60 聖皇教会からのお呼び出し
「で、カイトシェイドの旦那……詳しく事情を聞かせて貰おうか?」
「あの禍々しい竜は何? それで、あの施設は?? あの人たちはどういうこと???」
「ああ、実はな?」
あの後、色んな意味で盛り上がり過ぎてしまった闘技場はえらい事になっていた。
ネーヴェリクに頼んで映像や音声を観客に見やすくするテストを同時進行で行っていたせいで、こういう斬新な施設はこの辺りでは類を見ないらしく、一気に野次馬が増えまくったらしい。
そんなに長時間戦ってた訳でも無いのだが、まぁ、生の魔竜なんて魔族の多い地域だって、滅多に見ないもんなぁ……
竜と戦っている俺たちの見た目だって、アルファ以外はほぼ人間と同じだし。
そのアルファも戦いが終わったらさっさと「人化」してしまったため、逆に『異形への変身技能を持つ人間の戦士』と認識されたようだ。
貧民区だから、アルファが犯罪奴隷落ちする前に面識のあったヤツ等も居たみたいだし。
何か、アイツ、ちょっとしたヒーローみたいになってたぞ。
やっぱり、最前線で殴り合っていたのはアイツだもんな。
一応、シスター・ウサミンに「怖くなかったか」と尋ねたところ、「カッコよかったです」とポーっとした感じで言われたから、人間的には楽しい見世物だったのだろう。
「――と、いうわけで、マドラのヤツを撃退しただけだよ」
「何が『と、いうわけ』なんだよっ!? ま、マドラって言ったら、あの、魔王軍四天王の一人、魔竜王マドラだろ!? しかも、撃退って、それは『また来る』って事じゃねーかっ!!!」
「……カイトシェイドさん家の執事さんが貧民区に広大な土地を買ったって言う話を不動産屋のデベロから聞いたから……嫌な予感はしていたのよ……しかも、配下の人間を三人も魔族化したって……」
結局、あの戦いの詳細を聞くために、昼食だけみんなで取らせてもらった後、俺はこの冒険者ギルドへと連行されてしまった。
ベータの奴はまだ色々仕事があったみたいだし、オメガは流石に疲労困憊でシスター・ウサミンのお弁当を食べながら、うつらうつらと船をこぎ始めてしまったので、ネーヴェリクとアルファに頼んで先に屋敷に戻って貰った。
「大丈夫だぜ? 今日はむしろ、あの闘技場を整備したばっかりで俺も疲れてたし……万全なら、アルファ達に手伝ってもらわなくたって、たぶん、対応出来たし……それにアルファ達だって、3人で協力すれば多分、マドラくらいは倒せたんじゃねーか?」
あの三人、思いの外強かったし、バランスもとれていた。
接近攻撃型のアルファ、遠距離攻撃型のベータ、補助型のオメガ。
あれに回復か防御に特化したヤツが居れば、かなりの戦闘がこなせると思う。
まぁ、まだあの3人ではルシーファやシシオウを相手にするのはちょっとキツイかもしれないけど、レベルが上がれば分からないぞ?
だが、その言葉に二人は大きくため息をつく。
「はぁ……こっちはこっちで、旦那がらみの厄介事が持ち上がって来てるってのに……お前、俺からの手紙読んだか?」
「……手紙?」
あ、そーいえば、ベータのヤツが芸人旅団と連絡取れた、とか言って、他にもボーギルからの手紙も持って来ていたな。
「悪ぃ、今読むわ」
ごそごそと預かった手紙を開封する。
だが、ボーギルが疲れた目つきのまま、首を横に振った。
「おい、目の前で手紙広げるな。もういいよ。どう考えても、手紙よりも直接、お前さんに聞いた方が早いから……」
「ふーん、そっか。じゃ、何だ?」
「なぁ、お前『聖皇教会』って知ってるか?」
「聖皇教会?」
……たしか、シスター・ウサミンのところの宗教じゃなかったっけか?
この辺りでは一番メジャーな光の精霊「スゴピカ様」とやらに祈りを捧げる宗教団体だ。
とりあえず、どんな事でもスゴピカ様に祈っとけば良くて、別に「何かを食べてはいけない」だの「信者の義務として何かをしなければいけない」だのと言った厳しい戒律とは無縁のユル~イやつ、という印象しかない。




