19 家庭菜園を作ろう!
「カイトシェイド様、お風呂と奴隷たちの寝具の設置は終了しまシタ」
「サンキュ、ネーヴェリク。助かった」
おお、寝具の方はまだ考えてなかったが、ネーヴェリクがポイントを使って創り出してくれたようだ。
「で、どうだ? 奴隷たちの様子は?」
「ハイ、何人か、まだ現状を呑み込めていない者もいるようデスが、おおむね良好デス」
一応、元々、主寝室らしき部屋の壁に1階の映像を映し出す。
奴隷たちは、ベータの指示で、テキパキと夕食準備を整えており、この様子なら飢えて死ぬことも無さそうだ。
ふと、風呂場を覗くと、アルファのヤツが、何やら文句を言いつつも、ぼーっとして生気のないオメガを湯舟に漬けたり、頭まで沈んでしまったら、怒鳴りながらもちゃんと引っぱり出したりを繰り返している。
……やっぱりアイツ、介護力高いじゃねぇか……
「明日からは、女奴隷に献血協力を依頼したから、お前の食事も安心だな」
ちなみに、俺の飯も彼等と同じモノで良いので作っておいてくれ、とお願いしてある。
一応、ネーヴェリクも人間の食事を摂れない訳ではないので、カムフラージュ程度に一緒に食事をすることは可能だ。
血液はその後で渡せばいい。
「ありがとうございマス」
ネーヴェリクが遠慮がちに微笑む。
ネーヴェリクは小食だから、女性が6人も居れば十分すぎるくらいだ。
本来の吸血鬼の食事は、本人の外見と同じ性別・同じ外見年齢の人間が最も味覚に合うらしいのだが、そこまで美食にこだわる必要性はないだろう。ネーヴェリクは好き嫌いがないしな。
これで、しばらくは手を加えられる部分は無い。一旦ダンジョン・ポイントが溜まるまでは放置だな。
そんな訳で、初日は色々と戸惑っていた奴隷たちも、数日すれば環境に慣れて来る。
「旦那様、少しよろしいでしょうか?」
俺の部屋にやって来たベータはピシリ、と執事のようなスマートな一礼をする。
購入した時は『よぼよぼのじーさん』にしか見えなかったベータだが、怪我や傷を回復し、俺の分身体に着せる服の予備を着用させれば、何処からどう見ても『貴族家のような格のある家に仕える執事』を体現したような外見へと変貌を遂げていた。
俺特製の風呂の効果か、その体は若々しく、真っ白だった髪もロマンスグレーに戻りつつある。
ま、もしかしたら、犯罪者になる前の状態に戻っただけ、なのかもしれないが……
「ん? どうした、ベータ」
「はい、実は、我々の中から庭で野菜や穀物を作らせて欲しいという意見が出ております」
「野菜や穀物? それがこの辺りでは普通なのか?」
「左様でございます、旦那様」
くわしく聞けば、コレだけ広大な庭のある屋敷の場合、花などを育て庭を飾り立てる「ガーデニング」をするか、その庭の一部を農地へと開墾し、自分たちの食料を生産することがこの辺りでは一般的。
見栄や外見を気にする家はガーデニングを、実利を重要視する家は農地を重視しているらしい。
ウチの場合、一気に14名の人間がこの屋敷に住んでいるのである。
彼らの食料調達については、現在、じいちゃんの遺産である金貨から支出している。
しかし、金貨の量は減ることはあっても増えることはない。
今後、何らかの方法で人間の通貨を入手する方法を確立しなければ、ダンジョン運営にも支障をきたす可能性が有る。
「ふむ、なるほど。わかった、それは確かに必要な投資だな」