12 同じような顔立ち?
いや、俺もネーヴェリクも、殆ど人間と変わらない顔立ちのはずなんだが……?
肌の色だって……ネーヴェリクは多少、普通の人間より白っぽいとは思うが、俺は人間だったばあちゃんに似ているので、ヒトに混ざって違和感のあるカラーではない。
胸元の魔核は服を着こんでいるから露出していないし、魔族を象徴するようなモノも無い。
髪の色も目の色だって黒系だ。
この奴隷商人と同じカラーリングだし、同じような色合いの人間はここに来る途中もチラホラ見かけている。
「いや、俺の顔はお前たちと大差無いだろ?」
その言葉に奴隷商人は、何故か絶望と羨望と呆れを混ぜたような表情になった。
「旦那様、ご冗談を……不動産屋のデベロの所の女性従業員たちが色めき立っておりましたよ。中性的とも言える幼さを残した精悍な顔立ち、流れ落ちる絹糸よりもさらに艶やかな夜色の御髪、黒ダイヤも霞む深き知性を讃えた瞳、女たちですら嫉妬するようなバラ色の肌……まるで美の男神が夜空の衣を纏って具現化したら旦那様のような方が生まれるのではないかと」
「……え? いや、それは……」
言い過ぎだろ?
だって、人間の美醜にうるさいサキュバス達からは、馬鹿にされてばっかりだったぞ……俺。
俺の見た目は、商人ゆえのお世辞が大量に入っているだろうから、話半分以下。
しかし、不動産屋からの口伝で個体識別を可能にした本当の要因は何だ?
「さらには、そんな御仁がまるで銀月の化身のような美少女をお連れになり、あれだけ大きな館を即金で購入するなど……町中の噂にならないはずがございません」
ふむ……。
奴隷商人のネーヴェリクに向けた瞳の輝きを見るに、俺単体よりも彼女を連れていることでアタリを付けられた……ということか。
ネーヴェリクは魔族としてはイロモノかもしれないが、人間だと思って見ると、かなり可愛い。
ここに来るまでの間も、何人かの男達が振り返っては彼女を注目していたもんな。
「さらには、奴隷は不良在庫で構わない、などと豪儀な事をおっしゃっていただけたのでしょう? そんなご紹介をいただいては、この奴隷商人のスーレイ、首を長くしてお待ちするしかございません!!」
さらには、俺がこの町に来てからの一連の行動が人間としては特殊だったのか。
なるほどなー。
「そうだったのか」
うーむ……俺たちの外見ならば、人間の世界では目立たないと思っていたのだが……
やはり、その地域の常識を知らないと悪目立ちしてしまうんだな。
……肝に銘じよう。
当初の目的外だが、一人くらいは、この人間世界の常識に強い奴隷を仕入れておいた方が良いかもしれない。