51 ゲドーダの最後っ屁
俺は、鎖が断ち切られ、転がり落ちた『魔竜眼』をグシャリ、と踏み潰す。
しかし、ゲドーダの話が本当なら、俺の居場所がマドラのヤツに伝わった可能性が高い。
一応、撃墜準備を整えておいた方が良いだろう。
「あっ!!」
傍らにぼんやり立っていたオメガが急いでアルファの元へ駆け寄る。
……くらり。
オメガがアルファを支えるのとほぼ同時に、ゆっくりとアルファの身体が倒れ伏す。
ん? どうしたんだ?
「ア、ァ……ど、どう、しよう……! 血が……!」
どうやら、アルファのヤツ、ゲドーダとの闘いで結構ダメージを受けていたようだ。
よし、じゃ、俺が回復してやるか。
俺はアルファの元へと近づいて、少しだけ目を見開いた。
「……これは……」
見れば、何か獣……いや、竜か? 何かの牙で胸の辺りがぽっかりと抉れたようになっている。
ちっ……!
ゲドーダのヤツ、本当に最後の最後まで……!
ヤツの装備品の中に、致死ダメージを受けた場合に限り同じダメージ量を相手に返すタイプの呪具を見つけてしまった。
アルファの傷は、肺や心臓といった生命維持臓器にまで大きなダメージが入っている。
これは手足や視力の欠損と違い『回復魔法』で対処できるレベルではない。
通常であれば『再生魔法』……いや、『蘇生魔法』が必要なレベルだ。
再生や蘇生は流石に俺でもダンジョン・ポイントをそれなりに消費しないと使えない。
そして、今はエリアの拡張をしたばかりでダンジョン・ポイントを使い切っている上に、増加が停止している空白期間。
……コイツがネーヴェリクと同じアンデッドだったら何とかなるのだが……
くっそぉ、アルファの野郎、恩人と恋人の仇を取ったからって安らかな顔してんじゃねーよ!
これでは、アンデッドとして復活する可能性も著しく低い。
仕方が無い。
「魔族進化【眷属化!!】」
「……ぐ、ぉぉぉおおおおおおっ!!」
俺はヤツの手甲になっていた『世界樹の杖』を元の形状に戻すと、胸の傷を塞ぐイメージで呪文を発動させた。
「がああぁぁぁアアアッ!!」
ミリミリミリ……
アルファの額から、二本の立派な角が生まれる。
お? この進化は「鬼人」かな~?
辺りの魔力が元々入れられていた罪人の入れ墨をかき消す代わりに、両腕に魔紋を浮かび上がらせた。
そして、その胸の傷口がふさがり、魔族の証である魔核が生まれる。
刹那、ぽん、とアルファの情報が流れ込んできた。
【氏名:アルファ 種族:鬼龍人】
ん? この辺りに漂っている魔力に竜属性がついているせいか?
普通の鬼人とは少し毛色が違う種になったようだ。
オニとはその名の通り、物理攻撃能力に特化したタイプの魔族だ。
中でも鬼龍人は魔法系の耐性が高く、耐久値と攻撃力が高くなる半面、細かい作業や隠ぺい系の能力はかなり落ちる傾向がある。
ある意味、オメガとは真逆だ。
「あああ……あ……あん?」
「よ、アルファ、気分はどうだ」
「な、なんじゃぁぁぁ!? こりゃあああぁぁぁ!!!」
結局、アルファが鬼龍人の身体を使いこなせるように落ち着くまでの間、何故か俺と1バトルを繰り広げることになってしまった。
……コイツ、まさか、強くなるたびにどっちが主人なのか、肉体言語でオハナシしてやらないとダメな子なのか?
強さ的には、直接攻撃だけなら、上級魔族ともかなりまともに渡り合えるほどになっているが、オメガの強制睡眠で一発熟睡だったので魔法抵抗力は脆いようだ。
俺は、一発かまして、寝かしつけられて、起きたおかげでおとなしくなったアルファと、夢魔になったことで意思疎通がかなりスムーズになったオメガに宣言する。
「とりあえず、屋敷に戻るぞ。詳しくはそこで話をしてやるから!」
「ったく……」
「うん、わかった~」
そういうことになった。