89 解呪完了!!
「うぅ……ん、あ、アレ?」
ネーヴェリクは、きつく閉じていた瞳をゆるゆると開く。
湯船の中でたゆたう彼女の身体に刻まれた呪いの魔法紋は端っこから少しづつほどけるように消えていっている。
どうやら、ルシーファの風呂の残り湯で呪いの解除は問題無いみたいだった。
あの嘘つき女、時々、本当のことを言うから質が悪いぜ。
多分、ウチに天使が居るとは思ってなかったからサッサと本当のことを吐いたんだろうな。
「ネーヴェリク、大丈夫か?」
「カイトシェイド……さま? え? お湯……デスか?」
「まだ起きなくて良いから、そのまま入ってろ」
俺は、起き上がろうとしたネーヴェリクをそっと止める。
一応、俺が頭の後ろを支えているから、彼女がお湯に沈んでしまうことは無い。
しかし、天使って便利な種族だったんだな……流石、ウルトラ・レア。
この風呂の残り湯『呪いクリーナー』として売り出せそうな勢いである。
特に、ルシーファがその小さい手のひらに掬い上げたお湯を魔核に直接注ぎかけると呪いの崩壊が早まる。
それを何度か繰り返し、すべての呪いが綺麗に消えたところで、おずおず、とルシーファがネーヴェリクに声をかけた。
「あ、あの……ネーヴェリク……」
ふと、今までぼんやりと俺を見つめていた彼女の視線が横にずれる。
「その……魔王城では……いろいろ、いじわるなことを言って、困らせてしまって……ごめんなさい」
「……えーと? いじわる……デスか??」
あっ……ネーヴェリクの顔に「心当たりが無いし、この子は誰だろう?」って書いてあるな。
「あー……ネーヴェリク、コイツ、ルシーファだ。あの元・堕天使の」
「えっ!?」
ざばぁっ!
思わず浴槽の中で正座するネーヴェリク。
「え!? デモ、ルシーファ様、メガネが……無いデス?」
「あの……いくら、わたしでも、もともと入浴時にメガネは外してますよ……?」
ルシーファのヤツが、「……と、いうか、最初に言及される部分がそこなんですか? 貴方の部下の感性どうなってるんですか?」という不安気な顔で俺を見つめている。
……別に俺がいつもネーヴェリクの前でルシーファの事を「陰険メガネ」とか「メガネ野郎」とか「あのメガネ」って呼んでいたのが原因ではないと思いたい。
ネーヴェリクに今までの事情を話して謝ったところ、すごくさらっとルシーファの事を許してしまって、逆にルシーファの方が驚いていた。
何でも、ネーヴェリクが魔王城で色々イヤミを言われたり、虐められたりするのは日常茶飯事だったのだが、特にルシーファ自身から直接被害を被った記憶があまり無いのだそうだ。
「えーと、あの、ルシーファ様は、虐め方にオリジナリティや癖が無いと言うか……」
「……オリジナリティや癖……」
「おっしゃっていた事も、一応、事実は事実デスし……その、わざわざネーヴェリクを貶めるためだけに嘘の指示や失敗のでっち上げをしたりしないデスし……女性の悪魔の皆さんに比べると陰湿さが無くて大雑把で素直な方デスし、男性の魔族の皆さんと比べると腕力に訴えて来ない方なので……その、印象が薄いというか……」
「……印象が薄い……」
「ご趣味も、インドア派デスし、こだわりがお強いようデスので、全部ご自身で片付けまでやっていただけるので、放置できて楽というか……」
「……放置できて楽……」
「へー? コイツ、趣味なんてあるんだ?」
「ハイ、あの、読書とか、ハーブティー作りとか……あと、そのためにこっそりガーデニングされてマスよね?」
「うぐっ……!」
ほほぅ? 確かに、魔族にしてはずいぶんとお可愛らしい趣味だ。
「な、なんですか、カイトシェイド! そのニヤニヤ笑いはッ……!」
「いや、別に。いいんじゃねーか? ガーデニング。……ぷふっ」
なお、どうやら、一番、彼女にきつく当たるのはサーキュの部下のサキュバス達だったらしい。
ま、ネーヴェリクが嫌がるようなら誰であってもハポネスからは追い出すつもりだったし。
許されてよかったな。
「あー……その、俺、そろそろそっちを向いても大丈夫か?」
湯舟に浸かり、ひたすら壁の方を向いていたボーギルが疲れた声を出した。
「ご、ごめんなさい、ボーギル! わたしのお願いを聞いていただいてありがとうございます!!」
「あー、ちょ、ちょっと待て! ネーヴェリク、もう呪いは解けたな? よし、湯舟から出て服を着ろ!」
「ぼ、ボーギル様ッ!? す、すいません、ご迷惑おかけいたしマシた!」
さて、なんとか無事にネーヴェリクの呪いは解けたから、良かったけど……闘技場で寝こけてるサーキュの扱いをどうしようかな?
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