人以上の感情は持ち合わせていないタケトだったが、毎回この目に押し負けてしまうのであった。
(仕方ない。念のため叔母さんに書き置き残しておくか…)
彼女の行動力は凄まじく、了解を得るやいなや直ぐ様交通機関を調べ、今夜8時に駅前集合と言って駆け出すのだった。
(あの行動力を勉強にも向けてくれたらなぁ…)
それは彼女の家族も同意である。