53 防衛計画を立てよう!
ようやく空白期間が終了した朝、俺は魔族化した仲間達を集めて宣言した。
「お前たち、まず防衛施設として闘技場を創るぞ!」
「「「闘技場!?」」」「……デスか?」「でございますか?」「何考えてんだテメェ?」「……って、なぁに?」
「うん。闘技場ってのは、戦うため専用の広場だ」
闘技場そのものを知らないオメガに説明する。「ふ~ん?」と生返事を返してくるが、多分、まだよく分かっていないだろう。まぁ、詳細を知るのは出来あがってからでも遅くはない。
「多分、あのゲドーダのヤツを倒しちゃったから、俺がここに居る事はマドラのヤツにバレたと思うんだよな。となると、多分、絶対、あの筋肉馬鹿はウチへ来る!!」
つまり、ヤツと戦うための戦闘用結界……魔王城でルシーファやシシオウが全力で戦っても周りに被害をおよばさない場所……が必須だ。
「ベータ、この街で一番土地の価格が安いところは何処だ?」
「はい、おそらく北外町の貧民区が最も地価が安いかと……」
「そこって、前にシスター・ウサミンの孤児院があった辺りか?」
「はい、左様でございます」
ええ、そうです。
なんやかんやでシスター・ウサミンを丸め込ん……もとい、彼女達の孤児院の経営が苦しいことを良い事に、ウチの敷地内に新たな孤児院を建て、すでに幼児たち諸共こちらに引っ越して来ていただいております。
ダンジョン・エリアを拡張した今となっては、元の位置でも良かったんだが、序盤のポイント・ブーストでは大変助かりました。
ありがとう幼児! ごちそうさま児童! 今後も長生きしろ、ポイントボーナス達よ!!
おかげさまで、マンドラニンジン収穫の労働力は奴隷だけでなく子供たちも協力してくれているし、シスター・ウサミンは俺の分身体がメインで開いている回復施設の手伝いまでしてくれている。
彼らの食費などは、微々たるものなので費用対効果バツグンだ。
「あの辺りの土地を……そうだなぁ、この屋敷の敷地面積の二倍くらいの広さで買い取りはできそうか?」
「資金面では全く問題ありません」
空白期間には、人間の通貨をゲットすべく、マンドラニンジンを売り払ったり、クリーンスライムを創って売ったり、例の接待用ダンジョンの周りに出店を出したい商人たちのために、地代を取って区画の貸し出しを行ったりしたのだ。
土地の利用料金をせしめるなんて、ベータに言われなければ気づかなかったぜ。
でも、あれは良いな。
こっちは適当に土地を割り振って貸し出すだけで、ほとんど手間がかからないのに人間の通貨が自動的に入って来る。
まるで地脈から魔力を吸い出す魔晄炉の人間通貨版みたいなシステムだ。
ダンジョンから出てすぐの所に、武器屋や防具屋、それに魔法石の買い取り店や軽食、飲み物、回復アイテム等を売る屋台風の店が立ち並び、ウチの庭なのに結構、賑わっている。
ダンジョンの構成も、多少、手を加え、6~8階をアンデットゾーンに、9,10階をゴブリンさん達にお願いしている。なお、10階のダンジョン・ボスはゴブローさんだ。
瀕死ダメージを負うような事が有ったら自動的にバックヤードへ瞬間移動する代わりに、宝箱……あんまり使ってない魔道具やら魔法剣やらが入っている……が、出るように設定しているのだが、今のところまだゴブローさんが倒された事は無い。
そして、クリーンスライムは全階層で出るようにしているが、少し数を絞ることでバランスを取らせて貰った。
緊急時にはウチの財政の柱になって貰うので、あまり値崩れしすぎても……ね。
この他に、ベータが主導で妖天蚕も育ててくれている。育成は順調らしく、今後は、これも収入に加わりそうなので楽しみだ。
北外町の貧民区であれば、じいちゃんの金貨を使わなくても、それらの収入源から入って来る人間の通貨だけでも十分買い取れるらしい。
「じゃ、そこをざくっと買い取って、そこに住んでいるヤツ等は別の場所に移って貰おう」
「では、不動産屋のデベロにはわたくしの方から出向きましょう」
「ああ、頼む」
まず土地の確保はこれで良いだろう。
権利さえ入手してしまえば、後は『ダンジョン・クリエイト』でゴリ押ししてしまえば良い。
「あ、そうだ、ネーヴェリク」
「ハイ、カイトシェイド様」
ネーヴェリクが困ったようなハの字眉のまま、ぽやん、とした眼差しを向けて来る。
「オメガのヤツに軽く古代魔法文字を教えてやってくれ。多分、すぐに文字の魔力色を見分けられるようになると思うから。その内、一人でも『封魔回廊』程度の術式を組めるようにして欲しいんだ」
「ハイ、かしこまりマシた。オメガちゃん、それでは、ネーヴェリクが古代魔法文字を教えてあげるのデス!」
「うん、ありがと~」
こうしてみると、この二人、年の離れた姉妹みたいでちょっとほっこりする。
「アルファ、お前は『人化』の練習な」
「……ちっ……ったく、しかたねぇな……」
アルファの奴は鬼らしい角、手甲代わりに竜のウロコを纏ったような両腕、とかなり人間離れした外見へと進化している。
ある程度の高位魔族だと『人化』と言って、人間そっくりに変化する技を身につけることができるのだ。
魔族同士の場合だと「人間そっくり」なのは、侮蔑の対象なので、この術、魔族至上主義者には、あまり人気は無い。
だが、人間に混じって生活した方が有利に暮らせる種族の場合は、これが使えるのと使えないのとでは生活レベルが段違いだったりするので、ある種必須技能でもあったりするのだ。
「ふぉぉぉぉぉッ!!」
「力み過ぎだ、お前。はいはい、角と腕に集中、集中!」
「えーい、ぐだぐだやかましいわッ!!」
がんばれー。
二人の訓練が終わる頃には、ベータが「無事に土地の権利を購入してまいりました」と、証書らしき皮用紙を持って帰ってきた。
よし、準備は整ったぜ!