100 地下ダンジョン・バージョンアップ!
ゴブローさんの話や、現在のモンスター生息範囲を整理したところ、地下ダンジョンの構造は30階構想となった。
まず、1階~5階、ここはいわゆる接待用。
黒の森付近のモンスターが主に生息し、危険度は限りなく低い。
初心者であっても、注意すべきは黒鞭蛇の毒くらい。主な産出資産は『魔法石』、時々、クリーンスライムがうろついている。客寄せみたいなものである。
5階から6階への通路は、例の性格の悪い水路のままだが、カシコちゃん始め、高ランクの冒険者の手により、あの水路の水は排水されることが多くなってしまったので、『サーチ・鑑定・水中呼吸不可』の魔法文字は削除した。
魔法文字の維持も結構面倒だし、もう知れ渡っちゃってるし。
ただ、あのタイプの移動方法を取る通路は、6階以降、チョコチョコと設置するようにしている。
6階から8階まではネーヴェリクの創ってくれたアンデッドゾーンだ。
ここのアンデッドはあまり強くないので、初心者が技能を上げるには十分。
9,10階はゴブローさん達が捕らえ……もとい、ご協力にこぎつけてくれたゴブリンさんゾーンである。
ここで戦って、より強くなった者はゴブローさんの一族として下の階層に迎え入れられるようだ。
10階ボスには人造モンスターのギガ・スカベンジャースライムを設置してみた。
コイツはそんなに強い訳ではないのだが、核を壊されても、一定時間後に自動復活するので便利なのだ。
それに、そのサイズは小さめな一軒家程度はある。大きさ的に普通の剣や攻撃魔法レベルでは攻撃が核まで届かないので、初心者の壁としてはほど良い強さだろう。
あ、そうそう、スカベンジャースライムと言えば、あの、ルシーファの生活排水で育てたヤツが、スカベンジャースライムから『ホーリー・スライム』とか言う珍種に変化していたので、試しに10階ボスの宝箱に入れてみたところ、かなり好評だった。
ホーリー・スライムは攻撃性が皆無。
手のひらサイズの大きさで、ほんのり発光しており、きゅい、きゅい、と鳴き、他者に簡単になつく。
日光だけで生きていけるし、風呂に入る時に一緒に入れると、お風呂のお湯が良い匂いになり、あらゆる病の回復を促進する……という、入浴剤みたいな性質を持つスライムだ。
ちなみに、人間達の間では「このスライムを見つけたり、懐かれたりすると幸運値がUPする」と言われて珍重されているそうだが、真偽のほどは不明。
……魔族の間では、そんな話は聞いたことが無い。
単に創るのがやたらと難しい人造魔物ってだけだったのだが……
そうか、コイツ、天使の出汁が必要だったのか。
……普通魔族が扱う魔力と逆属性の魔力だもんな。そりゃ創りにくい訳だ。
そして、11階から15階部分までは地下洞窟型から趣向をガラッと変え、広大な砂漠型ダンジョンにしている。
ダンジョン内部とは一種の空間支配。
地下であっても、砂漠地帯と同じような気候変動を疑似的に再現するのはお茶の子サイサイ。
この辺りからは、そろそろ冒険者も中級以上でないと踏破がキツイ。
ここのメイン住民はサンドワームさんだ。
サンドワームさんは、成長が早く、卵をたくさん産み(増員ボーナス)、しかも共食い(死亡ボーナス)しながらでもぐんぐん育つので、ダンジョン・ポイント的に、とても美味しいヤツなのだ!!
口に入るものなら本当に何でも食べて消化してしまうので、この階層には「クリーン・スライム」はおろか、「魔法石」すら置いておけない。
コイツ等、魔法石も喰うからな?
コイツの居る所でも無事に育つっていったら、セーブ・エリア虫くらいなので、点々とセーブ・エリア虫オアシスを点在させ、そのオアシスの水はかなり高クオリティの回復薬にもなる甘露にしておいた。
周りに生えている草は石化や毒解除のための薬草類だし、転がっている石は魔法石や魔石などの資材系。
オアシスさえ見つけられれば一攫千金も夢ではないが、足元から音もなく襲いかかって来るサンドワームさんの攻撃に絶えず晒され、危険度が高い。そんな階層だ。
16階、17階にはコカトリスのご家族と、その餌になる毒サソリの群れを。
18階、19階にはサラマンダーさん一門とその成長を促進するための溶岩ゾーンを配備してある。
この辺りの階層は、まだコカトリスさんにしろ、サラマンダーさんにしろ、圧倒的に数が少ないので、もっと増えて貰うまでは正直、冒険者に倒されたくない。
そこで、安全なバックヤードを配備し、万が一、彼等が死亡ダメージを受けそうになった時はそっちに強制転移できるような保険を組んだ。
その転移の代償として「何らかの魔法スキルの才能を開花させることが出来る魔道具」がドロップするようになっている。
俺の【才能開花】のスクロール版みたいなものだ。
これは、ダンジョン・ポイントを消費しないと作れないから、あまり倒されすぎると赤字だが、そもそもコカトリスさんもサラマンダーさんも数が少ない。
2階層ぶんでコカトリスさん10羽(内、8羽は雛)、サラマンダーさん12匹しか居ないもんね……
狙って狩ろうとすると、サーチ系の魔法が使える上級冒険者でないと、なかなか難易度が高いはずだ。
むしろ、毒サソリや地形そのものが冒険者にとっては、大きな敵と言って良いだろう。
20階のボスはサキュバス・クイーンのサーキュだ。
一回、俺が簡易式なドラム缶式五右衛門風呂を作ってやったら、滅茶苦茶文句を言われたので、ネーヴェリクのヤツが女性向けのデザインのジャグジーと天蓋付きベッドを準備してやっていた。
……ウチのネーヴェリク、お人好しが過ぎませんかね?
だから、魔王城ではサキュバスに舐められて虐められていたんじゃねーのか?
「デモ、サーキュ様も、カイトシェイド様のダンジョン内では、大切なダンジョン・ポイントを生み出す資材デスから……口の悪い資材の管理練習だと思えば、耐えられマス」
と、キラキラした笑顔で言われた時には、そっと頭を撫でておいた。
ねぇ、ネーヴェリクさん……貴女、『虐められた恨み』とか『根に持つ』とかいう感情は無いの?
俺としてはその方が好きだけどッ!! ……でも、時々心配になるぜ。
……俺もネーヴェリクも、生活面までは面倒見ないからな!
きちんと自分の下着は自分で片付けないと、きっと男に引かれるぞ?
そして、21階から30階までは、ゴブローさん達、元・ゴブリンだった大鬼族の猛者がひしめくガチ・ハードコースだ。
『魔鉄』とか『魔鉱石』みたいな資材が豊富な階層だし、『鍛冶師』くんが成長したら、ドロップアイテムに試作武器を入れてみるのもいいかもしれないと考えている。
ちなみに、ベータが育て始めてくれた『妖天蚕』の糸が採れたので、素材そのままだが、ちょっとだけ宝箱に入れてあったりする。
もちろん、30階のダンジョンボスはゴブローさんご本人である。
もうね、俺の『分身体』より、よっぽど魔王の風格有るんだよね……。
ちなみに、試しにウチのアルファと模擬戦闘をして貰ったトコロ、単体同士だとまだアルファに分があるんだけど、ゴブローさんの補佐にゴブリン・マージから進化した鬼術師とか、ゴブリン・プリーストから進化した鬼巫女とかが居るとアルファの方が分が悪くなるくらいには強くなっていた。
その結果……アルファのヤツが武者修行と称してベータやオメガを引っ張り込んで時々ゴブロー・ファミリーと切磋琢磨しているらしいので、大変良い事である。