139話 母の冒険譚
これは今から18年ほど昔の出来事である。
世にも美しく男性からの視線はもちろん女性からも熱い視線を向けられている一人の女性冒険者がいた。
名はアメリア。17歳!とある貧しい村の出身者でありながら類まれなる魔法の才能があり、冒険者として順調に成長し当時の最速ランクアップ記録をいくつも更新した才女であった。
このころアメリアは既にAランクの冒険者となっており国をはじめ有力な貴族からの指名依頼というものを受けるまでになっていた。
そんなある日一つの依頼を受けることとなる。
依頼主はのちに夫婦となる『ウォルター=イシュタル』。
依頼内容は、魔族との国境付近にある森の調査をする間の『ウォルター』の護衛である。
この森は危険を伴うものの、貴重な薬草や鉱物など珍しいものが多く存在している。それゆえに腕利きで信用のある冒険者を護衛として雇い調査や採取をするといった依頼が持ち込まれたりするのだ。
「はじめまして今回依頼を出しましたウォルター=イシュタルです。今日からニ週間ほどよろしくお願いします。」
「アメリアといいます。Aランク冒険者よ。」
「俺はギデオンだ!よろしく。」
ギデオン。のちのランベルグの冒険者ギルドのギルドマスターだ!
「クリスチャン=ピエールよ!クリスと呼んでね!うっふっふ」
ウインクをしながらいうのは、濃いめのアイラインに紫のアイシャドー。筋肉質な体で痩せマッチョ以上ゴリマッチョ未満のガタイのいい『オネエ』がいる。
のちにテオに魔法使いとして家庭教師になる者である。
「貴族で依頼主ではあるが、できれば気軽に接してほしい。」
そういうウォルター。
「わかりました。そうしますね。」
ニッコリと優しい笑顔で微笑むアメリア。その微笑みを見たウォルターはカミナリが落ちたような衝撃を受けた。
「そういうことなら俺も普通に話すぜ!敬語は苦手だしな。」
ギデオンがそう口にする。
「ウォルちゃんよろしくね!楽しくなりそうだわっ!」
小指を立てて唇に触れ答えるクリス。
今回はこの4人での行動となる。調査はバルジリア王国から北に広がる【妖魔の森】。
この森の向こう側には魔族の領土が広がっている。
目指すは真北ではなくバルジリア王国の王都ランベルグから北西に位置する場所を調査する予定となっている。
「アメリアちゃんはもうAランクなの?噂の冒険者と一緒に依頼受けられるのは楽しみだわ!うっふっふ」
そう口にするのは、クリスだった。
「クリスも有名じゃない?」
そうクリスは有名だった。男女関係ない。つまり『二刀流』なのだ。
「うっふっふ!そう?ありがとう。なんだかアメリアちゃんとはこれからも仲良くできるような気がするわ。」
笑顔で答えるクリス。
「それは奇遇ね。私もそう思っていたの」
二人で何やら悪だくみでもはじめるかのような表情は誰がどう見ても素敵な笑顔の二人なのだが、周囲を包み込む空気は異色ななんとも言い難い変化空気となっていた。
ある部分で似た者同士の二人は同族嫌悪のようなものがあるのだろうか?
アメリアは当時から常にニコニコとしており人当りのよい表情で過ごしていた。怒った顔を見たことがあるものは一人もおらず、まるで聖女のような優しさを感じる者も多かった。ある意味キレイな面だけど見せており他を隠しているとも取れる。しかしアメリアは身につけたのではなく、自然とそうなっていたのだ。天然ものだった。
そしてクリスはというと男性でもあり女性でもある。何が本物で何が嘘なのか?両方ともクリスではあるものの幼少期はそれらを隠して生きてきた。それが爆発し今のようになっているのだが、幼少期は意識的にこの性質を隠していたとも言える。
そんな意識はなく天然で隠していたアメリア。意識的に隠していたクリス。
そんな同族嫌悪がお互いの存在をイラつかせていた。
そんな空気にあてられている男二人はたまったものではない。
「ギデオン!あの二人大丈夫なのか?」
ウォルターが不安そうに口に出す。
「まあ冒険者なんてあんなものじゃないか?二人とも依頼はしっかり全うできることは知っているしな。心配いらないぞ!」
「ならいいが・・・」
ウォルターは剣術や魔法といった戦う為の才能は全くない。0といってもよい。
そうなると、何かが起きたときには完全に、アメリア、クリス、ギデオン頼みとなる為二人の様子を見ると気が気ではないのだ。
すると御者が
「盗賊です!!!」
「「「!!!!!!!」」」
素早く行動する冒険者3名。
「盗賊はざっと10名ほどかしらね!なら任せてもらおうかしら」
そういってクリスは瞬時に移動し、一人また一人と盗賊を倒していく。
その戦闘を初めて見たアメリアは
「珍しい戦い方ね。格闘技を使った魔法使いなんて。」
ものの数分で盗賊は全滅。
「もう!歯ごたえないわね。男の子ならもっと激しく攻めてくれないと物足りないじゃないの!」
「なにを言っているんだ?」
ウォルターは無意識にクリスの言葉に反応し言葉に出していた。
「ウォルちゃん試してみる?」
ウォルターの背筋に悪寒が走る。
「いや!遠慮しておくよ。」
「うっふっふ!」
数日後。
ちょっとしたトラブルはあったものの、無事【妖魔の森】へとたどり着いた。
調査をしながら森の奥へと進んでいく4人。
そんなときにウォルターがあることに気が付く。
「この辺りは資源が少ないな・・・。」
「それは問題なの?」
アメリアが聞くと、
「この森は資源が豊富なんだ。なぜならこの森は足を踏み入れるものは少ない。一般人ならば尚更、死と隣り合わせになる場所だ。なのに・・・。」
「それは誰かが資源をとってるってこと?」
「その可能性がある。」
その言葉を聞いたギデオンは
「ならばここからはこれまで以上に慎重にいこう。アメリア、クリスいいか?」
「もちろん!」
そういい頷くアメリア。
「わかったわ!」
そう答えるクリス。
しばらく森を探索したが、相変わらず資源の少なさが目立つ。
ガサガサガサ・・・
「誰かいる!隠れてないで出ておいで!」
そういうアメリア。
恐る恐るとでてくる一人の人。いや、一人のボロボロの衣服を来た獣人の姿がそこにはあった。少し震えており両手を上げている。まだ子供のようだ。
これはこの時代の獣人が人族に対する意識であった。
当時、獣人達は激しい弾圧を受けていた。種族として認められず、動物扱い・・・。
いやそれならばまだいいのかもしれない。
奴隷狩りが頻繁に行われ人族に売られ、一生奴隷として扱われていた。
いいご主人様に引き取られればいいのだが、皆がそうだとは限らない。ご主人様によっては奴隷として不当な扱いをされ、牛馬のごとくこき使われその者の尊厳など有りようがない。まさに『物扱い』という言葉がしっくりくるような不当な扱いを受けている者の方が多かった。
「み・・・見逃してください・・・。」
そういう獣人の男の子。
「見逃す!?」
アメリアは優しい表情で首を傾げ聞き返す。
「奴隷になりたくないです。」
震えながら答える獣人の男の子。
「大丈夫よ!私たちは君を奴隷にしないわ」
アメリアは微笑み獣人の男の子の頭を撫でながら優しく答える。
「おうそだぜ坊主そんなことはしない。」
「そうよぉ~こんな可愛い子!個人的にお持ち帰りならするかもね!」
そんなことをいうギデオンとクリス。
その瞬間獣人の男の子は『ビクッ!』っと体が反応する。それに気づいたアメリアは、
「ギデオン!顔怖いから近づかないの。クリスもそんなこといっちゃだめよ。怖がってるじゃないの。」
そう言ってアメリアは獣人の男の子を優しく抱きよせ頭を撫でる。
「アメリアばかりずるいじゃないの!ちょっとくらい触らせてよ。」
「クリス。あなた怖がられてるわよ」
「なんでよ!こんなにプリチーなのになぜ怖がられるのよ。」
「「「・・・・。」」」
この場にいる全員が同じ意見のようだ。
『沈黙』
この場合は全員否定だろう。
「お姉ちゃんたちはどうしてここにいるの?」
獣人の男の子が質問してくる
「この森の生態調査みたいなものかな!植物とかこの辺りで採れるものを調査しにきてるの。」
「ちょっといいかな?」
ウォルターが会話に入ってくる。
「もしよかったら名前を聞かせてもらえないだろうか?」
そういうと、獣人の男の子は軽く頷き、
「僕はセペルといいます。」
「セペルくんか!私はウォルターだ。聞きたいことがあるんだが答えられる範囲で教えてくれないか?」
そういうとセペルは軽く頷く。
「セペルくんはどうしてここにいるんだい?」
「食べ物探しにきてた。」
「食べ物?どういうことだい?」
ウォルターはその言葉に疑問に思った。【妖魔の森】で生活している種族といえば『エルフ』ぐらいだ。森の加護を受けている彼らであればこの森であっても生活するのはたやすい。
しかし獣人は違う。はっきりいって生活しにくい地域なのだ。
「・・・。」
言いにくいのか口を閉ざすセペル。
ウォルターをはじめここにいる全員がなんとなくではあるが一つの予想を立てていた。そこを代表するかのようにアメリアがセペルに問いかける。
「言いづらいことは言わなくていいわ。でも私たちはセペルたちを怖がらせてきたような人族じゃないよ。いきなり信用はできないと思うけど、セペルもつらかったね。追い詰められてここまで逃げて来たんじゃないのかな?」
そういうとセペルは両目に涙を溜め込み、大粒の涙が頬からスーっと流れ落ち、
「わああああああーーーーーーん」
静かな森の中でセペルの泣き声が響き渡る。そんなセペルをアメリアは優しく抱き寄せ泣き止むまで傍にいたのであった。




