84 サキュバスの呪い
すると、ネーヴェリクはハの字眉をさらに押し下げて、困ったように微笑んだ。
「ね、ネーヴェリクは……大丈夫、デス……アンデット、デス……から、すこし、痛い……ダケで……くぅっ」
ネーヴェリクのヤツ……魔王城でもいつも虐げられていたから、苦痛耐性が強いのは良いんだが……
性格に攻撃性が無さ過ぎて困る。
少し痛いだけ、とか言ってるけど、鞭の痕が痛々しく全身に広がっている。
よく見れば、全身がずぶ濡れなのは、ルシーファの出汁みたいなまがい物ではない、れっきとした『聖水』を全身に浴びせられた為らしい。
さらに、太陽の光の魔力を練り込んだ鞭を使っている。
これらのやり方は、明らかにヴァンパイアを拷問するためのものだ。
お前……何も悪い事をしていないのに人間達から、ここまで理不尽に扱われたら怒れよ!
確かに、サーヴァント・ヴァンパイアと人間だと、人間の方が基礎ダンジョン・ポイントは高い。
だけど、せっかく『ヴァンパイア・プリンセス』まで育ててあるんだから……こんな、少女をいたぶる事を楽しむようなクズ野郎はさっさと『眷属化』して物事の常識ってヤツを教えてやっても良いんだぞ!?
くそ……俺が出かける前に、そこの所はきちんとネーヴェリクに言っておくべきだったぜ……
「ちょっと待ってろ! 今、回復してやるから……て、何だ? この紋は?」
ネーヴェリクを治療してから詳細を聞こうと思ったのだが、回復しようとネーヴェリクの魔核に手を当てた途端、その胸元に不吉な黒い魔法紋が浮かび上がって来た。
「くっ……うぅっ、うァっ!」
途端に身をよじって苦痛を訴えるネーヴェリク。
「!? ネーヴェリク、これは……一体?」
「はぁ、はぁ……か、カイトシェイド様、実は……」
ネーヴェリク曰く、なんと、サーキュのヤツがこの街に入り込んでいたのだ!
そして、この魔法紋はあの女が刻みつけて行ったものらしい。
……ちっ、流石に悪意に反応する結界だけでは補足しきれなかったか……
あの結界はマドラみたいな猪突猛進タイプにはよく効くんだが、サーキュみたいなヤツだと『悪巧みをしながら結界に触れる』くらいでないと反応してくれない。
おそらく、タイミングが悪かったのだろう。
「……で、俺のことを魔王城に連れ戻るのは諦めた代わりに、お前を狙っているのか?」
「……はぁ、はぁ……ハイ……おそ、らく……」
そう言えば、ルシーファのヤツも『俺を魔王城に戻して欲しい』と言う話を魔王様にしたら逆上して殺されたんだっけ。
あの脳筋魔王からは、昔から妙に敵視されてるなー、と感じてはいたのだ。
しかし、魔王城の管理を、俺ではなくネーヴェリクの方にやらせよう、と考え始めたのだから救えない。
自力で何とかしろよ。自力で!
……まったく、はた迷惑な。
ネーヴェリクの胸元に刻みつけられた魔法紋は一種の呪いだ。
これが有ると、ネーヴェリクを回復してやることも、進化させたりすることもできない。
だが、それよりも厄介なのは、この魔力紋……今この時もネーヴェリクの身体を侵食しており、これが全身に回ってしまうと、彼女が完全にサーキュの下僕となってしまう【絶対服従】の効果だ。
あの女、俺やネーヴェリクに【魅了】が効かないからって、解除方法がメンドクサイ方法を取りやがって!
その浸食を早めるためにも、ネーヴェリクを人間達にいたぶらせていたんだと。
……ゲスなヤツめ……
この解除方法は呪いをかけた主であるサーキュが『直接解除する』しかなさそうだ。
だが、あの性悪女、呪いをかけると、浸食が終わるまでは何処かへ姿を消したらしい。
「サーキュのヤツは何処へ行ったか分かるか?」
「も、申し訳、あり……ま、セン……ネーヴェリクには……」
苦しい息をしながらも僅かに首を振るネーヴェリク。
これは一旦、屋敷に戻ってダンジョン・コアで調べるか、ベータたちにも探索を手伝ってもらった方が早い。
俺はネーヴェリクを抱き上げると、地下牢で失神しているダーイリダ達を適当に魔力波で吹っ飛ばしながら牢にぶち込み、鍵をかけると、その鍵はギリギリヤツ等の手の届かない場所へとポイっと落とす。
……ネーヴェリクを虐めた報いだ。
そして、俺は自分の屋敷へとダンジョン内瞬間移動を発動させた。
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