26 孤児院を抱き込もう!
「あ、あのっ……カイトシェイド様、この度は当孤児院へのこのような慈善事業……大変ありがとうございますっ!」
農作業がひと段落つき、昼食のスープとパンをふるまっていると、シスター・ウサミンとキツネ耳の少年が俺の元にお礼にやって来た。
「いえいえ、慈善事業だなんて……ウチの者だけでは、まだ手が足りず。大量発生してしまったマンドラニンジンの収穫作業をどうしたらよいか迷っておりました。そこへ、助け船を出していただき、こちらこそ感謝しております」
「そ、そんな、私は、その……」
何故か、真っ赤になって俯くシスター・ウサミン。
もじもじと胸の前で組まれた手の動きのせいで、ぷるん、ぷるんと揺れ動く胸元は、若い男には毒なんじゃねーか?
「いやぁ、助かったぜ、旦那! ウチの孤児院は貧乏だからさ、本当はオレっち年長組がダンジョンまで行って稼いでこなきゃいけなかったんだけど……ガキ共の中で風邪が流行っちまって、遠出が出来なかったんだよ」
ほほう?
いくつか聞き逃せない情報があるぞ?
「風邪、ですか? ちょうど良い。私には医学の心得があります。この屋敷に病気の子供をお連れいただければ『回復魔法』で治癒も可能ですよ」
「マジかよ?! ……いや、でも、魔法医にかかるような金は……」
うつむくキツネ耳くんに更なる提案を吹っ掛ける。
「それでは、どうでしょうか? ウチでしばらく収穫・出荷作業を続けてみては? 売上高の半分はそちらにお渡しする契約ですし、ここなら小さなお子様が一緒でも安心です。回復魔法のお代は出世払い、ということで」
つーか……回復魔法ってお金払ってかけて貰う、という概念なんだな。
ちょっと、カルチャーショックだ。
いや、魔族の間だと、そもそも回復が必要な状況=屈辱的な状態、なので、回復魔法はこっそり、ひっそり自分で使うか、俺のような『雑用係』が、業務の一環で「奉仕」として使用することの方が多い。
「えっ!? ほ、本当に良いのか?」
「ええ、もちろん! 病気の子達が健康になるまで当家で預からせていただいても良いんですが……」
「でも、流石にそれは……ご迷惑では……」
シスター・ウサミンが不安気に首をかしげるが、屋敷の1階はまだ全然空きがあるし、何なら『ダンジョン・クリエイト』で、庭にもう一軒家を作っても良い。
「遠慮しちゃだめだよ! シスターさん、ウチの旦那様の『回復魔法』は本当にすごいんだよ」
「ええ、アタシ達も太鼓判を押すよ」
おお?
俺達の話を聞いていた女性の奴隷たちが輝くような笑顔で、どれだけ酷い病気や怪我が治ったかという事を力説してくれた。
な、ナイスフォロー……! ありがとう、二人ともッ!!
「なぁ、ウサミン、旦那の言葉に甘えようぜ? 孤児院で寝ているヤツ等だって、治療してもらえたら助かるかもしれないし……!」
え? 風邪程度の病気でそんなに危険な状態なの?
どうやら、病気の子供5人と、その看病をするために年長組の子がふたり、まだ孤児院に残っているらしい。
「それは大変です! 先ずは病気の子達を連れて来て下さい。手が足りなければ、ウチの召使をお連れください!」
俺は、有無を言わせない感じで彼女の両手を胸元で握り締める。
折角のダンジョン・ポイントボーナスッ!!
死ぬなら、ウチで!! 死ぬなら、ウチの敷地内で!!
シスター・ウサミンは目を白黒させて混乱しているようだが、先に外堀を埋めさせてもらうべく、後ろに控えていたベータに指示を飛ばした。
「ベータ! すまんが、男性陣で手が空いているヤツ、2、3人見繕ってやってくれ。彼女の孤児院に迎えを走らせる。あと、ネーヴェリクに頼んで空いている部屋を病室用に整備してもらってくれ」
「かしこまりました、旦那様」
「あ、ありがとうございます、カイトシェイド様……ッ! それでは、あの、お言葉に甘えますっ!」
シスター・ウサミンが、感激した様にうるうるしながら、案内の先導をしてくれるらしい。
よし……!! 獣人の子供、ゲットだ!!
ここから、なし崩し的にウチに通って貰うために、ベータに子供達にも読み書きを教えて貰えるように頼んでおこう……!