20.冒険者ギルド
剣の修道女。
サヤ視点
「最近兵士の動きが活発らしいじゃないか」
「物騒な話だ。武器商人の倅も剣の注文を断りきれずにヒィヒィ言ってたぞ」
「戦争でも、おっ始める気かよ」
「今回も獣人狩り程度の小事であって欲しいもんだ」
「ちげぇねえ」
外壁の外。
街の入門審査の待ち列に並んでいると、気になる会話を耳にした。
武器を集める兵士達。
防衛強化の一環か、はたまた噂の通り戦争でも始める気なのか。
どちらにせよ、人同士の争いに興味はない。
むしろ、僕達に関与しないなら好きなだけ殺しあってくれて構わない。それが自分達の選んだ道なのであればだが。
彼らの話によれば人と名のつくものを狩るのが常識として根ずいているらしい。闘争ではなく狩り。
何とも胸くその悪いことだ。
しかし、この世界の情操観念を調べておく必要があるのもまた事実。
いい気はしないが、僕は列に並ぶ人達の会話に耳をそばだてた。
「この前の獣人狩りで奴隷も増えたんだからそいつら肉壁にして戦うんじゃねぇか?」
「前より安価になって、軍の懐も痛まないし、何より兵が死なずに済むもんな」
「ま、戦争があればの話だがな」
「ないに越したことはねぇ。平和が一番だよ」
◆◇◆◇
列も順当に解消されていき、しばらく経つと僕の番がやってきた。
門番を務める兵はボードに何かしらを書いた後、僕に目を向け訝しげな表情を浮かべる。
「子供が1人…………保護者は何処だ」
随分と野太い声をしたおじさんなこと。
一人で来たなんて言ったら余計怪しまれてしまいそうだ。
気乗りはしないが、ここははぐれた子供のふりをしておこう。
見た目的には修道服を着た幼女なんだし。
「生憎とはぐれてしまってね、探して回ったんだが、どうやら先になかへ入ってしまったらしいんだ」
「迷子だろうが知ったことではないが、身分を証明するものはあるのか」
ポーカーフェイスのまま兵士が凄んでくる。
でも、子供相手にきちんと対応してくれるなんて怖い顔して真面目だな。
「はぐれることなんて想定外でね、おっちょこちょいのシスターに預けたのが間違いだったよ」
僕の服装は修道服。なら、連れもそれ関連じゃないといけないだろう。
「シスターが通った記録はないが?」
「今日は非番で私服だったし、シスターと言っても入ったばかりの見習いで、まだ職業って訳でもないから村人と判断つかないんだよ」
「……まぁいいが、ないのなら通行料として銀貨1枚支払ってもらう」
「これでいいかな?」
僕は、ウルドラから持たされていた貨幣の中から銀貨を取り出した。
「念の為に忠告しておくが身分証もなしに問題を起こせば奴隷落ちになる。連れを探すにしてもまずは再発行してからにしろ」
「ご忠告ありがとう。ちなみに、発行はどこでして貰えるのかな?」
次の人を呼ぼうとするのを遮って質問すると、兵はめんどくさそうな顔をした。
「ここでも出来るが手間な上に金がかかる。冒険者ギルドに行けばギルド登録証を作ってくれる。身分証にもなるからそこに行くといい」
「重ねて礼を言うよ。ありがと」
僕は軽く手を振りながら雑多な街に溶け込む。
冒険者ギルドには用があるからその時に登録しよう。
今後猫が何処かに行きたいなんて駄々をこねられるかもしれないし。
って言うか、女神様が気にかけてるから意識しないようにしてたがなんであの猫喋れるんだ?
◆◇◆◇
流石人の賑わう大通り。
端にはずらりと奥まで屋台が営まれ、活気溢れる呼び掛けと、食欲を掻き立てる香りで溢れていた。
さぞかし彼女ならば、人目もはばからずに興奮を顕にしていた所だろう。
「これぞファンタジー、とか言いだしそう」
しかし、僕の興味を引くものは特にない。
食事を必要としないせいか、立ち込める香りにも何も感じない。
そそくさと脇道にそれて、ギルドを探す。
地図ももらっていたため迷うことも無い。
幸いギルド自体も仕事柄か外壁の近くに建っていたのですぐに着いた。
二階建てで簡素な作りの建物。
入口の横には剣と盾を鎖で繋いでクロスさせた看板がついていた。
ここだね。
扉を開けた拍子に立て付けの悪さから音が出たが、中の喧騒に揉み消され、気にする人など居なかった。
中に入ってみると確かに民度は低く、汗臭さと血の臭いが混ざって異臭がしている。
室内で生温くなった空気が余計に不快感を煽ってやな感じだ。
冒険者ギルド。
魔物との戦闘を主な仕事内容とした組織で、掲示板に貼られた依頼を達成すると報酬を貰える。
依頼内容はピンからキリまであり、街中の手伝いから手強い魔物を討伐したりと手広くやっているらしい。
しかし、戦闘を職にするぶん荒くれが多いため、しばしば揉め事も起きていると聞く。
ダンジョンマスターで引きこもりなウルドラの情報なのであまり信用はしていないがね。
用事があるのは冒険者ギルド直営の卸し市場だし、依頼に関して言えばこれからも僕が関わることはないかもね。
騒々しさに耳をふさいでカウンター横に大風呂敷を広げている所に行く。
ここが卸し所。
安くで魔物の素材を卸しており、直営だからこそ交渉次第では代金の代わりに依頼を受けたりもできる。
並べられている品を見てみると、安い薬草、ボロボロの装備類、野営するのに必要な最低限度の道具等が無造作に置かれている。
見た感じウルドラが欲しがっているものはなさそうだ。
一応店員に聞いてみるか。
僕は商品を挟んで対面に腰かけるお爺さんに尋ねた。
「魔物の骨は売ってないの?」
お爺さんは首を傾げた。
「お嬢ちゃん、ここで売ってるのは見ての通り、主を亡くした装備品と旅路に使う道具だけだ」
「やっぱりこれだけなんだ」
「冒険者が色々持ってきたりはするが、骨なんかの装備になる部分はここじゃなくて武器屋なんかに直接卸してる。肉等もそうだ。依頼の出てない盗品や依頼中に死んだ冒険者の所有物はどこにやっても大した額はくれないからね」
笑いながらそう言ったお爺さんはパイプタバコをふかしてどっかりと床に座り直した。
無駄足を踏んだ。
ウルドラの奴、帰ったら腕1本切り落としてやる。
なんだかどっと疲れがきた。
登録だけして早くこんな臭い場所からトンズラしたい。
「登録はカウンターで?」
「なんじゃお嬢ちゃん冒険者志望か?」
「冒険者にこだわりはないけど、今度友人と旅をするのに身分証は必要かなって」
「その理由なら冒険者はやめた方がいい。世間的にいい見方はされないぞ」
「ギルド職員がそんなこと言ってもいいの?」
「老いぼれじゃから、思ったことが考えるよりも先に飛び出してしまう。口止めの仕様はないわな。はっはっ!」
ニカッといい笑顔で答えてくれるお爺さん。
快活な人だ。この笑顔を無下には出来ないな。
「身分証は友人と役所で作ることにするよ」
「そうするが良い」
「ありがとね。お礼にこれ買っていくよ」
そう言って手に取ったのは鄙びた安価の薬草。
今回街に来た理由の一つにギリギリ当てはまるし、このくらいの出費は無駄足踏んだ迷惑料として払ってもらわないと。
「すまないね、銅貨1枚だ」
「はい」
僕は茶色の貨幣を手渡し、最後に薬草と魔物の骨を売っている場所を聞いてギルドを去った。




