32 カルチャーショックを受ける
「どうだろう? 洞窟の中で手に入れたものはそちらで好きにして貰って構わないから、調査をお願いできないかい?」
「分かったっス。でも、俺の手に負えるかどうかわかんないから、難しそうなら『冒険者ギルド』に正式依頼として出した方が良いっスよ」
なるほど? そういうものなのか。
「でも、今日の所はちょっと中を見てみるっスよ」
彼は、同じ孤児院内の年長組とパーティーを組んでいるらしいので、午前中いっぱい『接待用ダンジョン』を堪能してもらった。
「だ、旦那、あの洞窟凄いっスよ!!」
昼食に合わせていったん戻って来た彼の手のひらの上には、『魔法石』が二つばかり転がっている。
「確かに、ゴキーブリや弱い魔物は居たけど、結構広くて……まだまだ全然探索が終わらないっス! それなのに、ほら、こんなにたくさん『魔法石』が!!」
「おお、こ、これは……凄いな」
この程度の量でこんなにテンション上げてくれるのか……
お手軽すぎて、本当に良いのか逆に軽く不安になるな。
俺は別の意味で驚いているのだが、彼らは純粋に戦利品について衝撃を受けていると感じてくれたらしい。
「旦那、このダンジョンなら、銀貨1枚の入場料を取ったって入りたがる冒険者連中はいっぱい居ますよ!!」
「ええっ!? ダンジョンに入場料!?」
思わず素が出てしまった。「何ふざけたこと言ってんだ、おまえ」と口からこぼれそうになった言葉を飲み込めてよかった。
人間の発想が斬新すぎて逆にビビる。
じいちゃんの話だと、冒険者って生き物は、コア破壊のために魔族や魔物を蹂躙し、罠は打ち壊し、ダンジョン内の資材を根こそぎ奪い取って行く連中だ、って話だったんだが……
時代が違うのか、それとも、この地域柄なのか……?
「そうですよ! 迷宮都市のダンジョンだって潜るのには入場料がかかるんスよ!? それに、ダンジョンから出たアイテムだって、何割か税金として取られるし……第一、こんな奇麗な『魔法石』最低でも銀貨5枚……いや、7枚はいくっスよ!!」
念のため、ベータやアルファにも確認を取ってみた所、同じような事を言っていたので、そういうものなのだろう。
か、カルチャーショックってこういう事をいうんだろうな……
俺はコギッツくんの教えに従い、冒険者ギルドへ依頼をしてみた。
流石に、入場料は取らない代わりに俺からの報酬は特に無い。ただし、ダンジョン内で入手したアイテムについては冒険者が総取り、という内容だ。
こんなふざけた内容なのだが、コギッツくんの口コミの威力おそるべし。
1階の比較的浅い部分でも『魔法石』を拾える可能性が有る、と分かった冒険者たちで連日大盛況だ。
駆け出しから人気に火が付き、中堅クラスの中には全5階を完全踏破し、俺の館の前へ瞬間移動してくるパーティも現れた。
とはいえ、数日もあれば、地下の構造は自動的に変化する。
部屋数が増えたり、ルートが変わったり、罠が別の場所に発生したり……
俺が最初に設定した罠の『種類』や『特殊な謎解き扉』『瞬間移動魔法陣を設定した部屋』など、変わらない要素はあるものの、中身が流動的なのも『生きたダンジョン』の特徴の一つだ。
ダンジョン・ポイント的にもウハウハが止まらないので、そろそろ地下10階くらいまで大きくしようか……と、ネーヴェリクと拡張工作を進めている時に、冒険者ギルドからの使いが訪れた。




