2-A
――――重い。
奇妙な重みを感じて、目が覚めた。
目を開けると、まず目に入ったのは新居の天井だった。
外は朝になっているのか、カーテンからは柔らかな陽光が射し込んできていた。
起き抜けのぼんやりとした意識で感じたのは、やはり「体が重い」ということだった。
息が苦しいとか、金縛りとか、そういう類の感覚じゃない。
ただ単純に、何かが上に乗っている、という重さだった。
そしてそれが何なのか、わざわざ確認しなくとも理解できた。
「……重い」
「あー、酷ーい。そんなこと言うんだ」
視線を下げると、美少女がいた。
それとも、もう大学生だから美女というのが正しいのだろうか。
しかし自分としては、彼女はいつまで経っても「幼い」という印象が拭えなかった。
だから美少女で良いのだと、そんな意味のわからないことを考えてしまった。
陽光に透けるさらさらの黒髪に、ぱっちりとした目。
すっと通った目鼻立ちに、きめ細かで白い肌。
華奢で、肩幅や腰など少し力を込めて抱き締めれば折れてしまいそうだ。
そんな美少女の満面の笑顔が、起き抜けに見られるのだ。
なるほど。重いと考えてしまう方が罰が当たるのかもしれない。
「重い」
「はああああっ!? ぐえっ」
上に乗っていた妹を布団にくるんで、ベッドの端に転がした。
まさに憤慨!、と言わんばかりに怒っていた妹だったが、今は布団の中でもがいている。
「こらーっ」
と思えば、あっさりと布団を跳ね上げて来た。
まあ、縛ったわけでもないから当たり前だが。
妹は見るからにご機嫌斜めだった。きっとした目で俺を睨んで来たかと思えば。
「エプロン着けてるのに、お布団にくるんじゃダメでしょ!」
「ええ……」
先に寝転んで来たのそっちじゃん……。
喉まで出かかった言葉は、口には出さなかった。
「あっ」
と声を上げて、彼女の方が離れてしまった。
彼女は「大変!」と続けて声を上げると、ベッドから下りて。
「もうこんな時間! 遅刻しちゃうよ、お兄ちゃん!」
と、いきなりバタバタとし始めた。
クローゼットを開けた――それはもう、実に躊躇なく開けた――かと思えば、俺の着替えを引っ張り出したりした。
もっとも、当の俺は頭を掻いて、実にのんびりしていた。
それにむっとした表情を見せた妹だが、何かを思い出したのか、不意に破顔して。
「おはよう、お兄ちゃん!」
と言って来た。
俺はというと、やはり頭を掻いて「ああ」と応じるだけだった。
この妹も、毎朝よくも飽きもせずに起こしに来るものだ。
朝起こしに来てくれるって、素晴らしいよね!