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ハルとエレル 1

タタールが港町に到着したのとほぼ同時に、ハルも自分のゲルに到着した。

ハルはすぐに剣の国へと向かうための準備をしたわけではなく、まず配下の一人を船の国の衣服を買いに港町へと向かわせ、さらに、船の国の言葉を読み書きできる配下に文書を偽造させた。文書の内容は、弓の国は船の国の重要な交易相手でありそれを攻撃したということは船の国に牙をむいたことと同じと思えというものである。

船の国との交渉はまだ行われていないが、交渉が成立しなかったとしても船の国は海の向こうであり剣の国との国交もないので、文書の偽造が発覚するとは考えられない。詐謀に使っても問題ないだろうとハルは考えた。

船の国は世界最強の国とされている。そのため、剣の国の傘下になったばかりの槍の国、棍の国には、船の国が弓の国と手を組むという事実だけでも充分に影響を与えることができる。

ハルは配下に、船の国の衣服が着き次第それを着て槍の国と棍の国へと偽造した文書を持って行くよう指示を出し、自身は三十人程を引き連れて剣の国へ向かった。

最短ルートはまず槍の国へ向かいそこから剣の国へ向かうルートだが、ハルは戦闘があった地域を見ながら進もうと考えたためまず鉄の国へ向かい、そこから北上して槍の国へと入り、さらに北上し剣の国へ入るというルートをとった。

ハルはそこそこ速いペースで進んだがその日のうちに鉄の国へと入ることはできず、弓の国内の宿駅に泊まった。

ハルはエレルと宿駅で剣の国の領土を進むにあたっての方針を話し合った。

エレルというのは、ハルの父の友人である。まだ弓の国が一つでなかった頃にエレルはハルの父と共に先代国王と戦った経験があるため、城での会議に参加するようサンサルに強く頼まれたが、

「作戦は全てあいつが考えて、俺はそれをこなしただけだから会議に行っても役に立てないぞ」

と言い、城での会議には参加しなかった。

宿駅での話し合いは二人で行われた。ちなみに他の配下は、敵国に入ったら飲めないという事でしこたま酒を飲んでいたため酔い潰れて寝ている。

「明日から鉄の国に入るけど、今は剣の国の領土になっているから少し用心して進みたいんだよね。僕は明日から色落ちしたボロボロの服を着る、その代わりエレルさんが華美な衣装を着てくれない?」

と、ハルが言い、

「別に構わないけど、どういうつもりなんだ?」

と、エレルが聞いた。

「僕は長になってまだ日が浅い上に子供だから長だと信じてもらえないかもしれないからね。まず、エレルさんが長のような格好をして鉄の国、槍の国を進む事によってエレルさんが長だと思い込ませる。剣の国へ入ったらエレルさんが向こうの重役と会って王と交渉できるよう取り付ける。王と会ったら僕が長であることを明かして交渉を始めるって流れでいこうと思うんだよ」

「なるほど、それは分かったがなぜ俺なんだ?正直、俺は交渉が苦手だから向こうの重役に王と会えるように頼むということも上手くいくか分からないぞ」

「僕達の中では本来最も長にふさわしいからだよ。僕の父とエレルさんの雷名は剣の国でもとどろいているし、僕の父の死後、長になるのはエレルさんだろうと剣の国では考えられているはずだよ。父が死んだ時サンサルさんもエレルさんを長にした方がいいって言ってきたしね。交渉が苦手なら僕がやり方を考えるよ」

と、ハルが説明すると、

「分かった」

と、エレルは了承した。

話し合いを終えた後二人は別れ、それぞれ就寝し翌日に備えた。


翌朝、宿駅を出発し鉄の国へ向かった。鉄の国には昼前に到着した。

鉄の国の街並みは全く変化しておらず、鉄鉱石をインゴットへと加工する工場も弓の国傘下の頃と変わらず稼働していたが、城はハルが想像していた以上にボロボロになっていた。城壁は熱線を受けて溶けているところやヒビがはいっているところが多々あり、建物は屋根が崩れ落ち入り口が塞がれている。城が使用できないため代官となったチェスターは屋敷で仕事をしているらしく、チェスターの屋敷はひっきりなしに人が出入りしている。

城を見てハルは、

(熱線の跡が正面に集中しているな)

と、思った。城の向かい側の山を見てみると木が伐採されている箇所がある。

ハル達は、街中はこれ以上見る必要は無いなと考え、城の向かい側の山へと向かった。

山には溶二達の足跡や一時的に作られた陣地の跡がまだ残っており、溶二が引き連れていた大体の人数が分かった。

ハルは、

(異世界人自身が連れている人数は結構少ないみたいだ)

と、分析しさらに、

(この程度の山なのに、馬の足跡が無いな。馬の扱いには慣れていないのかな)

と、多少だが敵の技術力も知ることができた。

鉄の国での調査を切り上げて、ハル達は槍の国へと向かった。

槍の国の土地は起伏に乏しいためかなり速く進むことができた。

(これなら二千人もの兵をかなり速いスピードで進ませることができるかもしれない)

と、ハルは移動しながら思った。

しかし、ハルは実際の戦場からはあまり有力な情報を得ることはできず、せいぜいエルティンの陣地跡を見て、

(エルティン殿もアホな陣地の作り方をしたなぁ、土地が平坦なのにほとんど何も工夫してないんだから)

と、思うだけだった。

そのまま槍の国で夜を迎えたため、ハルは剣の国の重役の屋敷へと偵察兵を出し、槍の国の城下に宿泊した。

翌朝、ハルは槍の国を出て剣の国へ入った。

ハルは溶二が住んでいたというトラトスの町も見ておこうかと思ったが、

(戦闘があったわけでも無いのに調査してもしょうがないか)

と、考え素通りした。

トラトスの町を過ぎて三つ目の町リトネスに剣の国の大臣の一人オルト・エッジワースの屋敷があるため、とりあえずそこを目指した。リトネスに入ってからもハルは数日はオルトの屋敷へは行かず、文書の作成と、偵察兵を出すことだけをしていた。

文書の内容は平和に向けての話し合いをしたいという旨の事を書いていたので、ハルは書いていて少し笑ってしまった。

文書も作成し、必要な情報を集め終わると、ようやくハルはオルトの屋敷へと向かった。

屋敷には門番がいた。エレルは門番に、

「弓の国から国王タタールの使者として来たエレルだ、エッジワース殿に話があるため通して頂きたい」

と、言ったが、門番は目の前の怪しい集団を当然大臣と合わせるわけにはいかないため追い返した。

追い返されてしまっては弓の国の使者は逃げて行ったという噂を広められかねないため、当然帰るわけにはいかず、エレルは、

「なぁトニー、母を助けたいとは思わんか?」

と、突然門番の名前を呼び、さらに女物の服の切れ端と一房の髪を取り出した。

ハルがオルトの屋敷に向けて放っていた偵察兵はオルトの偵察だけを任されているわけではなく、門番のことについても調べ上げていた。偵察兵が事前に門番の家を突き止め、彼の母を誘拐しており、宿とはまた別の場所で軟禁している。

服の切れ端と髪をみた門番は固まってしまった。

それを見たエレルが、

「我々を通さないと、母だけでなくお前も危険かもしれないぞ。俺達が持って来ている文書は剣の国にとっても重要なものとなるだろう。それを持って来た使者を追い返したとなれば、俺がエッジワース殿だったなら」

と、言い、さらに少し溜め、

「お前から四親等以内の人間を全て殺し、尚且つ先祖代々の墓を暴き骨をゴミ捨て場に捨て墓石を全て粉々に砕くだろうな」

と、言ったため門番は震え上がってしまいハル達をオルトの所へ通した。

オルトはエレルから文書を受け取ると無言で読み始め、数分後、

「分かりました、王には私が連絡致します。準備ができましたらお声掛け致しますので、しばらく待機して頂きたく存じます」

と言った。


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