16 殺人鬼アルファ
「よし、次はお前だな」
あと傷の回復が済んでいないのは『元・犯罪者』の二人だけだ。
ベータから聞いたところ、殺人鬼くんが「アルファ」、フルボッコくんが「オメガ」と呼ばれていたそうだ。
まずは、殆ど意識の無いフルボッコくんこと、オメガを回復する。
「……」
「ん? おい、どうした?」
ペチペチ、と頬を叩いてみるが、コイツはウンともスンとも言わない。
一応、殴られた傷は全部治癒できたのだが、ぼんやりしていて瞳に一切光が無い。
回復した感じだと、脳に損傷がある訳ではなさそうだった。
ふむ。時折、人間は酷いショックを受けると、心を閉ざすことがある……だっけか?
犯罪者とは言え、回復してみた感じまだ10代前半。おそらく捕らえられた時の拷問で、心でも折られたのかな?
でも、とりあえず、これだけ身体の方を治癒させておけば1週間程度は生存し続けるだろう。
今回、購入した中では一番若そうだし。
「最後はお前だ、アルファ」
俺は、最後に残った殺人鬼くんことアルファと名付けられている奴隷も回復させた。
「ははッ!! 馬鹿なヤツめ……! この俺をマジで治療しやがった!!」
欠けていた右手が復活すると、彼は両手をパン、パン、と打ち鳴らしその感覚を確かめている。
「ああ、そうだ、アルファ。ついでだし、そこに転がってるオメガの世話は任せる。最低でも一週間程度は生かしておけよ」
「ハァッ!? ふざけんなッ!!」
「お前、同じ人間同士だろう?」
「そんな腑抜けたガキと一緒にするな!」
アルファは短く刈られた緋色の髪を逆立てるように怒りを露わにする。
おー……【奴隷紋】が刻まれているにもかかわらず、主である俺にこれだけ盾つけるとは、なかなか素質が有るな。
「ハァッ!! テメェのおめでたい馬鹿さ加減を悔いて死ねやっ!!」
そして、そのまま素手で俺に殴りかかって来る。
うん、あれだけ失血していたことを考えると、身体の運びもキレも悪くない。
戦い方は拳法なのか、俺が紙一重で側面に避けると、突きの体勢から、素早く肘をみぞおちに叩き込もうと狙ってくる。
びゅっ! がっ! ばしっ!!
「おっと、ははっ、うん、うん」
「くっそ、テメェッ……!」
俺は、アルファの周りを舞うようにくるくると回避を続ける。時折、避けようがない攻撃は受け流すようにしているが、この受け流しの時点で俺の手がわずかに痺れるくらいの威力は乗っている。
もしもアルファが魔人ならば、あの魔王軍でもそこそこ良いトコロ行くんじゃないか? コイツ。
中級程度と思っていたのだが、【奴隷紋】が発動している状態で「主」である俺とこれだけ戦えるなら、紋の束縛が無ければ上級の下くらいにはなるかもしれない。
「ハハハッ!! 良いな、アルファ! お前、気に入ったぞ!」
「ざけんな!! 俺はテメェみてぇなお人好しのアホが一番嫌いなんだよッ!!」
失礼な。
俺はお人好しでもアホでもないぞ!