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14.提案

 ア゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァぁぁぁぁ!!

 ―――――――――――――――――

 名前:未設定

 年齢0

 種族:リッチ

 Lv.1

 ―――

  パラメーター

 HP:2300

 MP:900

 筋力:600 瞬発力:300

 防力:400 魔攻力:1100

 ―――

  スキル

 火炎魔法Lv.2 氷結魔法Lv.2

 封絶魔法Lv.1 探知Lv.3

 ―――

  称号

 ダンジョンモンスター

 アンデッドキング

 魔導師の成れの果て

 ―――――――――――――――――


 接近してくるリッチは咆哮し、己の存在を誇示するように声を張る。空虚な眼孔には朱の光を漂わせ、侵入者を屠るために邁進してくる。

 しかし、私は恐怖に気圧されて行動するのが遅れてしまった。

 リッチの翳した手から炎弾が出現。

 主をおいて熱量の塊が無遠慮に放たれた。


 ちょっ!


 紙一重のタイミングで躱すも、進化して下がってしまったステータスでは余波だけでも十分脅威となる。

 現に、身体の至る所は焼け爛れ、声にならない悲鳴を産む。

 転生初の激痛に喘ぎ、戦闘への恐怖を煽る。

 もともとはただの学生。戦闘の経験もない。

 大切に育てられてきたただの子供なのだ。日常の中で火に炙られた経験などあるわけもなく脳はパニック寸前。

 しかし、敵は待ってはくれない。

 浮遊している故に地面の毒水では足止めにもならず、接近を続けている。

 あまりの痛みに意識が飛びそうになるが、なんとか持ちこたえて、隠蔽で自分を隠す。

 だが、この体ではまともな移動は困難。

 目の前で隠れても見過ごされるなんて考えられない。

 HPもギリギリだ。

 早く、この窮地を脱せる方法を考えなくてはいけないのに、頭では「どうしよう」と連呼して何も浮かばない。


 急に消えた獲物に、リッチは動きを止めて朱の眼光を強めた。

 反射的に息を潜めて、丸くなる。

 何か、使えるスキルはないか。

 呪眼、は格下にしか通用しない。毒付与は魔法との兼用でしか今は使えない。

 相手は高名な魔術師の成れの果て。

 魔法を形成するには自身の近くでないといけない事を知っている。まず間違いなく居場所がバレる。


 でも、風魔法なら…………駄目だ!今のステータスでは一撃では倒せない!


 数を撃てば居場所はバレてしまうし、移動を頻繁にしてしまうと足元の小石の動きで気取られる。そうなった場合この怪我では攻撃を避けられるとは限らない。

 効果は未知数だがせめて限界突破を使えればよかったのにレベルが1の状態じゃ無理だ。

 一体、どうすれば……。

 パニックになりつつある中、無慈悲にもリッチは次の手を打ってきた。

 先程の炎弾を行使した時と同じように手を掲げる。

 私が“寸前までいた場所に向けて”。

 ぁ……。

 久方ぶりに覚える絶望感に胸を締め付けられる。

 打つ手なし。

 光明は見つからず、這いずる体が足を引っ張る。

 見えない壁と毒水に退路は阻まれ、味方はおらず、敵は着々と攻撃の準備を整えていく。

 タンパク質の焼ける臭いに不甲斐なさを覚え、同時に激高する。

 まだ死ねないのに…………死ぬわけには行かないのに!

 歯を食いしばり、何もしてくれない神を呪う。

 いつも。







 いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!!!!

 あいつらは何もしてくれない!誰も救ってはくれない!

 私の親友をいたぶった挙句殺しやがって!!!

 ちくしょが!!ちくしょがぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!


 私は冷静さをかいていた。

 痛みも、状況も、全てを忘れて、ただ怒りに身を焼かれ、怨嗟の捌け口を求めた。

 この汚らしい感情が気持ち悪くて。

 目に止まったのは、醜悪に口角を歪めた髑髏の化け物。

 恨めしい。憎い。許せない。

 私は………………




 私が嫌いだ。

 ブチブチと嫌な音を立てながら、脚に力を込める。


 私は……親友の気持ちにすらきずけなかった私が嫌いだ!

 沸騰する意識下で、私は敵の前へと飛び出した。


 ◆◇◆◇


 ウルト・ドラル視点


「あーあ。まさか進化直後にリッチに襲われるとわ。猫も運が悪い」

「……おい」


 入口で奮戦する猫の傷つきように皮肉的な笑みを浮かべていると、横から怒りを孕んだ声がかけられた。


「どうした?別に君のペットでもあるまいし、そう怖い顔をしなくてもいいではないか」


 おどけた態度で軽口をきいてみるも、目の前の修道女は笑顔の睥睨をやめない。


「ペットだろうとなかろうとその所業はいただけないし、第一その猫は僕にとって必要な存在なんだけど」

「ほぅ、無機物が生者の所有権を主張するか。君もなかなか面白い所がある」


 ほんの一瞬、ぴくりと肩を震わせる修道女。

 どうやら挑発が、お気に召したらしい。


「つまらないことを気にするね?小物らしさが板に付いてきたんじゃない?」

「栄えある最難関ダンジョンのマスターに向かって小物だと?口は慎んだほうがいいぞ」

「振ってきたのはそっちじゃないか」


 肩を竦めて見せるその姿に苛立ちを覚えるも、同じ土俵に乗っては負けだ。


「我は当然のことを言っただけのこと」

「僕を無機物呼ばわりした時点で程度が知れてるって気づかない?」


 イラッ


「いい加減砕くぞ玩具」

「低能魔法使いのくせに力で勝てるとまだ思ってるの?また四肢をバラされたい?」

「あんな不意打ちは卑劣だと何度言ったらわかる!」

「卑劣ね。こんなジメッとした場所の管理者に矜恃があるなんて知らなかったよ」


 どちらも譲らず、言葉が熱を持ち始める。

 このままでは、埒があかず、話にならない。

 今のタイミングで来たということは奴も時間は惜しいだろうに。


「…………もういい十分だ。さっさと用件を言え」

「猫への余計なちょっかいをやめて」

「あの猫に酷くご執心のようだが、誤解だ。我に魔物の操作権限はない」

「あれは僕の目的を果たす鍵なんだ。魔物をどうにかできないなら2階層へ迎えに行ってよ」

「鍵か。だとするなら余計に分からないな。なぜ今すぐの保護ではなく一時放置を要求する?」

「自分で言ってるじゃないか。僕は猫の安全自体は望んでないからだよ」

「君は猫の味方ではないのか?」

「勘違いしないで。僕はあくまでも味方だよ」

「なら━━━━━━━━━━━━━━━

「だからだよ」」


 今までよりも語気を強められ、少し驚いてしまう。


「僕にとって必要だからこそ、この世界で自衛できる力と精神力くらいは養ってもらいたいんだ」

「その前にここで潰れるかもしれないぞ?」

「それはどうかな」


 そこまで言って修道女は初めて笑顔を浮かべた。嫌味たっぷりの、ではあるが。

 一体何を根拠にあの猫が下層へ到達すると踏んでいるのか知らないが、見た目が幼女なだけに悪い笑みもかわいく映ってしまう。難儀な事だ。


「その選択が本当に猫を思ってのことならば、同意は得たのだろうな?」

「同意も何も相手は猫じゃないか。どこかの馬鹿と違って話しかけたりしないよ」

「つまらぬ嘘を。聴いていたぞ、先程の会話」

「あれ、バレてたか」

「当たり前だ。我はこのダンジョンの管理者だぞ?」

「ふ~ん……まぁいいや。それで、迎えの話は受けてくれるのかな?」


 実入りのない話だし、受けるメリットはない。

 しかし、唯一の話し相手に機嫌を損ねられるのもバツが悪い。

 実質ノーリスク。迎えくらいなら引き受けていいかもしれない。


「…………一つだけ聞くぞ」

「何かな?」

「2階層に到達できるかも怪しい中、なぜ危険が迫ったらの確保じゃないのだ?」

「単純に、猫が負けるなんて思ってないからだよ」

「…………そうか。ま、我が詮索することでもなかった。いいだろう。猫のお迎えは任された」

「そっか、良かった。魔法使いの刺身を作る手間が省ける」

「言うな。あくまで迎えに行くのは二階層だ。無事に会えることを願っている」


 鼻を鳴らして不敵に笑って見せるも、予想に反して芳しい反応はない。


「会えるさ」


 ただ、修道女はそう言い残して姿を消した。

 室内に静寂が帰還する。

 椅子に腰掛けつつ、ダンジョンの管理者は天井を仰ぐ。


「嗚呼、なんでこうも上手く話せないのか」


 彼女は、6歳の頃にこのダンジョンに捨てられ、それから4年間人と会話せずに暮らしてきた。

 もともと村でも望まぬ才能のせいで悪魔の子と呼ばれ両親からさえ迫害されてきたのだ。

 まともに人と打ち解けるには、まだ、時間が欲しい。


「だいたい奴も奴でなんなのだあの態度!人に対する毛嫌いが酷すぎる!一体何をされて育てばあんな性格になるんだ!」


 愚痴をこぼすようについ呟いてしまった。

 しかし、聞かれたところで何にもならない。

 せいぜいが挑発と取られて終わりだ。

 だからか、思った言葉がつい出てくる。


「あの堅物があそこまで豪語する根拠とはなんだ?」


 意味不明な自信を示され、思案顔をしていると、突如頭に流れたアナウンス。その内容に嫌な汗をかいてしまう。

 我のダンジョンにいる2名の来訪者。

 その両方から悪寒を感じた。


「力をつけて欲しい?何を馬鹿な」


 いったい何処の猫が、

 人でも希優な者しか扱えない魔法を自在に操り、

 100匹近くが犇めくモンスターハウスを壊滅させ、

 あまつさえ、我が特別にアイテムを持たせていたリッチを翻弄するというのだ…………。


 あいつは何を招いてくれやがった!

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