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プロローグ

 かつてこのターミナル駅は、新幹線から降りた途端とたんにラーメンのニオイがすると言われていた。それを気にしてではないだろうが、これでもか、というぐらい強烈に甘ったるいパンケーキの香りがただよっている。

 時刻はすでに午後九時を過ぎており、新幹線から降りた客は皆急ぎ足でコンコースを通り過ぎて行く。実家なのか、宿泊先なのか、いずれにせよ一刻も早く旅の疲れをいやすべく、それぞれの目的地に向かうバスや地下鉄の乗り場に急いでいるのだ。

 その人の流れに、ポツリと取り残されたような人物がいた。

 おそらく二十代半ばぐらいの若者であるが、髪はフワフワしたアフロヘアーで、白っぽいトレーナーの上からデニムのオーバーオールを着るという、まったく今時の流行はやりを無視したような奇妙な格好かっこうをしている。

「どっちに行きゃいいんだ?」

 そう言いながら、肩にかけた布製の大きなショルダーバッグから取り出したのは、スマホではなく、人形であった。腹話術師などが使う、手を入れて口を動かすタイプのパペットである。顔は西洋人の男の子のようだ。

 だが、若者がパペットを左手にはめ、口を動かすと、男の子の顔に似合にあわぬ、しゃがれた老人の声が聞こえてきた。

「われの記憶が確かなら、新幹線口とは反対側の出口からバスに乗るのじゃよ、わか


 新幹線の駅から、二両がつながっためずらしいバスにのり、四つ目のバス停で降りると、大きなホテルが目の前にあった。全国にチェーン展開しているオリオン座ホテルのロゴマークが光っている。

 昔と違い、アフロでオーバーオールだからといって、入口で止められることもなく、若者はツカツカとフロントカウンターに向かった。

 すると、フロントクラークの一人が、うれしそうな笑顔を見せた。

「風太、わざわざ来てもらって、ありがとな」

 風太と呼ばれた若者も笑顔になったが、キュッと口角こうかくを上げただけの、いわゆるアルカイックスマイルであった。

「いやいや、慈典しげのり。お礼を言うのは、こっちの方さ。最近、演芸場からなかなかお呼びがかからなくてね」

「とりあえず部屋は用意してあるから、今日はゆっくり休んでくれ。詳細は、明日ゆっくり説明するよ」

 カードキーを受け取った風太は、ロビーを横切ってエレベーターに向かった。

 途中、表通りに面したコーヒーラウンジの前を通り過ぎようとした時、風太のショルダーバッグがモコモコと動き、あの老人の声がした。

「若。何やら、気配がしますな」

「ダメだよ、ほむら丸。今回は、そっちの仕事じゃないんだから」

御意ぎょい

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