説得しましょ、そうしましょ
主人公の初期設定みたい人って
いますかね?頑張ったのに没行きなんですが…
今までのあらすじ!ずっとずっと楽しみにしてたゲームの本気をこれから堪能出来るぞ!っ時にログアウトボタンが無くなってるのに気付いちゃった!たぶん降参アップデートのせいだと思うんだけど……どうすればいいの!?次回!おのれ運営デストロイ祭り!来週も抹殺滅殺!
よく見るアニメの次回予告風味の殺害予告が脳内を駆け巡ってしまうくらいにパニックに陥っている、本当にゲームから脱出出来ない。
もしかして運営が『バグが取り柄のゲームとか某雑誌に煽られたから勢い余ってデスゲームアップデートだぞい(ハート)』とかやらかしたり?
いや、いくらお問い合わせの項目すら消えてるからってそれは考えすぎだ。今のあの会社ならあそこのゲーム雑誌くらいなら経営ハードモードにするくらい難なく出来る資金力がある。そこまで吹っ切れるならそっちを選んでる筈だ。
てっ、アップデートあったの一月前だしこんな重大なミスがあったら即修正か利用停止させてるだろ。えっ?本格的にどうしよ。詰んだ?人生詰んでしまった?一人暮らしだし割と孤独死がジョーダンに思えないんだけど。
落ち着け!落ち着くんだ俺!VR機器にはこんな事態を防ぐ為半日以上の連続ログインは出来なくなっている!つまり後10時間程ほっつき遊んでれば強制ログアウトになるんだ!
うん、じゃあ問題ねぇや!朝食そこそこ食べたし10時間ならギリギリ保つだろ。それにゲームプレイヤーは遊びによる興奮で産まれるアドレナリン食べれば永久機関だってネットに書いてあったからね!
「そんじゃ、ラスボス君に会いに行きますか」
ラスボス【慈愛と償いの神ノアル・ラスティー】は媚媚のマスコットに変身してプレイヤーのお供になって付いて来てるなんて最大のネタバレを知ってしまったのは半年前、「この子がラスボスのノアルなんですねぇ……あっ、この動画ネタバレがあるので注意です」ってね。低評価ボタンを突き指覚悟で強打してきた。
会いに行くとは言っても遺跡からヒョイッと出れば勝手に遭遇しに来てくれるので何かする訳じゃない。ご覧の通り遺跡の床である石タイルから出れば
「人間さん、こんな所で何をしてるですか?ジュルリ…」
と、ぶりっ子ラスボスさんは涎を垂らしながらやって来る。
このゲームのAIは現在のゲーム界隈では上の下くらいの賢さ。「今日のブレイクファーストはナムルでウマウマドラゴンだったよ!ナマステだね!」と言ったとしたら「良かったですね」とニュアンスだけ読み取ってくるか「すいません、何を言ってるか分からなかったです」と謝ってくる。実験だとしても何で俺はこんな事言ったんだろうね?
要するに細かい対応はしてこないが話が大袈裟に破綻する事は少ないと言った感じだ。はい、いいえしか喋らせて貰えないVRゲームよりはずっとましだ。他の言葉をかけると無表情で見詰められるだけらしいからな。画面越しならいいけどここまでリアルだと心にくるものがあるんだとか。
黄色くて丸型、更には小さな狼耳と円らな瞳をして小さな牙の生えた口をニコニコとさせてラスボス様はこちらの返答を待っている。
一人プレイで奇をてらった発言を考えても帰ってくるのは大雑把な答えだ、有りのまま話そう。
「有り体に言うと幼女を拉致して来ました」
「衛兵さぁぁぁあん!!此処に犯罪者がぁぁああ!!」
おっと、これは予想外。さっきまでの涎を垂らしてまでのロールプレイした姿は消え去ってラスボス様が叫び出した。
皆が邪神ちゃんを拉致るからってこんな言動するようにアップデートするなんて、罪悪感覚えたらどうしてくれんだ。
バッとラスボス様の口を押さえて手繰り寄せる。流石に森の奥地である遺跡の前で騒いだって衛兵さんは駆けつけて来ないがモンスターが反応してゾロゾロ来ても面倒だ。
「落ち着け…落ち着くんだ…。そう、それでいい。さっきのは冗談だ。軽いジョークだったんだ。手を話すから騒ぐんじゃないぞ。」
「はぁはぁ…そうですね。よく考えれば分かったのに言葉の衝撃で反射的に衛兵さん呼んじゃったですよ。」
「そうだぜ?こんなイケてる優しそうなお兄さんが子供を拉致するなんて思えないだろ?正しくは保護だ。」
「衛兵さぁぁぁぁ…モゴッ!?」
「騒ぐなって言ってるでしょうがい。普通に考えれば拉致なんて悪いことした人が素直に言うわけないだろ?」
普通だったらね。基本ゲームプレイヤーってゲームしてる最中は普通じゃないからやっちゃってるんだけどね。
「ふぅふぅ…僕で遊ばないで欲しいですよ。」
新要素だからちょっとハシャイじゃったんだよ。許して。んー、AIの賢さ向上してるかもな、これ。流石に全キャラじゃなくて主要キャラかこのラスボス様だけかもしんないけど。
「何かご用だったのかい?毛玉君」
「け、毛玉!?違います!ノアって言いますです!」
「オーケー、ノア。そんで用件は?」
「そうだったです!インパクト強すぎて吹き飛んでましたですけど、お兄さんに付き添わせて欲しいんです!」
「すまん、急にプロポーズされても答えられない。」
「そ、そうじゃないです!お兄さんの魔力がとっても美味しそうだから森から出るまででいいので付き添わせて欲しいんです!」
という建前なんですよねぇ。知ってるんですよぉ(ニッコリ)。後から「魔力のお味の虜になったです!もう離れられないです!」とか言って無理やり付いて来ようとするもんね。
因みにラスボス様の正体を知っているのを話すとトュルーエンドに辿り着けなくなってしまうので、俺はやりません。
「分かった、それほど長くはないけど三人で町まで行こうか」
「…………?他に誰もいないですよ?」
「じゃじゃーん、この子が件の拉致された幼女ちゃんでーす。」
アイテムボックスから邪神ちゃんをポーンっと排出「「え?」」と重なる一邪神と一ラスボスの疑問符。人を驚かせるのって何か楽しいね!リアルだと迷惑掛けるからやらないけど。
「本当にやってやがったですぅぅぅうう!!衛兵さぁぁぁぁあああーーーーーーん」
「なんで……外?」
「プクククククッ」
ここで、ほのぼのmod効果発動。ボックスに入れた敵やNPCを仲間に出来る素晴らしいmodなんですよ。何も加えてないバニラ環境だとボックスから出しても直前のイベントや行動を行うだけなんですけど、パーティーに加えられちゃうというゲームバランス崩壊仕様でございます。
その影響でボスモンスターは可愛いモンスター以外ボックスに入らなくなってしまってるんだけどね。可愛さによる差別が堂々と行われており、醜悪系ボスモンスターの人権が剥奪されております。
「ッ!?人間!」
邪神ちゃんから放たれた暗黒波動的な攻撃魔法が俺を透過して地面を抉る。このゲームにはフレンドリーファイアは無いのでご安心を。余裕の態度でラスボス様の口を押さえる。
「モゴッ!?モゴゴゴッ!?」
あはっ、ラスボス様ったら眼球飛びそうなくらいこっちガン見してる。何てったって邪神と世界中の人に崇められてる神様だからね、何かしら縁はあると思ってたけどバッチリありそうだね。
このアイテムボックスバグのカオス感!堪らないね!本当は邪神ちゃんをアイテムボックスから出した時点で素直に「分かりました!仲間になります!」となる筈なんだけれどね。
説得しましょ、そうしましょ、っと。
「ヘイ!レディ!弾幕を止めてお話しないかい?」
「……お前さん、我に何をした?」
「仲良くしましょって、お誘いしただけだけど?強制的にだけどね。」
「ふざけるな!!」
憎悪に歪んだ顔が発生した攻撃魔法で歪んで見える。かなり地面だとか木だとか周辺に被害が出そうだけどラスボス様とダメージ通らない俺しか居ないし問題ない…あっ、遺跡も壊れそう。んー、ちょっといただけないなぁ。
「てことで、もう一回拉致しまーす。」
「ちょっと、ま…!?」
「んで、出しまーす」
「おのれ、殺…!!」
「拉致しまーす」
「やめっ…!!」
「出しまーす」
「このハゲがぁ!」
「拉致しまーす」
「ングッ!!」
~5分後~
「拉致しまー「待って……大人してあげるから」…仕方ないなぁ(ニンマリ)」
「良かっ…」
「拉致しまーす」
「なんっ!?」
「鬼です。鬼が居るです」
「出しまーっす。途中の諸々の暴言は傷付いたからこれぐらいは仕方ないよね!お兄さんはフサフサで禿げないけど!」
「もう…勘弁…して…くだ…ウェップ…」
「うん、話を聞いてくれそうでお兄さんは嬉しいよ!」
我ながらスムーズな交渉術だ。見た目小学生高学年くらいの幼女だからこれくらいで済ませたけれど、これが中年のおっさん姿だったら上空にボックスの出口を下にボックス入り口を設置した永遠落下式拷問を喰らわせていた可能性が高かったな。
「それじゃあ邪神ちゃん、これからの旅のお供宜しくね!」
「えっ!?」
「あー…本気で言ってるですか?」
「もちろんです!」
何せこのままストーリー進めると酷い目に必ずあうからねこの子。9.5割のプレイヤーが拉致するのもそれが原因だしね。重要ポジションなのに、二週目である程度ストーリー知ってるなら居なくてもストーリーの進行上問題ないからっていうのも大切なポイント。
実際に一周目に見たけれどカエルみたいなのにモグモグされるシーンはグロくは無いけどえげつなかったからね。
説得も完了した事だし次のシーン行きますか。
「あぁ…なんでこんな人を……呪うですよ、運命」
ぼそりとラスボスちゃんが呟き遠い何処かを眺めた。
ね?ツッコミ役だとは思えないですよね。
勿論、他の二人も壊れてますよ?
邪神ちゃん:快楽主義者「クハハハッ」
ラスボス様:理知的で傍観者きどり
「さて、君はどうこの世界を生きるのかな?」
見た目とのギャップを狙っていました。