59 VS魔竜王マドラ②
「かぁッ!!!」
「うぁっ!?」「ぐっ!?」
だが、翻弄される苛立ちが頂点に達したマドラのヤツが全方位方向に向け、瘴気と闘気と魔力を練り合わせた衝撃波を放つ。【魔撃破】……ヤツの十八番である戦闘スキルだ。
「くっ……!」
ヤバい……!
距離が離れている俺とベータはまだ良いが、アルファにはまともに直撃しているはずだ。
そう思った瞬間、その一撃で、マドラの周りの幻覚達が掻き消えた。
「げほッ、ごほっ、げほっ……はぁ、はぁっ……」
気付くと、魔撃破で吹っ飛ばされたオメガが倒れ込んだまま大きく肩で息をしている。
直撃を喰らっても耐えているアルファと違い、どうやら、オメガは相当ダメージを喰らってしまったようだ。
自身を守る魔力障壁を作る余裕は無かったか……
魔力量が多い夢魔とは言え、流石にこの短期間で魔法を使わせ過ぎてしまったな。
俺は回復魔法をオメガに飛ばしつつ、マドラを倒すための魔力弾を練り上げる。
……やっぱり魔力が枯渇してくると、発動までに時間がかかるな……
その時だった。
「いでよ!【金銭出納帳】!」
どごぉぉぉんッッ!!
「おお!?」「んなっ!?」「ふごげっ!?」
ベータの召喚した魔導書……魔導書? が、マドラの頭蓋を叩き割る勢いで振り下ろされた。
魔導書は攻撃が終わると光の粒となって消えていく。
……え? な、何? あの攻撃力のある本……
「人間の世界では、不正を犯す者が直視したがらない『会計諸表』と言う、力ある書物でございます、旦那様」
な、なるほど?
「まだまだございますよ? 【貸借対照表】、【損益計算書】、【予実績比較表】、【収支計算書】!!」
どがんっ!! ぼごんっ!! どべちッ!! ばごぉぉぉぉんッ!!!
か、会計諸表……すげぇ……
いや、魔法ってイメージ力を必要とするから、術者が「力がある」と認識しているものこそ、本当に強くなる傾向は確かにあるけど……こんな使い方も出来るんですね……
確かに俺が「ぶん殴ってやれ」とは言ったけどさぁ……
そりゃ、人間から『勇者』なんていう規格外が生まれてくる訳だぜ……
「うおおおおおッ!!! ふざけるなぁぁぁぁ!!! この俺を誰だと思っているッ!!」
頭をぼっこぼこにされたマドラが目を血走らせ天空に向かって吠えた。
ミシミシ……ミシミシミシミシッ!!
みるみるうちにヤツの身体が漆黒のウロコに覆われた巨大な竜の姿へと変わって行く。
「きゃーーーッ!!」「魔竜だっ!!」「ドラゴンだ!!」「ひえぇぇぇっ!!」
おや? 気づけば闘技場の観客席には人間達がこの戦いをかたずを飲んで見守っていたようだ。
領主の館にある鐘の塔と同じくらいの高さにまで膨らんだ馬鹿デカイ竜の出現にパニックになっている。
だが、俺はその姿を見てニヤリと笑った。
ふふふ! 馬鹿め!!
これだけでかい的であれば、命中補正に魔力を使わずぶっ放しても命中させることができる!!
「じゃーな、マドラ!!」
俺は、残っていた魔力を全て込めた一撃をヤツの弱点である逆鱗めがけてぶちかました。
ズギュゥゥゥンッッ!!!
「なッ!!!?? くっ、ぐぎゃあああああっ!!!」
マドラの奴は、最後の絶叫を上げ姿を消す。
その代わりに、ひらり、と小さな紙が降りて来た。
ん? これは……
「ああっ! クソっ、逃げられたっ!! マドラのヤツっ!!」
それは、致死ダメージを受けた時にだけダンジョンのバックヤードへ自動的に転送される、ダンジョンのシステムをさらに拡張化させた魔道具だ。
おそらく、あの攻撃を喰らって、魔王城まで自動転送されたに違いない。
あいつ、こんなものを持ってたのか!!
用意周到なサーキュやルシーファならまだ分かるんだが、マドラまで準備していたのか~……
くー……せっかくのダンジョン・ポイントボーナスが……!
だけど、まぁ、次来た時の方が俺の調子も万全だろうし、もう少し鍛えれば、アルファ、ベータ、オメガの三人だけでも倒せそうだし……
ま、いっか。
「よーし、終わりだ! 俺たちの勝ちだな、お疲れさん。アルファ、ベータ、オメガ」
俺がそう言った途端、ばぁん!と炸裂したような勢いで歓声が沸いた。
な、何だ!?
「すげーーー!!」「あの巨大ドラゴンを倒しやがった!!」「きゃーーー! カッコイイ~!」
ふと我に返れば、闘技場の魔導式巨大スクリーンには俺の姿がでかでかと映っている。
とりあえず、愛想笑いを浮かべてやると、黄色い悲鳴がさらに大きくなった。
だが、その時、俺は見つけてしまったのだ。
背景に夜叉と般若を背負い漆黒微笑を浮かべたカシコちゃんと、ボーギルの二人の姿を。




