43 ダンジョンボスを演じよう!
「どうやら、ココがこのダンジョン・ボスの部屋か?」
「そうみたい。この扉は単純に、規定量以上の魔力を注ぎ込めば開くわ」
扉の向こう側から二人の声が聞こえる。
ダンジョン・ボスの俺は、一応、二人にばれないように仮面を被って待機する。
この『分身体』はあえて魔力を少なめに注ぎ込むことでレベルを下げ、倒されやすい仕様にしてあるのだが、あの二人だったらもうちょっと強めにしておいても良かったかな。
玉座っぽいノリの石造りの椅子にふんぞり返り、そんな取り留めのない事を考えている間に、最後の扉が開いた。
「フハハハハハハ! よく来たな、愚かな人間ども!」
「「!!!」」
ボーギル殿とエルフ少女が武器を構え臨戦態勢を取る。
「やはり……魔族ね! 貴方がここのダンジョン・マスターなの?」
「左様! 我が名はカイ……んッ!? んん……ごほん、ごほん」
あ、ヤベっ……ボーギル殿が居るから、普通に名乗れないじゃん!
ルシーファでもマドラでも、適当に名前だけ借りとけばよかったぜ……!
「魔王……カイン?」
都合よく、エルフ少女がそう問い返してくれた。
よし、それでいこう!
「そ、そうそう、カインだ、カイン!」
「あ……あのー……ちょっと、いいか? えーと、その……」
臨戦態勢の俺とエルフ少女を止めるボーギル殿。
一体、何だ?
「……カイトシェイドの旦那さん、だよな……」
「……」「……」「……」
「ナ、ナンノコトダ?」
え? 嘘?
一目でバレないように仮面までつけて変装したんだぞ、俺!?
声だって風魔法で変えてるし、服装だって普段と違うごてごてした魔王っぽい感じになるように、ネーヴェリクに内職してもらったんだからな!?
「いや、その、悪ィ……俺【鑑定眼】ってスキルが有って……」
ボーギル殿が気まずそうに目を泳がせながら頭を掻いている。
「……」「……」「……」
ぺしぃっ!!
俺は仮面を叩き捨てた。
「はーーーー、もう、何だよ! だったら最初の時から俺が魔族で、ここの『ダンジョン・マスター』だって知ってて試してたって事か!?」
「ッ!? ど、どういう事よ!?」
「いや、それは知らなかった……というか、そうなのか!?」
【鑑定眼】って見ただけで他人の種族から能力、レベルまで見通せるチートな能力だったと思ったのだが?
「俺の【鑑定眼】はレベルが同じか低いヤツしか見通せない。前にカイトシェイドの旦那さんと話した時は分からなかったんだが、今のアンタはレベルが妙に低い……これは、一体?」
「……」「……」「……」
結局、彼等とは、全面的に腹を割って話す事になってしまった。
「……と、いうわけで、魔王軍を追放されたから、ここに俺のダンジョンを創ることにしたんだよ」
事情を知って頭を抱えるボーギル。
彼から、呼び方も口調も普通で良いと言われたので、ちょっと気楽だ。
エルフ少女……カシコちゃんと言う名前らしい……も、頭痛を押さえるかのように額を押さえ大きくため息をついている。
「魔王軍……四天王、な。……まさか……そんな大物だったとは……」
「しかも『分身体』だなんて、ふざけてる……SSS級の『勇者』でも連れてこないと太刀打ちなんか無理……」
「なんだ? やっぱりお前たちは俺を討伐したいのか?」
この環境、結構、気に入っているから敵対する気があるなら、ゴブローさん達を治療中の本体と統合して正式に叩き潰すこともやぶさかではない。
「まさか! これだけ有益なダンジョンを生み出せる上に、交渉ができる理性を持ち、人と歩み寄る姿勢がある高位魔族に刃を向ける愚かな人間が居てたまるか!」
お、おう、賢明なヤツだな。
「しかも食人種じゃないなら、一応、共存は可能よね……」
俺は雑食だから、食料が他に無い究極の飢餓状態で、どうしても食わなければならないって状況なら、人間も食えなくはない。
ただ、やっぱり、実のばーちゃんが人間だから、好んで食べたいとは思わないんだよな。