45 ダンジョンのダメ出しを受ける!
「直すって……せめてお前、クリーン・スライムみたいな『有益モンスター』は、もうちょっと後半に配備しとけよ」
「へ? お、おお……? え? いや、でもアイツ弱いだろ?」
「何で倒されることを前提に考えてんだよ!? 生け捕りだよ、生け捕り!! 何であんなお宝モンスターが1階をウロウロしてんだよ!? 取り放題じゃねーか!」
そういわれると、良く冒険者達がクリーン・スライムを捕まえては、嬉しそうに持ち帰っていたな。
あれは便利だから、単に自分で使いたいのかと思っていたのだが……?
「アレの売値知ってるのか?」
「え? アイツ、売れるのか?」
「当たり前だろ!! お宝だお宝! 第一、お宝が後半に無いと進む気力が起きないだろ? これだと、そのうち1階~5階でうだつの上がらない底辺冒険者達が縄張り争い始めるぞ!?」
ダンジョン・ポイント的には何の問題も無いが?
俺がきょとん、としているのを見ると、ボーギルの奴は大袈裟にため息をついた。
「つーか、お前さん、金に困った事なさそうだなー? ……話を聞いた感じだと、一応、魔族の王子様みたいなもんだもんなぁ。意地汚い人間の意地汚い稼ぎ方とか知らないだろ!?」
世間知らずのボンボンを見る目をやめろ。
確かに、俺は生まれも育ちも『魔王城』だから、数えるほどしか外に出たことは無いが……
それでも、外部の情報は結構な量を文献で読んでいる方だぞ!!
「あ! あと、6,7階のゴブリンの強さは異常だからな!? アンタらにとってはどれもこれもイージーモードなのかもしれないが、普通の人間はあの落差にビビるぞ!? そのくせアンデッドゾーンは妙にぬるめだし!」
「ああ、それは俺も見ていて気付いたから調整する」
「それに、『瞬間移動魔法陣』なんてそんなにホイホイとダンジョンに出てこないからな? 普通は!! アレが多用されるだけで『時空ダンジョン』とかって別名が付くくらい特殊なもんだからな!? は? 『魔王城』では多用されてた? お前さん『普通の』ダンジョン、潜ったこと無いだろ!? 『魔王城』なんてな、人類の中でも勇者様みたいな超人が、最後の最後に挑戦するようなSSS級の特殊事例だからな!?」
……なんか、怒涛の勢いでめっちゃダメ出しされました。
解せぬ。
でも、今度一緒に『普通のダンジョン』とやらに潜ろうと誘われたのはまんざらでもない。
それはちょっと楽しそうだ。
問題は、普通のダンジョンとは、俺のダンジョンの外にしかないから、本体で直接乗り込む必要性がある所だろうか。
とりあえず、情報交換はこの位で良いだろう。
「じゃ、俺は一旦戻るが、二人はどうする? 『ダンジョン内瞬間移動』で送ることも出来るが?」
「はぁ!? ダンジョン内瞬間移動ですって!?」
「いや……いい。つーか、復路を計算できない冒険者は半人前以下だ。調査なんだから、せめてあの5階の外に出る魔法陣まで戻れなかったら意味が無いだろう……」
何故か、げっそりと疲れた様子で首を横に振る。
「そうか。じゃ、ゴブローさん達にお前ら二人には近寄るなって伝えとくぜ」
「……」「……」
二人がそれは有りなのか? という顔をしているがこちらとしてはむしろ、これ以上ゴブリン達に被害を与えたくない。
ダンジョンボスの俺は、ゴブローさん達の治療をしている本体の俺と交代すべく、ダンジョン内瞬間移動をした。
「やれやれ、奇妙な事になったな、ネーヴェリク……ネーヴェリク?」
本体の俺が主寝室に戻ると、ネーヴェリクが床に横たわっていた。
「ネーヴェリク!」
急いで駆け寄り、彼女を抱き起す。
「おい!? ネーヴェリク!」
「……すー……すー……」
寝てる?
表情も穏やかだし、規則正しい寝息と共に胸がゆっくりと上下している。
それ以外に、特に異常は無い。
だが、このタイミングに、床でネーヴェリクが熟睡しているなんて、明かにおかしい。
さらに、俺はこの部屋の違和感に奇妙な胸騒ぎがした。
……ない。
ばっ、ばばっ!
思わず視線だけで部屋中を探す。
だが、絶対に有るはずのモノが見当たらない。
そう、忽然と消えていたのだ。ウチのダンジョンの『ダンジョン・コア』が。