17 肉体言語でオハナシしよう!
「慈悲深いフリして何が目的だ、このクソ野郎っ!!」
「俺は別に慈悲深くないし、そんなフリをしたつもりは無いが?」
「だったら何故、俺たちのようなクズのクソの最低最悪なカス共を生かそうとする!!」
「……自己評価が低いな、お前」
「やかましいわッ!!」
「俺はお前たちが使えると思ったから生かしているに過ぎない、ぜっ!!」
ばきっ!!
「!?」
アルファが口喧嘩に乗って来たタイミングで、一発ヤツの顔面にグーパンチを叩き込む。
この手の野郎は肉体言語でオハナシさせて貰うのが一番手っ取り早い。
いくら素質があるとはいえ、アルファはタダの人間である。
そしてここはダンジョンの中。
当然、俺の拳一発でノックアウトだ。
おっと、回復、回復。
やり過ぎは良くないが、ここのボスが誰なのか、きちんと教え込んでおかなければならない。
「……ぐぞぉ……俺は、ごんな……どごろで……ぐずぐず、でぎねぇ……ッ!」
「ほぅ?」
ぶっ倒れ、顔面から鼻血を流しつつ呻くアルファの言葉に、少し興味をひかれた。
「それはどういう意味だ?」
「デメェ……には、関係ェ……無ぇ……っ!」
ぽごっ!!
「うごふッ!!」
俺はアルファの頭を再度、軽くたたくと、その記憶を読み取った。
ふむふむ……。
どうやら彼の生まれは貧しく、病弱な母に薬を届けるため、幼い頃から必死で働くも報われず、時にはスリやかっぱらいのような犯罪を犯しながらでも薬代をかき集めていたようだ。
しかし、その努力が報われる事なく、母親は死亡。
そのせいで手の付けられない悪ガキとして有名になっていたのだが、そんな彼を拾い、冒険者として育てあげてくれたのが、恩人の元・冒険者。そして、その娘である体の弱い一般人の恋人も居たらしい。
しかし、有る時、突如、街に高ランクの魔物が現れた。
恩人の元・冒険者は、街を守るために奮闘し、その魔物を倒したものの、その傷が原因で後日死亡。
そんな失意の中、恋人の少女が、とある不良冒険者クランに誘拐され、凌辱の末、殺される。
しかも、恩人の命を奪った高ランクの魔物を誤って街に召喚してしまったのも、例の不良冒険者クランであり、その現場を見てしまったために、恋人の少女も狙われたようなのだ。
怒りにかられた彼は、なんと、単身でそのクランに乗り込み、40人もの人間を、拳一つで叩き殺している。
しかし、そのクランリーダーを倒すには至らず、犯罪者として捕らえられ、奴隷落ち。
恩人と恋人の敵は、まだのうのうと生き延びているらしいのだ。
「あー、なるほどな。恩人と恋人の敵を倒したいのか……ならば、俺も協力してやってもいいぞ」
このリーダーのムカつく目つきはあの魔王に似ている。
「なん……だ、と……?」
「今、お前の記憶を読み取った」
「テメ……!」
「だが、そのクランリーダーは、強いだろ? 今の俺程度にあっさりのされているようじゃ、お前もまだまだだな。さっさと傷を癒して、風呂入って、飯食って寝ろ。万全の態勢を整えたら、また手合わせしてやる」
顔の傷を回復してやると、アルファは俺をまるで喋るスライムでも見る眼差しを向けて来た。
だが、最初の狂犬じみた光はなりを潜めている。
どうやら、今の状態では俺には敵わない、と認められたようだ。
「……ちッ……! クソっ!!」
起き上がったアルファは、その拳で、一度、床を殴りつけ部屋から退出しようとした。
「おい、ちょっと待て、アルファ。オメガをちゃんと持ってけよ」
「ふざけんな! 何で俺が!?」
「……だってお前、守るものが有った方が強くなるタイプだろ?」
アイツの過去を見た俺の見立てだと、コイツは、『病弱な母親』とか『体の弱い恋人』とか……何か、こう、弱々しい生き物を介護している時の方が、強さの成長率が上がっている気がするんだよな。
俺は、ここに来てからも何の反応も示さず、床の上に倒れ伏したままのオメガを見つめた。
コイツ、見た目的にも小さくて細っこいし、ちょっとネーヴェリクに似てるし、いかにも庇護欲そそる外見だと思うんだが?
「ハァァッ!? ふざけんなぁぁッ!!」
「まぁ、俺としては、これだけ一気に奴隷が増えたから、一人くらいダメになっても構わない」
「……」
俺はそれだけ言うと、くるりと彼等に背を向けて2階へと移動した。