47 合成獣オメガ
一瞬にして世界が混沌としたものへと変わる。
「ほぅ……すごいな、お前」
思わず、俺はその空間の中でぼんやりと立っているオメガに語りかけてしまった。
「……あれぇ……? おかしいなぁ? ここは、夢の中なのに、どうしてボクの思い通りにならないのかなぁ?」
「俺の魔力とお前の魔法が同時発動だったから、干渉し合って混線してるんだろ」
「へぇ? そうなんだ……」
かなり中途半端な状態のため、俺の周りには、オメガの過去らしき情報がバラバラに映し出されている。
アルファの過去を見た時よりもややこしいから、取りこぼしがあるかもしれんが、どうやらこのオメガくん、ただの人間ではなく、人間と人間の合成獣であるらしい。
普通、キメラと言えば「獅子と虎」とか「鷹と蛇」とか「人と獅子とコウモリ」とか……別種族を混ぜ合わせて一つの新たなイキモノを創り出す、という魔術なのだが、オメガの場合は人間の「男」と「女」を混ぜ合わせて「昼間は男で夜は女」という特徴を持つ奴隷を作りたかったようなのだ。
単純に昼は肉体労働をさせ、夜は肉体奉仕をさせたい、という欲求によるものらしい。
何でそんな目に合わされていたのかというと、オメガは生まれつき両目の瞳孔の形が横に長細い。
瞳の色は氷雪色だから、目立つといえば、目立つのだろう。
それは、まぁ、見ればわかるし、たいした差異ではないから俺は気にも留めていなかった。
だが、たったそれだけのことなんだが、それが原因で悪魔の子と呼ばれ、実の親から散々虐待されていたようだ。
そして、奴隷として売れるような年になった途端、売り飛ばされ、実験用の奴隷としてゲドーダに買われ、合成獣の材料にされている。
何人か同じ体質の奴隷を同時に作っていたようだが、成功したのは奴隷№6こと、オメガだけ。
その物珍しさから、悪趣味な貴族に高値で買い取られたものの、昼も夜も休みなく奉仕をさせられ続けた結果、昼と夜、夢と現実、妄想と事実等の境界線が分からなくなり、気づいたら主である貴族を殺害していたようだ。
しかし、この貴族殺害事件は、少々きな臭い。
どうやら、この事件、計画的なものだったっぽいのだ。
記憶画像から推察するに、合成獣にされた際に、ゲドーダが、オメガを遠隔操作できる呪術式を体内に埋め込んでいる。
つまりオメガは貴族暗殺計画の駒だったのだ。
そのために、わざわざ変態貴族好みの悪趣味な魔改造を施されたに過ぎず、客観的に見て「ここまでされたら普通は発狂する」という極限の混乱状態に陥っていることを確認してから遠隔操作が発動された形跡があるのだ。
そして、貴族殺害を無事成功させたオメガは、捕えられ犯罪奴隷に。
本来は、そのまま操作で自殺させて証拠隠滅ENDを狙っていたようなのだが、貴族家の連中が自殺する前に、フルボッコにしてしまい、犯罪奴隷として処理してしまったらしい。
ゲドーダの方では、そのまま死んだと勘違いしていたらしいのだが、偶然、俺がオメガを買い、治療を施し、時には街につれて行ったために、まだオメガが生きている事に気づいたようだ。
ぶっちゃけ、結構、情報の内容がえげつない。
え? あの、例え魔族でも、普通はここまで酷い扱いはしないものなんだが……?
つーか、人間、怖ッ!?
じいちゃんが口を酸っぱくして『勇者』には近づくな、と言ってただけのことはあるぜ。




