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わりとそばにある境界線  作者: 悪夢の果てに嘲うにゃんこ
3/4

墓所

 基本的に墓所と言う場所は静寂に包まれているという認識は間違っていないだろう。それが大規模な墓所ともなればなおさらだと思う。それでも近くに民家があれば騒音にならない程度に生活音がするのが普通なのだが……江戸時代からあるとされるその墓所は、レベルが……いや、格式が違う。

 その墓所には警備員は常にいるわけではなく、台風などの嵐や大きな地震などの後に点検として巡回する契約になっていて、たまたまその日はいつもの担当者の都合が悪く、自分が替わりに行くことになったのだが。着いて早々に引き受けたことを後悔した。

 その墓所は民家が結構隣接していて、ちょうどお昼時だったのか某国営放送局ののど自慢が大音量であたりに響いていた。そんな状況を横目に墓所正門の脇の潜り戸を解錠し、敷地内に足を踏み入れれば。


「うへぇ……マジかよ」


 何かを感じたとか、聴こえたというのではなく。むしろ“何も聞こえない静寂”だったのだ。例の大音量放送の民家が目の前にあったにもかかわらず。この時点でイヤな予感は膨らむばかり。


「ま、まあ……結界、とかあってもおかしくは……ないかな。うん。気を取り直して巡回さっさと終わらす……か?」


 本社を出るときに指令員から貰った茶封筒に墓所の地図が入っていると聞いていたのを思い出し、それっぽいのを取り出してみれば……あまりの予想外に一瞬、世界が止まった。


「江戸時代の地図とか、バカにしてんのかクソッタレ!?」


 さすがに頭に来たので携帯電話で本社に連絡しようとしたらまさかの圏外。っておい待て、さっき門の外では通じたじゃないか。ほんの3メートル中に入っただけでだめなのかよ!……仕方がないので一度敷地外に戻りもう一度トライしてみれば普通に使うことが出来て、改めて更に後悔を深める。


「はい、警備指令センターです」

「おい、この地図、江戸時代レベルじゃねーか!ふざけてんのか」

「ふざけてませんよ。それしか無いんですよ」

「マヂか」

「本当ですよ。将来的にきちんと整備されればもっとマシなものが作られるかもしれませんけど」

「……。ま、まぁいい。それから中に入った途端に携帯通じなくなったんだが」

「え?……でもいつもの人は普通に使ってましたよ」

「…………」

「もしもし?」

「…………もう帰りたいんだが」

「ダメです。早く行ってください、お客様が報告待っているんですからね!」



 この時点でイヤな予感は確信に変わったと思う。心底行きたくない気持ちでいっぱいです。先生。……この墓所、山ひとつ丸ごと利用して作られているため、実質登山とたいして変わらないんだよなぁ……しかもこの古地図見る限り石段だらけだし。取り敢えず鉛筆で薄く記入されている巡回経路に沿ってさっさと終わらせるべく早足で行くことにした。




「……行きたくねぇ……入りたくねぇ……」


 暫くは順調に進んでいったものの、とある場所でピタリと足が止まり前に進むことが出来なくなった。例の心霊スポットの時と同じである。鉛筆の線はこの中を突っ切るようになっているんだが…………。


「無理。絶対、無理。ダメだ、迂回しよう、迂回!」


 結局、中には入らずに少し高台の小道から中を見下ろす形で観察しながら次の場所へと向かった。


「……家来と子息たちの墓場……これ、無理に入ったら……うー、ゾワゾワしてきた、考えるのやめやめ!」


 そのあとは何度か階段から落ちそうになったり、思ったよりも早く暮れ始めた時間に追われたりしながらもなんとかチェックを終えて帰途につくことができた。もちろん二度と依頼は受けることはしなかったさ。どうも相性が悪い気がするんだよな。




 それから数年たって、何のイタズラか、例の墓所を所有するお客さんの別の物件で警備をすることになったんだが、ここもヤバい!ていうか、何でこんなに……って思ってふと気がついたんだよ。この土地の由来。


「……ここ、俺には最悪の立地じゃねーか!」


 江戸時代から続く土地、隣接地には靖国系統の神社、そして戦没者慰霊碑。敷地内には墓所に眠る人物の位牌を納めた廟、そして感覚的に結界まで。関係者は否定してるけど。


 ……最悪だ。特に廟周辺が肌が粟立つレベルで近寄りたくない。勘弁してほしい。泣きたい。(震災後は感じなくなった)




 ……これ、“視”えていたら……アーアーアーナンデモナイナンデモナイ!



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