46 ダンジョン・コア紛失!?
くそっ!!
誰だ!? 誰かが、この主寝室に入り込み、ネーヴェリクを眠らせ、コアを盗んで行ったらしい。
だが、まだ『コア』が『ダンジョン・エリア』から出ていないのだけは確実だ。
コアがこの街から一歩でも外に出てしまうか、盗んで行った何者かがコアを破壊してしまったらこのダンジョンは自動消滅する。
俺は、緊急事態が発生した事を『分身体』へと伝える。
至急、ゴブリンさん達の回復をしていた俺と、人間達の治療に当たっていた俺が主寝室へと戻って来る。そのいずれも、魔法での回復や治療は一区切りついていたので問題は無い。
逆に問題があったとしても、こっちの方が緊急性は高い。
むしろ最高レベルだ。
レッサー・ヴァンパイアとはいえ、魔族であるネーヴェリクに強制睡眠の魔法をかけることが出来る程度の相手だ。油断はできない。全力で行く。
俺は時空袋の中から、滅多に使うことが無かった俺の武器である『世界樹の杖』を取り出す。
俺が、ネーヴェリクをベッドに寝かせ、ダンジョンコアの場所まで瞬間移動しようとした刹那、
「おい、カイトシェイドの旦那さんよ、さっきからオメガのヤツが見当たらないんだが……」
開けっ放しにしてしまった寝室のドアからアルファのヤツが顔を覗かせる。
「……オメガ?」
ふと、人間達の治療に当たっていた『分身体』の記憶が蘇った。
今日の混乱の中で、ほとんどの奴隷たちが医者の俺を手伝ってくれていた。
その中で、オメガだけが、ひとり、ぼんやりと屋敷へと戻って行った後ろ姿が頭をよぎる。
普段であれば、アルファの目の届く範囲からあまり動かないのに、部屋に単独で戻るなんて珍しいな、とは感じたのだ。
確かに、オメガであれば、屋敷の中をうろついていても誰も不信に思わない。
「アルファ! お前も来い!!」
俺は咄嗟にヤツの腕を掴むと、コアの元まで『ダンジョン内瞬間移動』を発動させた。
その光景が目に入った途端に体が動く。
ふ・ざ・け・ん・なぁぁぁぁッ!!!
「なっ!?」「!?」
俺がアルファを引っ掴み瞬間移動した先は『コアの元』
そこに居たのは、普段と一切変わらない、瞳に生気の無いウチの元・犯罪者奴隷と見覚えのある顔……。
「テメェ……ゲドーダ……ッ! よくも、俺の師匠と……ッ!!」
アルファが、少しばかりあの魔王に似た顔つきのクランリーダーの男……ゲドーダに向かって怨嗟の言葉を吐く。
その言葉が全部終わる前に、俺はアルファのヤツをゲドーダめがけてぶん投げた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」「ふごぁっ!?」
どかっ、とか、ごしゃっ、とか何かぶつかるような音が聞こえるけれど、これでアイツ等はお互いにやりあってくれるだろう。
それよりも、俺の意識はぼんやりとコアを握り締めたままのオメガに集中していた。
「テメェ、どういうつもりだ……」
こいつ、このコアをゲドーダに向かって差し出そうとしていたのだ。
俺が真正面に立っても、オメガの奴は、ニタリ、と嗤った笑顔とポーズのまま微動だにしない。
がっ!!
俺は、オメガの頭を引っ掴む。
何を考えてやがるんだコイツ?
と、俺がオメガの思考を読もうとしたのと、
「【強制睡眠!】」
「!?」
オメガが俺に対して眠りの魔法を使うのが同時だった。




