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3 見えない相手

「だって、そんなこと言ってたじゃん」

 そう言ってしまってから、広崎は今自分が置かれている状況にハッと気付き、堂本に「すみません」と頭を下げた。

 風太がずっと笑顔なので、つられて広崎も緊張がゆるんでしまったらしい。

 堂本はにがり切った表情で、再び伊藤を睨んだ。

 伊藤は消え入りそうに身をちぢめながら、それでも懸命けんめいに話を引き取った。

「ええと、そうしますと、お祓いではない方法、例えば超能力とか」言ってしまってから伊藤は顔を赤らめ「まあ、何かそういう方法を使って、いわゆる、その、オバケ的なものを退治たいじされるわけですか?」

 風太は、口角をキュッと上げて微笑みながらも、首を振った。

「それも違いますが、とりあえず順を追って状況を話していただけませんか?」

 そう言われて、伊藤も多少落ち着きを取り戻し、昨晩の事件のあらましを話し始めた。

「昨夜話を聞いた時は、加山くんも疲れていたんだろうということで気にもしませんでした。ところが、今朝ほど確認したところ、一昨日のほぼ同じ時刻に同じ場所で、別の人間が『同じ人物を見た気がする』というので、念のため防犯カメラをチェックしました」

 伊藤は立ち上がり、応接室のサイドテーブルに最初から用意してあったモニターテレビの電源を入れた。

 すぐにコーヒーラウンジの店内らしい映像が映し出された。画面の右隅みぎすみに日付と時間が表示されている。

「フレームギリギリで見にくいですが、右端のテーブルに注目していてください」

 画面の左側手前から、タキシードを着た男の背中が映り、右の奥へ進んで行く。

「加山くんです」

 加山は誰も座っていないテーブルの前で立ち止まり、何か話している。

 そして頭を深々と下げ、頭を上げた瞬間、何かに驚いたようにのけぞり、その場にへたり込んだ。

 音声はないが、恐らく大声を出したのだろう、もう一人のタキシードの男が加山にけ寄り、助け起こした。

「その時入口の方にいた市川くんです。とりあえず加山くんを落ち着かせると、残っていらしたお客さまには、同僚が貧血を起こして倒れたが大丈夫だったと、上手うまく言いつくろってくれました。しかし、何度も映像を確認しましたが、加山くんが見たという人物は映っていません。もちろん、市川くんも何も見ていないと言っています」

 伊藤は途方に暮れたような顔でモニターを停止した。

 風太は少し考えながら、伊藤に尋ねた。

「現在、そのお店はどうされていますか?」

「万一のことを考え、改修工事中ということで仮囲いをして、奥側の半分を閉鎖しています」

 それまで腕組みをして横で聞いていた堂本が、グッと身を乗り出して、割り込んできた。

「言って置くが、オープン以来、コーヒーラウンジで人死ひとじにが出たことなど一度もないぞ」

「そうでしょうね」風太は笑顔をくずさず、続けて伊藤にいた。

「加山さんともう一人の方は、その時のことをどう話されていますか?」

「定刻に店を閉めようとして、残られているお客さまにラストオーダーをうかがった後、高校生ぐらいの若い男性が座っているのに気付き、お断りしようとした、というところまでは一緒です。ただ、もう一人の新井くんの方は、声を掛けてすぐ別のお客さまに呼ばれ、戻ってみたら誰もいなかった、と言っています」

「なるほど。お二人は、その後どうされていますか?」

「加山くんは今日も出勤しているはずです。新井くんは今日は夜勤明けなので、この件を内密にするよう言い含め、自宅に帰しました」

 風太はニッと笑った。

「つまり、加山さんの事件のことは、ある程度、従業員のみなさんには知れ渡っている、ということですね」

 伊藤はまた額の汗をぬぐい、小さく頷いた。

 それまで黙って映像を見ていた広崎が、風太の方に振り向いた。

「それにしても、ビデオで見るかぎり、何も変なものは映ってないねえ」

「こういう場合、人間には見えても、カメラには映らないのが普通だよ」

「えー、でも、心霊写真とかあるじゃん」

「あれはほとんどの場合、現像ミスだよ」

 二人の同級生的な会話を聞いてますます不機嫌な様子の堂本を気にしながら、伊藤が風太に質問した。

「それはどういう意味でしょうか?」

「『位相いそうの異なる情報は、実体化しない限り感知かんちできない』ということですが。ああ、そうだ」風太は何か思いついたらしく「すみませんが、一万円札をお持ちでしたら、二、三分貸していただけませんか」

「え、ああ、すみません、今は手持ちが」

 すると、ムスっとした表情のまま、堂本が、革の財布から一万円札を出して風太に渡した。

「ありがとうございます。すぐにお返ししますので」

 風太はニコニコしながら、ちょっと気取った仕草で一万円札の両面を皆に見せた。

「これは素材としては紙ですね。ですから、こうしてしまっても、紙であることに違いはありません」

 そう言いながら、一万円札をビリビリと破ってしまった。

「おい、なんてことをするんだ!」広崎があわてて止めたが、遅かった。

 風太は、破った一万円札を丸めて左の手のひらに乗せた。

 それにフッと息を吹きかけると、ボッという音と伴に一瞬で燃え上がり、消えてしまった。

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