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最大火力

溶ニは拠点としている城跡に一度戻った後、エリックと共にヨセフがいる城へと赴き作戦を話し合った。会議は主に溶ニとヨセフで進められ、エリックは何も話さず聞くことに徹していた。

溶ニはまず

「俺は早朝攻撃を仕掛けることができるように城から数キロ先にある山で待機していたんですけど、いざ攻撃を仕掛けるとなったら向こうは既に兵を配置し終わっている状態でして直接城に近づくのはまずいかなと思い徐々に城に近づく作戦をとりました。そして射程距離まで近づくことができたので城壁に向かって魔法を放ったのがほとんど効かなかったので、一度様子を見るために元の陣地に戻りました」

と、二人が来るまでの説明をした。

「まさか魔法が効かないとは…」

ヨセフが落胆したように言ったので溶ニは

(魔法の事はなるべく話さない方がいいような気がするが、この程度の情報であれば共有しておいた方がむしろいいかもしれない)

と、考えて

「実は俺の魔法は鉄の国を攻めた時も昨日も最大火力ではないんですよ。呪文の出来の良さ等によって魔法の威力は変化します。この世界に来て一番最初に放った熱線はさらに大きかったですし、国境警備をしている時に放った熱線は山をいくつか消滅させる程でした」

と、魔法について少し説明した。

「それならなぜ先程は最大火力の魔法を使われなかった。その魔法であればあの城を落とすことができたのでは?」

「魔法は威力を高めれば高める程その分撃てる回数が減少するので考えて撃つ必要があります。山を消す程の威力の魔法を撃った時は、その後一カ月程魔法を撃てなくなりました。あそこで撃ってしまっては今後の城攻めが遅れるのではと考えて撃つのを控えました」

「そういう事でしたか。しかし、今までの魔法が効かないのであればあの支城だけでも攻略するのにかなり時間がかかると思いますよ。それならば最大火力で魔法を放ち一月に一城のペースで落としていくことができるのであればそちらの方がほうが良いのではありませんか?それとも他に何かいい方法を思いついたのですか?」

と、ヨセフに問われたが溶ニは何も答えず考え込んだ。

ヨセフの質問には答えていないが、溶ニは何も思いついていないわけではなく元の世界の知識を使って一つ作戦を考えていた。商人を動員し、城の周りから兵糧を時価の数倍で買い占めて支城を食料不足に陥らせ、さらに付城を敵の支城を包囲するように設置し敵の補給を困難にするという鳥取城の飢え殺しを参考にした作戦である。しかし、この戦法は城内が凄惨な様子になったという話であったため溶ニは提案を少し躊躇(ためら)った。

ただ、味方の損害を最小限に抑えることができるため捨てがたい作戦ではあるとも考えていたため、

(兵糧が底をつく前に向こうが降伏すれば城内もそこまで酷い状態にはならないはずだ)

と、自分を納得させ作戦について説明した。

「合理的な作戦ですが我々では恐らくできませんな、将も兵も足らない。敵の数は城の外に配置された兵しか分かりませんが三千人程だったように感じます。城内からは兵を出し渋っていたようでしたので城内にもそれほどいないでしょう。対して、我々は約一万二千人いるため一見問題なく包囲することができる。しかし、城の国は急に大きくなって治安の維持や国境の警備等に気を回さなければならない我々とは違い、元々かなりでかい国なのでまだまだ増員することができます。今いる一万二千人を分割して付城に配置したとしてもすぐに増援によって突破され補給が回復してしまう可能性がある」

と、ヨセフは溶ニの説明に対して答えたが、答えているうちに

(四倍近く兵数に差があるのに我々は攻め切れなかったのか)

と思い、なんだか情けなくなってしまった。

結局、溶ニは自軍を平野に待機させた後、少数の部隊を引き連れ敵の城の近くまで高速で接近して最大火力で魔法を放ち城壁を破壊し、敵が恐怖に陥ったところをヨセフとエリックが攻撃を仕掛けるという作戦に決定した。

平野に軍を待機させることには、溶ニは何かの作戦があって平野に待機させているのではと城の国に思わせて動きを鈍らせるという狙いがある。

三人はそのままヨセフの城で食事をとった後、再度作戦の確認をして解散した。


翌朝、溶ニはヨセフとエリックに使者を出し、いつ頃攻撃するかを伝えてから出発した。

前回は支城の南東から城の国の領土に侵入し、支城の数キロ南東にある山で周辺の様子を観察したが、同じルートは何らかの対策がされている可能性があったので使うわけにはいかず今回は近くに住んでいる猟師から道を聞き出し南西側から侵入するルートをとった。溶ニは昼過ぎ頃に城の国に侵入すると軍を平野に待機させ、自身は少数の兵を引き連れて丘陵を隠れ蓑にしつつ城に接近した。最大火力の魔法は普段使っている熱線よりもかなり範囲が広いため接近せずとも命中させることは可能だが、城壁を破壊することは容易ではないと考え、接近して少しでも城壁を破壊できる可能性をあげておきたかった。

城の国側も何もしていないわけではなく、斥候を出して情報収集をし、迎撃する準備を整えていたが平野に待機している兵に気をとられ溶ニの動向には気がついていない。

溶ニは城に充分に接近すると味方を物陰に隠れさせ

(恋人との別れが辛いというような内容の歌なのにこんな使い方をして申し訳ない)

と、思いながら

〈君が行く 道の長手を 繰り畳ね 焼き滅さむ 天の火もがも〉

と、詠唱した。

発動した熱線は普段の赤色とは違う青色であり、周囲の丘陵以上の大きさを誇るものであった。城壁はしばらくその熱線に耐えていたが、次第に耐え切れなくなり爆発を起こし砕け散った。

溶ニ達ははすぐに来た道を引き返し、平野に待機させていた自軍と合流してヨセフ、エリックの軍と共に支城を攻め立てた。

城壁と共に土塁なども崩れ、堀もいくつか埋まってしまったため支城の防御力は著しく低下しており、サンドラは魔法を見るために来ていたので今はもう密林の整備を指揮するために引き返しており支城にはいない。支城にいる指揮官では逃げ惑う兵を纏めて敵の攻撃に備えるなどということは最早できないため、夕暮れ頃には支城は今までの堅固さが嘘のように簡単に制圧された。


溶ニが放った熱線は巨大だったため別の支城に移っていたサンドラも見ることができ

(いくら我々が建てた城とはいえ、あの規模の魔法を受けてしまえば流石に無事では済まないな)

と、支城が撃破されたことを察した。

(しかし、あれだけの魔法が使えるにも関わらず昨日は使ってこなかったところを見ると撃つのを躊躇うだけの理由があるに違いない。土地にダメージを与えることを避けようとしたとか、魔法使いの良心が働いて昨日は力を抑えていただけとも考えられるが、それならば昨日見た魔法も充分強力であり土地や敵兵を気にするのであれば熱線など使ってこなかったはずだ。考えられる理由としては、一度本気で撃ってしまったら次に撃つまでかなりの時間を要する等があるが調査しなければはっきりと分からんな)

などと色々考えているうちに陥された支城から兵が何人か逃げて来た。

逃げて来た兵は城の状態や兵の被害状況などを一通り報告し

「他に何かありますでしょうか?」

と聞いたが、サンドラからの質問は

「魔法使いは何発魔法を使った?」

という一つだけだった。

「城を破壊した一発だけでございます」

「分かった。戦って疲れているというのに呼び出してすまんな、ゆっくり休むといい」

と言って兵を下がらせた後、指揮官を呼び出して

「敵は恐らく当分は攻撃してこない。しばらくの間お前達は逃げてくる兵の受け入れ準備と、陥された支城の調査をしろ」

と、指示を出した。

「何故当分攻撃して来ないと分かるのですか?」

「今日使われた魔法は城を陥した一発だけで、こちらの兵と戦う際には魔法は使われていないところを見ると恐らく魔法にも回数制限がある。我々の城の城壁は昨日見た魔法程度の威力であれば恐らく数十発は耐えられるであろうが、今回は一撃で崩壊してしまった。そのため、奴は魔法を撃つための力のようなものを前借りして魔法を放ったのではないかと考えている。確証は持てないが」

「なるほど、前借りした分を回復させなければ次は撃てないというわけですな」

「そういうことだ。それと、崩壊した支城付近には敵兵が残っているかもしれん。支城の調査は慎重に行え」

と、言ってサンドラは部屋に戻った。

部屋に戻るとサンサルに向けて我が国の兵が貴国の領土を通るかもしれないのでよろしく頼むというような旨の手紙を書いてから眠った。

翌朝、サンドラは手紙を使者に持たせて弓の国へ向かわせ、長期戦になるだろうがよろしく頼むと兵を激励した後、城の国の都に向けて出発した。

サンドラは都へ向かう馬の上で

(支城を陥されたことには少々驚いたが、魔法を連発できないのであればどっちにしろ城を突破するのには時間がかかるだろう。しかし、密林を使って返り討ちにするという作戦はもう一度考え直した方がいいかもしれんな)

などと考えながら進んだ。


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