36 隠し通路を作ろう!
俺は、ネーヴェリクの助言に従い、ダンジョン・エリアを広げることにした。
ここは、多少のリスクを買ってでも拡張路線を取るべきだろう。
それに、どのみち、この街は俺のダンジョンに取り込む予定なのだ。
ならば一刻も早くダンジョン・エリアに組み込み、ポイント空白期間を終わらせた方が良い。
おれは、ココまで溜めたポイントのほとんどを吐き出し、この街全体をダンジョン・エリアとして取り込んだ。
「じゃ、俺は5階と6階を繋ぐ通路を作るか」
俺は寝室の壁に地下6階を映し出すと、此処に移住してくれたゴブリンの群れがせっせと巣穴を作ったり、森で捕らえたらしい吸血蝙蝠豚を運び込んだり、自分達自身で住環境を整えている。
「……ふむ、こっちは任せていても順調そうだな」
さて、では5階と6階を繋ぐ通路は、すこし性格の悪いものにしなければならない。
一応、そこそこの上級クラスが気づかなくても不自然ではない程度に面倒な通路……か。
「そうだな、相手は人間だから……」
俺は、5階最奥の『瞬間移動魔法陣』のある部屋を改造することにした。
現在、この部屋は単なる隠し扉で塞がれており、それなりに腕の立つシーフであれば簡単に入る事ができる。
そして、部屋に入った途端に落とし穴が設置してあるが、幅は2メトル足らず。
魔法を使わなくても飛び越えられる程度の広さだ。
なお、穴の深さは5メトルと、普通の成人男性3人とちょっと位。
しかし、落とし穴の底には水が張って有り、水深は3メトル。仮に落下しても、完全なカナヅチでない限りは死なない程度の罠だ。
ま、ここの隠し扉を開けるようなヤツが、こんな単純な落とし穴に嵌るはずもない。
そして、その落とし穴の向こう側に俺の家の前への『瞬間移動魔法陣』が鎮座している訳だ。
そこで、俺は既存の落とし穴の深さを少し追加し、その穴の底近くの側面から「し」の形に水路を複数作る。
キモは、一旦水路を下に潜って、それから進まなければならない点だ。
人間の場合、水中に落下したら顔をすぐに上……空気の方に出そうとする習性がある。
そのため、こういうタイプのルートは気づかれないことが多い。
これを見つけるには、上の明らかな光を放っている魔法陣を無視し、落とし穴の中を潜って通路を探す、という一見アホみたいな行動を取らなければならない。
仮に落とし穴の底を潜って中を探索する奇特なヤツが居たとしても、このルートは、さらに一旦、下方向へと潜り、そのうえ、どこまで続くか分からない水路を進む必要性がある。
こんな行動がとれるのは、かなり特殊な訓練を積んでいるヤツだろう。
そんなルートを準備し、複数ある穴の内、ある一本の水路を抜けた先に、もう一部屋を作成。
こちらの部屋には6階へ転移する魔法陣をセットする。
さらに、その落とし穴と水路部分の底、側面、天井に『封魔回廊』と似た魔法文字を、岩の色と同系色で目立たないグレー系で書くことにした。
これは『全魔法』とは言わないが、『サーチ・鑑定系』と『水中呼吸』の魔法を無効化する働きがある文字列をチョイスしている。
つまり、普通レベルの魔法で、このルートを探すことは、ほぼ不可能。
地道に水中に潜り、水路を発見し、尚且つ魔法の力に頼らず、潜水で6階へ続く部屋へ到達する必要性がある。
ふふふ。どーだ! このくらい性格悪い隠し通路ならば、そこそこの上級者が6階へ続く通路を発見できなかったとしても不思議はないだろう。
後から付け足した感は薄いはずだ。
だが、決して進めない訳ではないのがミソだ。




