06 新天地へと
「ええい、ちょこまかと……!」
紙一重でヌルヌルと踊るように避ける俺に業を煮やしたのか、マドラのヤツが大きく息を吸い込む。
……あ、これは、来るな。
魔龍族であるマドラの特技、闇のブレスだ。
「死”ッ……」ばきょっ!!
ヤツの口元に赤黒い光が見えたその瞬間、俺は一瞬背を屈め、マドラの顎を思い切り蹴り上げた。
もんどりうって倒れるマドラの巨体に、魔族達だけでなく、他の四天王達の目も丸くなる。
「あ、あり得ませんわ! マドラは、たった今までシシオウと戦ってダメージを受けていたからですわ!!」
サーキュのヤツが、ヒステリックにそう叫んでいる。
「そ、そうだよな……」「でなきゃ、マドラ様があんな四天王最弱野郎に」「ケガ人に……なんて卑怯なヤツだ……!」「いや、でも……」「なぁ……カイトシェイド様……魔力量が……増えてないか?」
そんな声がチラホラと耳に入って来る。
だが、確かに普段よりかなり体が軽い。これも『分身体』が統合されているせいなのだろう。
しかし『分身体』を全て統合したのなんて……いつ以来だ?
「こ、こんなところで、多少、力があることを見せつけても何の意味はありませんよ! 貴方がこのダンジョンから一歩でも外に出たら、いったい何が出来るというんですか!?」
ルシーファが、自分の眼鏡をクイっと引き上げる。
その様子は、まるで己の見間違いだ、とでも思い込もうとしているのかのようだ。
「それがどうした? 陰険メガネ」
「……っ!?」
今、俺がヤツに向かって放ったのは、純粋な魔力のみ。
ペラペラと良くしゃべる口は閉じられ、ヤツの額には僅かに汗が浮かんできている。
俺は、不機嫌な顔で玉座に鎮座する脳筋魔王に最後の言葉を叩きつけた。
「ああ、そうそう。この魔王城を管理するための『コア・ルーム』はフルオープンにしておいてあげますから、管理はご自身でどうぞ、魔王様」
「そ、その態度は、魔王様に対して無礼ではありませんか、カイトシェイドッ!?」
……ぶわッ!
「ひぃっ!?」
俺が、さらに魔力を叩きつけたうえで、目を合わせ微笑むと、ルシーファご自慢の黒い翼がふわっふわに逆立っている。
「それでは、魔王様……俺程度の『無能な雑用係』がこなせる業務くらい、朝飯前ですよね?」
そう言い捨てると、俺は奴らに背を向けた。
「ヤツめがダンジョンから一歩でも出たらこのルシーファが八つ裂きに……!」とか「待て、小粒! このシシオウと勝負じゃ」とか「あの男を余の前から排除しろ」とか何とか騒いでいる声が聞こえたが、完全無視!
俺は、さっさと『魔王城』の一番端、出入口部分へとダンジョン内を瞬間移動した。
この魔王城から脱出した直後の対策はすでにこちらも済ませている。
確かに、ルシーファのいうとおり、俺が瞬間移動できるのも、回復魔法を使えるのも、分身体を作る事ができるのも……全部『ダンジョンの中』だけの話だ。
だが、俺の心に迷いは無かった。
俺は、持ち出した時空袋の中から一つしかない【瞬間移動】の秘石を取り出す。
ダンジョン内などに限定されない【瞬間移動】は超・高位の魔法で、ウチの魔王様ですらまだ習得していない。
この秘石は世界中どこでも、行きたい場所に瞬時に移動できる1回こっきりの使い捨てアイテム……しかも、非常にレアで高価なモノだが、今の俺にとって、ココから離れることができるなら、十分使い捨てる価値がある。
他にも、この時空袋の中には、俺がコツコツと集めに集めまくった『セーブ・エリア虫』や、じいちゃんの形見などが詰まっている。
さて、追手がこちらに来る前に移動するとしよう。
俺はその秘石を掲げると、小さな秘石に込められた膨大な魔力を開放する。
「【瞬間移動】俺のダンジョンが作れる場所!」
まだ見ぬ理想郷へと移動したのだった。
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