Ⅱ
友人に連れられて彼の家へと足を運ぶ。本当はすごき乗り気じゃない。彼の家に来るのはあの浮気を隠そうとした彼に別れを告げて以来だ。
友人が、一応インターホンを押し躊躇なく鍵を開けて入っていく。彼は何度かこの1ヶ月の間に来る間に鍵の在処を探り、持っているといった。もちろん鍵は彼の手へ返すとも。
「・・・吾妻君これは何が起きてるの?」
友人が、鍵を開けて1歩踏み入れた時点で違和感を感じた。
「・・・見ての通りだよ。あいつ、荒れてるんだ。」
「・・・うん。」
家に入った瞬間から感じた異変。家の奥へ進むとさらに酷くなっていく。まるでゴミ屋敷かな?と疑いたくなる状況。そのゴミの山の中のソファの上、丸くなっている人影。間違えなく彼だ。
「・・・皇大のやつ、中園と別れて自暴自棄になったみたいなんだ。そんで『美唯がいない世界なら俺は死んだ方がマシだ。』とか言ってこんなの酒を飲み散らかし、嫌いだったはずのタバコも吸って、ご飯も食べてないみたいでさ。こんな生活していたら当然かもしれないけどあいつ風邪引いてるみたいで。」
「・・・でも、、私には関係ない」
本当は物凄く心配なのにまだ怒りが煮えくり返っているのかつい関係ないと言い切っていた。
「関係あるんだよ。熱もすげぇ高いし、薬も飲もうとしない病院も行かない。ずっと俺が説得してもダメなんだ。『美唯の言うことなら聞く』とか言ってなんも聞いてくれねえ。いい加減にして欲しくて俺が飯買ってきたのにそれも食わねぇし。このままじゃ本当に死ぬ。」
「・・・でも・・・」
「・・・分かってる!でもお願いだ。助けてくれ。ここまでこいつがお前のことを思ってるとは思わなかったけど、こいつにはお前しか居ないんだ。だからお願いだ。」
奏翔が土下座しそうな勢いでお願いしてきた。確かにこのまま放って置く訳にも行かない。
「・・・わかった。だから顔上げて。・・・奏翔くん。私からもお願い、風邪薬とか・・・買ってきて。後ごめんなんか食材とかも買ってきてくれる?」
「・・・ありがとう。わかった行ってくる。」
奏翔へ買い物を頼み、元彼氏・・・と言ったらいいのか彼の元へ近ずく。よく見れば彼は痩せてまるで別人のよう。
「・・・皇大。」
「・・・・・・美唯?みーだ〜。美唯〜」
「・・・うん。皇大、寝て。寝てないでしょ。ご飯も食べてない。そうでしょ?私食べやすいもの作るから。寝なよ?」
奏翔は気がついていなかったのかもしれないが、さっき説明してくれた時も眠りが浅かったはずだ。
「・・・みい、どこにも行かない?」
「・・・行かないよ。起きるまでずっといる。」
「・・・本当に?おれ、みいが居ないの嫌だ。みいが居てくれないとダメなんだ。」
「行かないから、寝て?起きたら食べよう?」
何とか説得して寝てもらおうとしたが、なかなか寝てくれる気配がない。まだどこかに行くとでも思っているのであろうか。
「・・・皇大、大丈夫。居なくならないよ?」
そっと手を繋ぐ。そうするとぎゅっと握り返し安心したのかスっと眠りに落ちていった。こんな可愛い彼は初めて見たかもと思う。しばらくすると熟睡したようで手の力が弱ったのでそっと手を離し、簡単に食べられるものを用意しようと冷蔵庫を開けたが、何も入っていない。入っていたのはお酒だけだった。
「・・・これはないだろ。ん、言われた通り色々買ってきたよ。」
ふとちょうど戻ってきたのか、奏翔が後ろにいつの間にかたっていて開けた冷蔵庫を見て呟いた。
「・・・ありがとう。奏翔くん。」
「・・・うん。もう必要なものない?必要なものあったら言って。」
「・・・大丈夫。あ、奏翔くん、このお酒持ってちゃって。皇大には飲ませない。」
冷蔵庫いっぱいに入っていたお酒。こんなにいっぱい持っていけというのはどうかと思ったが皇大にはこれ以上飲ませたくはないので無茶なお願いをしていた。
「了解。んじゃ、全部持ってくよ。」
「・・・ごめんね。こんなにいっぱい・・・。」
「いーって。友達と明日休みだし呑み明かすわ。」
そう言って奏翔は袋に次々と入っていたお酒を全て入れて帰って行った。
軽く食べられるものを用意していると物音がする。もしかしたら皇大が起きたのかなと思い、音のした方へ行くとそこにうずくまった彼がいた。
「・・・大丈夫?」
「・・・あ、良かった・・・、また美唯が俺の前からいなくなったかと思った・・・。」
「・・・うん。」
少し目に涙を溜め潤んだ瞳でこちらをみていた。
「・・・美唯が居ない世界なんて俺には必要ない・・・。美唯が居なきゃ生きていく意味がない。美唯がいないなら死んだ方がマシだと思った。」
語りだした彼の本音。これを信じようとしてしまうのが、彼のことを好きでいるための特権なのだろうか。
「・・・美唯・・・ごめん、今までごめん・・・。美唯が、別れるって俺から離れていって、どれだけ俺の中で存在がでかくなってるかわかった。こんなの許してもらえると思わないけど、俺には美唯が居なきゃダメなんだ。」
「・・・うん。」
「・・・お願い。俺の傍にずっと居て。俺のわがままかもしれないけどお願い。俺の傍から離れないで。」
「・・・うん。離れないよ。皇大も約束してよ?もうこれに懲りて浮気はしないと。」
怒っていたのが嘘のようにこの可愛い彼に免じて許してしまう。この甘さがいけないと分かっているのに、彼にはどうしても甘くなってしまう。
「絶対しない。誓う。俺が思ってる以上に美唯に惚れてんの。」
「・・・うん。とりあえず、風呂はいってきてよ沸かしてあるから。」
なんだか恥ずかしくなって話を逸らしてしまう。彼の愛も実は最初から知っている。が、言わせたい誓わせたい。誓って手放して欲しくない。いつしか欲張りな自分がいてそれはいくらなんでも欲が強すぎて言いたくない。それが話を逸らしたことに含まれる。
「・・・嫌だ。美唯も一緒に・・・。」
「・・・こうちゃん、入ってきて?その間にご飯用意して待ってる、居なくならないから。ね?」
なんだこの可愛い生き物・・・甘えてくるのを全部聞いてやりたいが、そんなわけにはいかない。まずは彼を元の生活に戻してやらないと。
「・・・わかった、絶対まっててよ?」
「うん。待ってるから。行っといで?」
向かう途中にも「絶対だよ?!」なんて言って去っていく態度があまりにも可愛くて。こんな甘えたな姿、歴代の女達は知らないのだろうか。歴代の女と言ってもただするだけの人やただの浮気相手でしかないおんなたちだが。その人たちには見せたことないのかな。そんなこと思いながら彼のご飯をさっきまで途中で作っていたものに手を加えながら用意して彼を待つ。
「・・・美唯」
「おかえり、食べて。出来てるよ。」
「・・・うん。美唯も一緒に食べよう?」
甘えモードの彼にふふっと笑い、「もちろん」そう答えると彼は嬉しそうに笑った。彼は「美味しい」と一言言ったと思うとパクパク勢いよく食べていき、あっという間に平らげてしまった。
「・・・もう俺、美唯の作る飯以外いらねぇ。毎日さ、俺のために飯を作って。」
「・・・どういう意味」
「だから、美唯が毎日隣にいて笑っていて欲しいし、俺が、美唯の作った飯も俺だけが食べられればいい。」
ふと、食べ終わった彼はまるでプロポーズのような言葉をつらつらと語る。
「・・・それってまるでプロポーズのように聞こえるんだけど、」
「・・・そうだよ、してんの。美唯には一生俺の隣で笑っていて欲しい。離れて言って欲しくない。・・・俺と一緒に住もう。」
突然の告白に驚いた。彼がそこまで考えているなんて、思いも寄らなかったと言うか、不安しか頭にないこのまま彼の言う通りそうした方がいいのかどうか。
「・・・不安なのはわかる。だから余計かな、俺と一緒に住んで俺の隣で常に見張っててよ。」
考えていることが読まれたのかとさらに驚いた。しかし、彼の近くにいれるならそれでいいかなとも思う。
「・・・うん。」
彼のことを怒っていたはずだったがいつの間にか許し、今の彼を受け入れていた。
きっと彼は今言っていたことを絶対に守ってくれると信じて。
「・・・ありがとう。必ず約束する。だから俺を信じてくれ。」
「・・・信じようとは思ってる。」
「・・・うん。完全に信じてもらえるなんて思ってない。だからこれからは行動で示すから。」
そう言ってくれた彼の言葉も表情も、本当に反省も含めての真剣な顔なのだろう。本気で今回は守ろうとしてくれようとしていることはこの目を見ればわかると言いたくなるような真剣な表情をしていた。この表情にはさすがにかけてみようと思う。こうしてこの日を境に浮気性の彼は美唯一筋になった。どんなに女に言い寄られようとも見向きもせず、美唯だけを見て。
彼の本当の愛はこれからも一生、美唯へだけに注がれる。そして、きっと美唯との子どもなんかが出来たらその子どもにも注ぐ愛はあるが1番に美唯を愛し続けることでしょう。