港町
サヨと別れて二日後にタタールは港町に到着した。
タタールは、城を出てからずっと気になっていることがあった。ダライの風邪の事である。
弓の国の港町は、城の国が友好の証にと築城した弓の国の城を参考にタタールが造り直したもので、城以上に堅固な町となっていた。町の周りは塁線が所々折れた高石垣と城壁に囲まれ、さらに広大な水堀が囲んでいる。そのため、町に入るには北か西に設置してある土橋を渡らなければならないが、土橋に入る前に大型の馬出を突破しなければならず、土橋を渡っている最中も城壁の狭間から横矢がかかるようになっている。運良く土橋を渡り切れても、町の入り口は枡形虎口のようになっているため敵兵を袋叩きにすることができ、町に侵入されたとしてもしばらくは見通しの悪い道が続くため敵兵は伏兵と横矢の恐怖に怯える事になる。
しかし、これだけ堅固な町であるため住んでいる人間は安心しきってしまい、どうしても気が抜け易くなる。ダライの風邪もその事に起因しており、長としての手腕も鈍っているのではないかとタタールは少し心配していた。
町に入ると、医者にサヨから貰った薬草の解析を依頼してからダライの屋敷へ向かった。
ダライは風邪がまだ治っておらず、横になっていた。
「久しぶりだな、この町ができた時以来じゃないか?」
と、ダライは横になったまま言った。
「君が風邪を引いたって聞いたからお見舞いに来たよ」
「本題はそんなんじゃねぇだろ」
「まぁ心配していたのは本当だよ。それで早速なんだけど」
と、タタールが話を始めると、
「まあ話は後にして、飯と風呂を用意してあるから先にそっちを済ませてくれ。長旅で疲れているだろうしな」
と勧められたため、タタールは風呂と食事を頂く事にした。
風呂と食事を終え、ダライの部屋に戻ると、ダライは起き上がっていた。
なんでも、先程医者が持ってきた薬が効いたらしく、この数十分の間に完治したらしい。
医者曰く、タタールの持って来た薬草は凄まじく効く上に副作用も特にないらしい。
(帰りにサヨにお礼を言いに行かないとな)
と、タタールは思った。
「さて、それでお前の話ってのはやっぱり船の国についてか?」
と、ダライが切り出した。
港町では様々な国との交易が行われておりその中でも最大の相手国は船の国である。その船の国の協力を得ることができれば剣の国の士気を削ることにつながる。そのため、会議でのことはまだ話していなかったが、剣の国と戦うにあたって船の国に協力を要請することをダライはなんとなく察することができた。
「うん、会議で城の国と船の国に協力を要請する事になってね。船の国は世界最大の国だから、王である僕が交渉に行くのがいいと思ったんだけど、船の国との交易は君に任せているから僕はあの国についてあまり知らないんだよね」
「あの国は蒸気で動く船だけでなく上水道、下水道、舗装道路と確かにすげぇけど、王がわざわざ交渉に行く程でもねぇと思うぜ。表向きはいまだに最強最大の国だが、実際はあと二十年もすれば消滅しそうなくらい急激に弱体化しているって話だぜ。向こうに送り込んでいる部下の話だと、治安がどんどん悪くなる一方で、最近では敵の偵察も頻繁に来ているみたいでいつ敵が攻めて来てもおかしくないらしい」
と、ダライは言い、続けて
「お前がよければ、俺達が交渉をやっておくぜ」
と、提案した。
(それがいいかもしれない)
と、タタールは考えた。
港町にも船の国にも剣の国から偵察に来ている者がいる恐れがある。タタールが船の国へ頼みに行くとなると、その偵察兵が話を盛り
(剣の国は弓の国をここまで必死にさせるまでになったか)
と、剣の国で思われ敵兵の士気が上がってしまう可能性がある。
ダライに任せればその心配は無くなる上に、ダライは船の国の有力者とも親しいため交渉をスムーズに行うことができる。さらに、タタールは船の国へ行く必要が無くなるため、すぐに城の国へ行くことが可能になる。
「それじゃあ君にお願いしようかな」
と、タタールは言うと、
「任せておけ」
と、ダライから頼もしい返事が返って来た。
交渉はダライに任せる事になったため、タタールは城に戻ろうと思ったが、
「久しぶりに港町に来たんだから、少し町の様子を見て行ったらどうだ」
と、ダライに言われたのでタタールは少し町を見物する事にした。
港町では種々雑多な物が売買されており酒店や飲食店等もあったが、タタールは黄金の国の物品を取り扱う店でサヨへのお礼にとシノブモヂズリという布を買うだけに留めておき、鉄工場と練兵場の見物に向かった。
鉄工場では日用品や剣や槍などの武器を製作しているが、世界各地の技術が集まっているため、凄まじい精度の物が作られていた。鉄工場は城にも一応存在するが、それを遥かに上回る技術と規模であったためタタールは驚いた。
次に訪れた練兵場では騎射の訓練の他に剣や槍の訓練も行われていた。騎射の技術は弓の国伝統の複合弓によるものだけでなく、黄金の国から伝わった大弓による騎射も訓練されており、槍の技術も船の国から伝わった集団戦法を活用できるように訓練が行われている。
見物を終えタタールは、
(港町に住むと気が抜け易くなるというのは杞憂かもしれないな)
と思うようになった。
タタールは、一旦ダライの屋敷に戻り交渉のことを再度頼むと、迅速に城へと戻る支度を済ませ城へと向かった。




