10 奴隷を購入の利点
「ネーヴェリク、まずは奴隷を買いに行くぞ」
「……奴隷デスか!?」
翌日、早急にダンジョンを成長させると宣言した俺がそのまま続けた言葉に、ネーヴェリクは不思議そうに、俺の顔を見上げる。
どうやら俺の行動がピンと来ていないらしい。
「そうだ。ネーヴェリク、ダンジョンはどうやって成長させるのか分かるか?」
「ええと……ダンジョン内に『魔物や魔族』の数が増えれば増えただけポイントが貰えテ……そのポイントを振り分けることデ大きく成長させる、だったと思いマス」
ネーヴェリクは、以前、俺が教えたことをそのまま答えた。
それ以外にもポイントの稼ぎ方は存在しているが、一番オーソドックスで王道なのは彼女の回答のとおり。
「ああ、そのとおりだ。だが、実は、ダンジョン内に存在するのが、別に魔物・魔族でなければならない訳じゃないんだ」
「え? そうなんデスか?」
実際は、ダンジョンの中に『生命体』が存在してさえいれば、ある程度のポイントは貰えるのだ。
もちろん『高い魔力を持つ強い生命体』の方が貰えるポイントは高いので、彼女には『魔物・魔族』と教えたし、魔王城付近で人間を捕らえるのは稀だったから、今まではその知識で十分だったのだ。
しかし、現状はだいぶ話が変わってくる。
この屋敷を購入した時に多少情報を得たのだが、この辺りで魔族を見るのは、かなり稀だそうなのだ。
魔物はそこそこ居るらしいが、彼らが自然と住み着いてくれるようになるには、まだまだダンジョンが小さすぎる。
「……と、いう訳だ」
「そうだったんデスね……」
「スマンな。ネーヴェリク、きちんと話をしてなくて……」
あの魔王城では色々と忙しすぎて、こんなにゆっくりダンジョンの基本を話し合う時間がなかったもんなぁ……
「いいえ、大丈夫デス。色々教えていただいテ、勉強になりマシた」
ほわり、と微笑むネーヴェリク。
以前、魔王城の中で栄養ドリンク片手に必死で俺の手伝いをしていた頃と比べると、彼女の頬が少し赤くなっていて……心なしか、いつものハの字に下がった眉にも生気が戻っているような気がする。
「それを踏まえて考えると、奴隷の購入は俺たちにとって色々とメリットが大きい」
「ハイ」
「メリットは大きく分けて四つ!」
俺がネーヴェリクの目の前に指を4本立てると、彼女は、ぽやんとした瞳のまま小さく首をかしげる。
「……四つもあるんデスか?」
「ああ。
一つ、人間は強さの割に稼げるダンジョン・ポイントが高い。
一つ、人間の世界に魔族である俺たちが馴染むためのカモフラージュに有利。
一つ、ヴァンパイア族にとっての食糧確保。
最後の一つが、奴隷という商品は、『ナイト・マーケット』と呼ばれる夜間でないと売り買いが出来ない点、以上だ」