2-B
そこはどこかの会議室。
「どう思うね?」
ブラインドの隙間から外の様子を窺いながら、立派なスーツを着た男――仮にAと呼ぼう――が、低い声でそう言った。
表情は、深刻そうだった。
今後を憂いている、そんな表情だった。
対して、デスクを挟んで立っている男――こちらはBと呼ぶが――は、どこか困惑している様子だった。
Aと比べていくらか気弱そうに見えるのは、その困惑した表情のせいか。
室内が暑いせいか、あるいは他の要因が原因かはわからないが、汗を流している。
それがまた、困惑と気弱さを印象付けていた。
「は……そうですな……」
懐から取り出したハンカチで汗を拭いつつ、Bは言った。
「可愛い、のではないかと……」
ぴくり、とAの肩が動いた。
それをどう受け止めたのか、Bはまくしたてるように続けた。
「……可愛い、かね」
「は、はい……! まずお兄ちゃんを起こしてあげようという優しさ。そしてベッドに潜り込んで来る悪戯心。私が起きた時の悪戯が成功した子どものような笑顔。可愛すぎますねえ……!」
「そうだな。確かに可愛い」
「そうでしょう。そうでしょう……! それに重いと言われて頬を膨らませましたな。あれは反則技です! 私が会社に遅刻しそだと慌てる顔も反則技でしたな! それに何と言っても最後のおはようが」
「馬鹿者!」
「……!」
不意の怒声に、Bが両肩を上げた。
Aは気を鎮めるように嘆息すると、背中を向けたまま言った。
「確かに可愛い。しかし大学生にもなって、他人の、しかも男のベッドに潜り込んでくるのは不味いだろう」
「し、しかし兄妹ですし」
「お互いにもう良い年齢だ。慎みを持つべきだし、弁えるべきだろう。ここは兄として、毅然とした態度で臨むべきだ」
「な、なるほど……」
ぐうの音も出ない正論に、Bは汗を拭きながら頷いた。
肩越しにそれを見たAは満足そうに頷くと、再びブラインドの隙間から外を眺めた。
その表情は決意に満ちていた……。
◆ ◆ ◆
「お兄ちゃん、明日も起こしてあげようか?」
「ぜひお願いします」
やっべ。
言えるわけがないんだよなあ(え)