エピローグ
新幹線の駅のコンコースは、相変わらずの混みようだった。
「本当に飛行機じゃなくて良かったの?」
広崎の問いかけに、考えごとをしていたらしい風太は、「え?」と聞き返した。
「なんだ、聞いてなかったのか。だから、もし、直接戻るなら、飛行機の方が早いんじゃないかと思ってさ。まだ切符を買う前だから、もし、気が変わったなら、地下鉄に乗れば五分で空港に行けるよ」
「へえ、そんなに近いのか」
広崎は自慢げに鼻をうごめかせながら、「便利な反面、ビルの高さ制限とか、騒音とか、問題もあるけどさ」と、一応、謙遜してみせた。
「ありがとう。でも、言うのを忘れてたけど、この何ヶ月か、大阪で修行してるんだ」
「え、滝に打たれるとか?」
風太は笑いながらパペットを取り出し「違うよ、本業の腹話術だよ」と少年の声で答えた。
「大阪って、腹話術が盛んなの?」
風太は、パペットの手で広崎の胸を叩き「んなわけ、あるかーい!」と突っ込んだ。
普通の声に戻り、「できればもっとお笑いの要素を入れたくてさ」と補足した。
「なるほどなあ。それで修行か。それじゃあ、うんと修行して、来月のファミリー感謝祭では、ドッカンドッカン受けてくれよ」
風太は苦笑した。
「おいおい、あんまりハードルを上げないでくれ。こっちはまだ修行中の身だからさ」
「大丈夫さ。みんなそんなに期待してないから」
「してないんかーい!」
二人が大きな声で笑うので、周囲の通行人が避けて行く。
風太は少し真顔に戻り「周りの人の迷惑になるから、もう行くよ」と告げ、パペットをショルダーバッグにしまった。
広崎も真面目な顔で「そうか。じゃあ、気をつけてな」と言って、ふと、首を傾げた。
「大阪といえば、秀吉の本拠地だけど、大丈夫かな?」
「何言ってんだよ。彼が亡くなってもう四百年以上経ってるんだ。心配ないさ」
「そうか、そうだよね」
広崎は、最後に風太と握手をしようとして、左右どちらの手を出すか迷った。
「どちらでもいいよ。昨夜、残っているパワーを一旦全部放出したから、今は何もないよ」
二人はギュッと握手を交わした。
「ありがとな、風太」
「こちらこそ、みなさんによろしく。ああ、それに、コシのないうどん、美味かったよ。じゃあな」
改札を抜け、ホームに上がったところで、風太の口が少し開き、ほむら丸の声がした。魔界側から遠隔で伝えて来たらしい。
「さすがに若のご友人」
風太は自分の声で「何が?」と尋ねた。
「霊感があられまする。今、われが魔界にて西方を見まするに、大坂の辺りに、何やら大きな力動の予兆がございます」
「そう。でも、ぼくらと関係があるかどうかわからないよ」
「で、あれば、良いのですが……」
その時、新幹線が到着し、ほむら丸の呟きは掻き消された。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
尚、本作の舞台となっている都市の名前は、尊敬する住野よるさんへのオマージュとして、伏せさせていただきました。
さて、作品中でも少しふれましたが、次回の舞台は大阪となります。これはもう当然ですが、地名を伏せることはいたしません。
なるべく間を置かぬようにしますので、よろしければ次回もお読みいただけたら、幸いです。




