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剛堂先輩来襲

 1限目が終わった。と言っても、今日は初日なので授業はなく、4限目までずっとオリエンテーションやらHRをやるそうだ。


 アタシは周囲を見渡してみる。

 どうやら同じ中学から来たと思われる人達が、ひとかたまりになって会話を始めている。

 そうでない人達は、遠慮がちにキョロキョロ周りの様子をうかがっている。


 アタシも同じ中学から来た子は何人かいるけど、同じクラスにはいないんだよね。

 よし、これはチャンスだ。というより、ある程度グループが出来てからでは輪の中に入りにくい。勇気を出すのは今なのだ!


 さっきからアタシのことをチラチラ見てる男子は放っておいて、っと。

 アタシはさりげなく、隣の席で控えめに話しかけられるのを待っている素振りの女子を選んで話しかける。


「えっと、アタシ三中から来たんだけど…… どこ中出身?」

 よし、バッチリだ。さりげないぞ、私! ふふっ、実は入学する前、何回もこの場面を脳内でシミュレーションしていたのだ!


「あっ、えっと、私はね——」

 隣の席の控えめな少女が口を開いたその時——


——ガラガラガラ


 教室のドアを乱暴に開ける音が聞こえてきたので振り向くと……


「おお、相田! なんだここにいたのか。探したぞ!」

「ご、剛堂先輩…… なぜここに?」


「ん? いやだなあ、さっき言っただろ? 『また後でな』って」

「いやいや、後って言っても、早すぎでしょ? 4限目終わったら、ちゃんと音楽室に行きますから」


「いや、それでは遅いんだよ。ここじゃあなんだから、ちょっと廊下で話をしようか?」

 剛堂先輩はそう言うと、またアタシの襟首をつかんでズンズン廊下へと力強く歩みを進めた。


 振り返ると、隣の席の控えめな少女の笑顔が凍りついていた……


「ちょっと、剛堂先輩! アタシに友達が出来なかったらどうしてくれるんですか!」


「ん? それなら私が友達になってやろう」

「アンタ、何年留年するつもりなんだよ!!!」

 アタシの虚しい叫びが教室中にこだました……



「ちょっと剛堂サン、まずいっスよ」

 教室の外にはサチさんが待機していた。そして——


「剛堂サンが1年の教室に入って行ったら、みんなビビって入部希望者なんて一人も現れませんよ」


「ん? そういうものなのか?」

 ポカーンとした顔で剛堂先輩が答える。


「まったく剛堂サンは…… まあいいっスよ。おいナツ。いいか、あたしらには時間がない」

「その割には、今朝二人でずっと喋ってたじゃ…… サーセン。次、お願いします」

 サチさんにメッチャ睨まれた…… 怖い。


「うむ。とりあえず、今日の放課後に出来るだけ多くの新入生を音楽室の前まで誘導したい。今日は午前中で終業だから見学は無理だろうけど、とにかく一人でも多くの新入生にツバをつけときたいんだ」


「ツバって汚い…… いえ、なんでもないです。じゃあ、とりあえず、次の時間にでも同じ中学から来た元吹部の子達のところへ行ってみますんで、もう絶対ウチのクラスには来ないでくださいね。絶対ですよ?」


「おいおい、久保田は相田にえらく嫌われてるな」

 間違いない。剛堂先輩はアレだ。天然ってヤツだ。


「ハイハイ、わかったよ。でも遠くから見てるからな。絶対サボるんじゃねえぞ」

 サチさんはアレだ。血も涙ない鬼ってヤツだ。うん、それは前から知ってたけど。


 またチャイムが鳴ったので、やっとバカな先輩達から解放されたアタシは自分の教室に戻った。教室に戻ってみると——


 男女の別なく、アタシと目を合わそうとする人は一人もいなかった……



♢♢♢♢♢♢



「なんか今日の放課後、サチさんから話があるんだって」


 アタシは不本意ながら、バカな先輩2人の命令に従い2限、3限終了後、同じ中学から来た元吹奏楽部の友達、モモコとアンズのところに向かい、特にバカな方の先輩の意向を伝えた。


 もちろん、出来れば吹奏楽部に興味がありそうな人も一緒に連れて来て欲しいということも付け加えた。

 出来るだけ多く、とにかく大勢連れて来て欲しい。アタシはこの点を強調した。


 だって、もうバカな先輩達にアタシの教室に来て欲しくないんだもん。誰かアタシの代わりにあの先輩達の餌食えじきになってくれ。アタシは心からそう願った。


 4限が始まるチャイムが鳴った時、サチさんがアタシに向かって駆け寄って来た。

げっ! この人ホントに遠くから見てたんだ。

 アタシは慌てて、飛び蹴りに対する防御の構えをとったのだが——


「あれ? オマエ何してんの? そんなことより、あたしはオマエのこと、ちょっと見直したぞ」

 ホントに見てやがったんですね、この人。


「あんなに熱心に、多くの人を集めて来いと言うとは…… オマエはホントに立派なヤツだ」

 なんか勘違いしてるぞ? アタシはアンタらと早く縁を切りたいだけなんですけど。


「なあ、次の時間って自己紹介とかするんじゃないか?」

 そうなのだ。なんでも4限目はHRとかで、みんなで自己紹介をするって、さっき担任の先生が言ってたのだ。


「オマエにいろいろ仕事頼んじゃったから、まだ何話すのか考えてないだろ? オマエの名前『相田』だから、たぶん名簿1番かなって思って」

 そう言ってサチさんは、小さく折りたたまれた手紙のようなものをアタシに手渡した。


「あたしとオマエは長年の付き合いだ。オマエの良いところや好ましい特徴なんかは、あたしが一番よく知ってるさ。そういうところをさりげなく織り込んだ自己紹介文をこの紙に書いておいた。困った時はこれをみんなの前で読み上げりゃあいいぜ」


「サチさん…… あなたって人は……」


「よせやい、照れるじゃねえか。おっと、こりゃホントに早く行かないと遅刻だな」

 そう言うとサチさんは、全力疾走でアタシの前から姿を消した。


 ああ、サチさん。あなたはやっぱりアタシの姉貴分だ。さっきは縁を切りたいなんて考えてゴメンよ。


 そんな感傷に浸りながら自分の教室に戻ると——


「おい相田。入学初日から遅刻するとはいい度胸だな」

 お怒りのご様子で担任の先生が待っていた…… なんだよ、サチさんのせいで遅刻したじゃないか……

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