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68 奥の手を使おう!


 何がどうなっているのかルシーファの奴に確認したかったのだが、「この子の治療が先!」と、カシコちゃんが四方八方にぶちキレまくってくれたおかげで、とりあえず、この神殿内にある天使用の部屋を俺達だけで使わせてもらえることになった。


 ……カシコちゃん……つおい……流石、S級冒険者だぜ。


 ルシーファは意識も朦朧としており、歩行すらままならない感じだったので、ボーギルに背負って貰って部屋に運び入れた。


 冷静に診察してみると、どうやら片方の翼は骨が折られているし、腱も引きちぎられており、結構重傷。

 しかも、そのまま簡易的な回復魔法で傷が塞がれていて、逆に厄介だ。

 

 咳の方も、単なる肺炎かと思っていたのだが、それ以前に瘴気による毒で肺にダメージを受けているトコロに、この神殿で「聖水づくり」の名目で、散々水責めにあったらしく、本気であと数日治療が遅かったらヤバいレベルだった。


 つーか、この神殿だと「聖水」って、馬鹿デカイ風呂桶みたいな樽に張った冷水に天使ルシーファを一刻くらい漬け込んだ汁をそう呼んで売ってるらしいんだけど……作り方、違うからね?


 出汁取ってるんじゃねーんだぞ?

 そんなことを連日続けさせたら、そりゃ、肺炎にもなるわ。

 

 さてどうしたものか……

 天使に限らないが、有翼の種族って翼が傷ついている状態で放置すると自己修復力が著しく低下するんだよな……


 エリクサーは病には効き目が高いのだが、こういう怪我の治療は『回復魔法』の得意分野だ。

 カシコちゃんも回復魔法は使えるらしいのだが、一度簡易的な回復魔法で傷を塞がれてしまうと手がだせないらしい。


「なぁ、一旦コイツを連れて【出戻移動リターン】でハポネスに戻って、治療だけしてから、もう一度ここへ来るってのは無しか?」


「……旦那、一度ハポネスに戻ったらもう二度と中央神殿に出向くつもりなんか無いだろう?」


 ……ばれたか。


「やめてよね。そんな事をしたら、領主様から私たちまでハポネスを追放されかねないわよ」


 ちぇ……


 このまま、変な風にくっついてしまった骨をもう一度砕いて正しく繋ぎなおしてやっても良いんだが、多分、それだとルシーファの体力が持たない。

 ……仕方が無いか。


「ダンジョン・クリエイト『新規作成』!」


「「!?」」


 俺は、生まれたてのダンジョン・コアを握りしめて、力ある言葉を唱えた。


「治癒魔法・【再生リザイル】!」


 みるみるうちに、折れ曲がって変な形になっていた翼が元の姿を取り戻す。と、同時に、肺炎の方にも回復の効果が出たみたいで、ゼロゼロと聞きなれない湿った音を響かせていた呼吸音が、徐々に静かになってゆく。

 その施術を受け、ようやく息苦しさと痛みから解放されたルシーファが意識を失うように寝息を立て始めた。


「だ、旦那、魔法はハポネスでしか使えないんじゃ……」


 そう。これが俺の「奥の手」だ。

 俺はダンジョンの中でしか魔法は使えない。


 しかし、別に同時に展開できるダンジョンの数が一つだけ、という訳ではないのだ。


 ただ、ダンジョン・コアの複数作成にはそれなりにデメリットがある。


 まず、ダンジョン同士はそれぞれが完全に個別管理で、ポイント同士の譲渡等もできないし、「ダンジョン内瞬間移動」だって、二つのダンジョンを行き来することはできない。あくまでも、俺の瞬間移動は、その一つのダンジョンの中でのみ、という能力だ。


 しかも、コアをもう一つ生み出した時点で、両方のダンジョン共にポイント増加率が半分くらいに下がってしまう。ちなみに、3個生み出せばさらにその半分、実質、1つの時の四分の一、4個生み出せばまたその半分、1つの時の八分の一……と、どんどんポイント増加率は下がるから、どのダンジョンも成長させるのが難しくなるのだ。


 そして、仮に全てのダンジョンの主を俺と設定したところで、俺自身が強化されるのは高レベルの方(さいしょ)のダンジョンの発展度のみが換算されるだけで、2個目以降のサブ・ダンジョンは含まれない。

 

 それに、万が一このサブ・ダンジョンが壊されたり、自分で破壊した場合、次にサブ・ダンジョンを生み出すまで、最低でも数日のリロードタイムが発生する。

 まぁ、サブ・ダンジョンを壊せば、ポイント増加率は元に戻るのがせめてもの救いか。


 そして、最後のデメリットが、サブ・ダンジョンは、創りたてホヤホヤの最初期ダンジョンなだけあって、広さだってせいぜいこのコアから成人男性が両手を広げた程度しかダンジョン・エリアが存在しない。

 俺の場合は、攻撃魔法も「ダンジョンエリア内」でないと使えないし、ダンジョンの「外」には届かないから、ぶっちゃけ、俺の攻撃魔法は、ほぼ意味を成さない。

 ……両手を伸ばした範囲くらいしかダンジョン・エリアが無いんだぞ?

 飛距離ゼロの火炎魔球ファイア・ボールでどうしろと?


 だとしても、回復や防御系の魔法であればそれなりに扱うことができるのだ。


「とりあえず、この部屋の、この椅子に座っている間なら回復魔法を使えるようにしてみた」


 まぁ、ポイント増加速度が半分だとしても、この近くには俺、ボーギル、カシコちゃん、それにルシーファのヤツも居るから、2,3日あればこの部屋くらいまではダンジョン・エリアが広がるんじゃねーかな?


 ……と、思っていたら、想定外の速度でダンジョン・エリアが拡大して若干ビビリました。


 え? ウソ……天使ってこんなにダンジョン・ポイント美味しいの?

 やだ……ルシーファなのに、こいつハポネス(ウチ)に一匹欲しい(トゥンク)……とか感じちゃったじゃん!!

 何か腹立つわ……


 そんな訳で、『奥の手』のサブ・ダンジョンまで創って回復してやったんだから、ちょーっとルシーファさんが起きたら、詳しくオハナシをしないといけないなァ……と、思っていたのだが、ヤツがまともに会話できる程度に回復するのには、さらに数日を要したのだった。



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