会議
弓の国の草原は、起伏もあれば岩石地帯などもあり、沼や池も多く、ステップ気候で乾燥している国ながら場所によっては谷地坊主等もできる。そのため、本来なら割と移動し難い土地なのだが、タタールの祖父ティムは交通網の整備や、替え馬、食料等を備えた宿駅の設置を優先的に行ったため今ではかなり移動し易くなっている。今回の様な国中の長を召集し会議を開くような場合も迅速に行う事が出来た。
東西南北各地の長が集まったが、唯一、港町の長ダライは風邪で寝込んでおり参加出来ないと使者を送って来た。
会議の内容は、状況の確認と今後の方針である。
タタールは、
「鉄の国に一番近いのは、ハルだけど後詰めの要請とか来なかったかい?」
と、とりあえず東の長ハルに状況の確認をした。
ハルはまだ一三歳であったが、父が病気で倒れたため長を引き継いでいた。まだ若く経験不足ではないかと考えサンサルが他の長を立てる事を提案したが、ハルの父は息子は自分以上に有能かもしれないと考え結局ハルが長となった。
「来てないよ、あの人プライドが高かったからまだ子供の僕にそんなこと頼みたくなかったんじゃないの?」
「そうか、結局最期まで変わらなかったか…」
と、タタールは悲しそうに言った。
「お前はたしか、鉄の国に何人か送り込んでいたはずだろう。そいつらから何か情報を入手してねぇか?」
と、サンサルがハルに聞いた。
「順を追って説明するよ」
と、ハルは説明し始めた。
「エルティン殿は槍の国へ進行したけど思いの外守りが堅くてなかなか進まなかったみたいだよ。それでもあと一歩で敵の主力を倒せそうなところまで追い詰めたらしいけど、背後から魔法の炎を使う将が裏切った二千人近くの兵を引き連れ攻めて来て一気に形成を逆転されたんだって。すっかり混乱したエルティン殿達は少人数で鉄の国へ引き返したけど、剣の国の軍はそのまま追撃してすぐに城は包囲されたんだ。あとは炎の魔法でじわじわと城を破壊して兵の心身を疲労させてエルティン殿を降伏に追い込んだ。僕が聞いたのはこんな感じかな」
「なかなか詳しいな。俺達が派遣した間者は魔法使いが鉄の国の城を包囲して五日で陥落させたって情報しか入手して来なかったぜ」
「僕が派遣した兵達も実際に戦場を見て来た訳じゃないよ。エルティン殿の指揮で戦った兵達から話を聞くことを中心に調査したんだ。だから、魔法使いの戦い方なんかは分からないよ。挟撃されて兵達は混乱していたわけだからね。サンサルさん達が派遣した間者も僕達が情報を収集してる事を知っていたから質より速さを優先したんじゃない?とりあえず陥落したことだけでもって。包囲から陥落までの情報は僕のところにも鉄の国が負けてから入ってきたし」
と、ハルは言い、続けて
「ついでに言うと僕は、最初は頼まれたら加勢しようと思ってたけど、エルティン殿が思いの外苦戦しているみたいだったから頼まれていないけど手伝う事にして兵を率いて槍の国に向かっていたんだ。でもそのすぐ後に鉄の国からかなり大勢の裏切り者が出たって聞いて逃げて帰って来た。もっと早く加勢していればこんなことにはならなかったかもしれないのにごめん」
と、聞かれてもいないことを付け加えた。
サンサルは、
(ようやく青二才らしいところを見せたな)
と思い、少しだけ警戒を解いた。
これ以上の情報は期待出来ないと考え、今後の方針を話し合う事にした。
しかし、部族間での対立はタタールの父ルイが終わらせており、他国との戦いも彼が城の国との友好関係を築き、船の国との交易を開始してからは無くなっていた。ルイや当時戦いを指揮していた長はすでに全員死亡しているため、会議の場には戦いのやり方も終わらせ方も分かる者がおらず、状況を確認していた時と比べて踊りもしなければ進みもしない会議になった。
それでも、剣の国へ今ならまだ許してやるから鉄の国を明け渡せという旨を伝えに行くことと、城の国、船の国へ協力を要請することは決まった。
タタールとしては高圧的な交渉は好きではなかったが、弓の国が下手に出て講和を持ち掛けるわけにはいかず、上手に出れば剣の国の民の心を逆なでする可能性があるものの、結局決めるのは王であり、まだ条件を飲む可能性がある。
ただ、交渉は失敗し十中八九戦う事になるだろうとはここにいる全員が思っている。
「船の国には僕が行くよ、あそこは世界最大最強の国だから王の僕が行くしかないだろう」
と、タタールが言い、
「剣の国との交渉はハルが行ってくれ」
と、サンサルがハルに言った。
「確かに僕が一番剣の国には近いけど、行くのは他の人がいいんじゃない?」
と、ハルは他の長を推したが、
「いやお前が行くのが一番効果的だ。例えば、王の側近の俺や大人の長が行くとあちらさんは俺達が相当焦っていると思うかもしれん。その辺の大人より優秀だがまだ子供であり長歴が短いお前が行くことで剣の国の相手など子供で充分だという意思表示になる。元々こちら側だった鉄の国だけでなく、槍の国と棍の国もこちらに付く方が有利だと思い込ませておけば裏切らせることができるかもしれん。本来なら向こうから講和を持ち掛けるように仕向けるのが一番いいんだが連戦連勝で剣の国の民の心が昂ぶっているであろう今じゃ無理だろうしな」
と、サンサルが説明したため承諾した。
海を越えた先にある船の国とは違い、弓の国のすぐ北にある城の国への協力要請は剣の国との交渉が終わった後でも間に合うため、後でタタールが行くことになった。
今は他に話し合うことも特に思いつかなかったため、国境にある辺堡と呼ばれる砦と界壕と呼ばれる塹壕の整備をするよう指示して会議を終えた。
会議が終わったため本来なら早速行動に移さなければならなかったが、せっかく久しぶりに集まったのにこのまま帰すのは申し訳ないと思い、蒸した羊肉と馬乳酒を振る舞った。
食事の席で南東方面の長マナンがタタールに、
「この後すぐに港へ行くのか?」
と、話しかけてきた。
「なんだかんだで明日になるかな。用意するものがいろいろあるからね」
「そうか、方向が一緒だったから途中まで一緒に行こうと思ってたんだが残念だ。港まで行く途中にたぶん俺の管轄下の部族がいくつかあるから、王を見かけたら協力するように言っておくよ」
「ありがとう、助かるよ」
港まで行く道も当然整備されており宿駅もあったが、途中何が起こるか分からないためマナンの協力はありがたかった。
食事を終えると、各地域の長はそれぞれの地域に帰って行った。
翌日の朝、タタールは燻製した羊肉や水、矢などの荷物を馬に積み、槍と弓を携え港町に向けて馬を疾走させた。




