【SSコン:段ボール】 用途
ここは、ある木造建築の一般的な一軒家。
二階建てのその家のベランダには、大量の雑巾のような物が干してあり、大掃除でもしたのか、と言ったところ。
家主は手入れをしていないのか、庭は雑草で埋め尽くされており、一部の者が見たら発狂するであろう光景が広がっている。
そんな一軒家に、一人の宅配員がやってきたのだった。
ピンポーン
インターフォンが鳴った。
何度も鳴らさず一回だけなことから、彼でないことは確かだ、恐らく頼んだ品だろう。
こう考えると、ピンポンダッシュなるものをしていた彼が如何に非常識だったのかが浮き彫りになってくるが、今は関係ない事だろう。
そも、彼はもう死んでいる、考えるだけ無駄であった。
「はい」
『宅配でーす』
「少々お待ちください」
まともに人と話すのは何時ぶりだろうか?最後に買い出しに行ったのが二ヶ月前だから、シンプルに二ヶ月ぶりだな。荷物の受け取りのための事務的なやり取りにすぎないが、会話が苦手な僕からすれば、感動を覚えてしまうのも仕方がないと思いたい。
玄関を開け…おっと、いけないいけない、手を拭くのを忘れていた。軍手でもしていれば良かったのだろうが、咄嗟の事でそんな暇はなかった。
その後にでも付けられたが、集中すると物事が疎かになるのは悪い癖だ。直したいとは思うが、中々難しい。
ポケットからハンカチを取り出し、手に付いた汚れを拭き取る。
これでいいかな。
ガチャ
「あ、○○様でよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「こちらにお願いします」
「…?……ああ、印鑑ですね。えっと、確かここに。はい、これで」
「ではこちらを。ありがとうございましたー」
「よっと。いえいえ、こちらこそ」
ガチャリ
久しくネット通販なんて使っていなかったから、なんだか新鮮な気分だ。本当に一日でつくとは思わなかったが、有難い。これで腐らせずに済む。
リビングまで運び、上部に貼り付けてある諸々を剥がし、開封。
ガムテープというのは、やはり便利な物だ。粘着性・コスパ、それに持久性?だろうか。道具として非常に理にかなっていると言えるだろう。
中から取り出したのは、最近CMでよく見る掃除機。見た目にそぐわぬ軽量さ と、強力な吸引力が売りの新型だ。
性能はあまり興味はなかったが、どうせ買うのであれば、“良い物”の方がいい。
掃除機を置く場所を探す。
何も決めていなかったから、どこに置けばいいか全くわからない。一先ず部屋の端に置こうか。いやしかしあそこには今物が置いてあったな。
仕方がない、リビングの壁にでも立て掛けておこう。
よし、まあココでいいだろう。
そうだ、ふと思ったが、先程ガムテープが優秀だと思ったが、ダンボールもかなり優秀な道具なのではないだろうか?
耐久性は勿論のこと、耐水性…は、語弊があるか。金属やゴムなどには遠く及ばないとはいえ、十分過ぎる耐性を有している。
頼んだ物は掃除機だったが、これが冷蔵庫や洗濯機などでもダンボールを利用するのだから、その優秀さが伺える。
道理で蜜柑や柿等など作物を送ってくる時、こいつを使うわけだ。
ショッピングモールでも大量に使えるようにもなっているし、用途が多くて頭がいっぱいになる。
知り合い一人一人に使い方を聞いたら、面白いことになるんじゃないだろうか?
どうせ暇なのだし、やってみるのも面白いかもしれない。
ああ、そうだ早く作業を終わらせなければならないんだった。こんな事を考えている場合ではない。
思考も何か、散り散りになっているし、疲れているのだろう、日が暮れない内に終わらせなければ。
うん。
でも、もし自分がそんな事を聞かれたらどう答えるだろうか?
少し前だったら、「蜜柑入れ」とでも答えるのだろうが、そうだな。
少し文脈がおかしいかもしれないが、多分、こうだな、
「ひと一人隠れるぐらいなら、可能なのではないだろうか?」
男の着ているズボンは、ケチャップでも零したかのように、赤く染まっていた。