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わりとそばにある境界線  作者: 悪夢の果てに嘲うにゃんこ
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トイレ

 深夜の最終巡回は店内の消灯チェックや施錠確認のため、普段我々では踏み込めない場所にも行くことになるわけで。まぁ要するに女子トイレとか女子更衣室とかだな。彼女らがいる時間帯に踏み込んだが最後、いかな理由があっても変質者のレッテル貼りは避けられないが、誰もいないとなれば基本的には問題ない。無論、悪さをするのは信頼問題的にも御法度だけどな。

 この店舗のトイレは客用は新しい洋式便座なのにバックヤードにある従業員用トイレは古い和式便所になっていて、しゃがみ続けるのはそれなりにきつい。最近になって女性従業員の一人がそのトイレで倒れる事案が発生した関係で女子トイレのみ洋式化されたのだが、男子だってきついんだから差別しないで早く洋式化してほしいものだ。

 さて、この店舗。おかしな現象はだいたい二階で発生しているのだが、二階の従業員トイレも例外ではなく……というか構造から大問題で、男子トイレのガラス窓と洗面台の鏡がもろに合わせ鏡になっていたり、女子トイレに至っては窓が全くないという状況だった。

 ちなみに、件の社員食堂とこの男子トイレを直線で結んだライン上には総務課があって、大層立派な神棚があるのだが、どんなに青々とした榊を供えても三日と経たずに枯れてしまう。盛り塩に至っては供えた翌日からみるみる目減りして溶けていくのだから本当に勘弁して欲しい。


「ところで新人くんは霊感あったりする?」

「いいえ?」

「そうか。だけどまぁ悪いことは言わないから夜間は一階の従業員トイレ、使った方がいいよ。合わせ鏡だし」

「なんすか、合わせ鏡って」

「……世の中知らないことの方が良いこともあるんだよ?じゃあ、おやすみ」

「え、あ、ちょっ」





 翌朝、その新人くんがものすごくげっそりした顔で降りてきたのを見て何かあったな、とは思ったもののこの現場における新人警備員の通過儀礼だし、と顔にはださずに気にも留めてないように朝の挨拶をする。


「おはよう。どうした、眠れなかったか?」

「おはようございます……なんなんすか、ここ」

「単なる古いスーパーだよ」

「……絶対ウソだ」


 ウソだと言われても間違いではないんだがな。曰く付きがあるとは囁かれてはいるが。まぁ社員食堂の和室で寝ない分だけマシだと思うし、救護室ほどの安全な場所はないと自分は思っているだけに新人君の様子は少しだけ気にはなった。


「……で?何が問題だい?」

「夜中に急に腹が痛くなって……」

「うん?」

「階段降りる余力もないし、二階のトイレに行ったんす」

「何時ごろ?」

「午前二時半くらいすかね」


 用をたしているあいだ中窓の方から何かに見られているような気がして落ち着かず、救護室に戻ってからは壁向こうの階段吹き抜けあたりから何かが弾けるような小さな音がずっとして気になって眠れなかった。つまりはそういうことだったらしい。……だから行くなと言ったのに、とは口には出さなかった。貴重な交代要員だからな、下手に真実は教えてはいけない。


「そうか。……ま、そのうちに慣れるさ」

「えぇ…………マジすか」

「じゃなけりゃ他のみんなが逃げ出してるだろ。みんな何年も勤務できてるんだ、大丈夫大丈夫」

「…………取り敢えず顔洗って来ます」

「おう、そしたら開店準備業務いくぞ」


 ……勤務はできてはいる。ただし平気ではないが。自分は中途半端だが霊感らしきものを持っているからイヤな予感がしたらそこには行かない、を徹底しているおかげでそれほどには遭遇していないが他のメンバーは。


「ま、知らぬが仏とはよく言ったものだな」




***




 さて、トイレの怪奇現象と聞くと時代物のトイレなんかがだいたい対象になると思うんだが、新しいウォシュレット付きの洋式トイレでも出るときは出る。そんなときはトイレがと言うわけではなく建物や土地に問題があると考えた方がいいかもしれない。どちらにもあてはまらない場合は……人間、になるんだろうか。


「先輩、また従業員用女子トイレから苦情きてますよ。悪臭がひどい、って」

「設備に連絡は?」

「してあります」

「ならいい。警備の範囲外だからどうしようもない」

「でもこうも頻繁だとあれですね。隣の男子トイレは問題ないのに」

「まぁな。ただ、うーん、これは多分人間か建物の問題だと思うぞ」

「そんなもんですかね」


 この時は自分の霊感も反応しなかったしで何の気なしに答えたのだったが原因は思いがけないところから判明した。

 ある時店内の冷蔵食品を陳列している冷ケースで冷却するときに発生する汚水が通常は店内の床下に埋め込まれた排水管を通じて店外の汚水溝へ排出されるところ、どこかで詰まっているのかうまく流れないという問題が発生して業者を呼んで調べることになった。そうしたら驚愕の事実が判明、そしてそれがトイレの悪臭の理由でもあった。


「排水管が設計図では女子トイレと警備室の間を抜けているはずなのに途中までしか存在してないぞ!?」

「そんなバカな!」




 悪質な手抜き工事だったというオチ。しかも店への提出した設計図は偽装用。大丈夫かこの店。……大丈夫じゃないな、うん。色々構造がヤバイし。



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