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わりとそばにある境界線  作者: 悪夢の果てに嘲うにゃんこ
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井戸端会議

 泊まり込みの警備員は当然のことながら朝は早い。警備員が起きなければ従業員は出勤しても店内にはいれないからだ。とはいっても警備員も人間。寝坊したりして掃除のおばちゃんたちに起こされる場合もたまにある。


「おせーよ、お前。今月何回目の寝坊だよ」

「すまん……」

「おばちゃんたちいい人ばかりだから誤魔化せてるけどな、そろそろいい加減なんとかしろ」

「重ね重ねすまん……」


 場所によっては例外もあるが基本的に警備員は、夜間において必ず一人は防災センターと呼ばれる詰め所にいるように決められている。これは万が一の事態にいちはやく対応するために必要なことだからだ。そして基本的にこれはシフトを組んで交代で詰めるのが普通だが、自分は他の人間なら嫌がる防災センター勤務を進んで引き受けている。

 理由は至極簡単。二階の社員食堂にある和室に寝たくないからだ。なんといわれようと絶対にあそこで寝る気はない、断じてない。断固として拒否する。

 この社員食堂、建物の二階にあるのは別に問題ではないのだが、この建物の北東角、つまり鬼門に位置しているうえに二階部分の窓が唯一ある場所なのだ。この時点でもう嫌な予感しかしない。

 そして極めつけがこれ。この和室、まず開口部が入り口の引き戸だけで、そして剥き出しの大きな姿見があるのだ。この姿見は七五三のセールをするときに使うものらしいのだが、店長がケチなうえに貧乏性で姿見の中央部分が真一文字に割れているにもかかわらず買い換えようとしないのだ。

 基本的に鏡はよく境界として捉えられることが多い。日常から非日常の鏡面世界へ引きずり込まれる、みたいな作品もよくある話である。それだけでも割れた鏡というのは気分的に良いものではないだろう。現実には状況として、もっと最悪な状態にあったのだが当時は知るよしもなく。ただ、自分の直感がここはヤバい。と警鐘を鳴らしまくる場所だったんだ。


「ひとつ聞きたいんだが、いいか?」


 眠い目を擦り続ける相棒が自分に声を掛けてきた。


「お前さ、ここの勤務ずっと防災センターにいるじゃん。もしかして何か隠してないか?」

「隠す?何を?」

「あの和室……次の勤務の時、お前あそこで寝てみ?」

「はあ?何言ってんだよお前。防災センターの勤務お前できないだろうが」

「……たまにはいいだろ、いいから寝てみろ」


 しきりにあの魔の和室で寝るように、執拗に勧めてくる相棒に違和感を感じるのは当然で、まあ思い当たるのはひとつしかないわけで。


「……お前、何か“出た”のか?」

「!」

「やっぱりか……」


 目に見えて動揺しまくる相棒に溜め息を吐く。つまりこいつは自分と同じ体験を俺にさせようとしたわけだ。…………絶対に断る!


「で、お前の枕元には何が出たんだよ」

「井戸端会議」

「は?」

「だから井戸端会議だよ。まだ暗い時間に掃除のおばちゃんたちみたいな声が枕元でしたからあわてて目を覚ましたんだよ。でも真っ暗なんだ……声と気配だけなんだよ……」

「……ウワァ」

「そんでしばらくしたらそれが社員食堂の窓のほうへ……消えるんだ……」

「南無」


 そりゃまともに眠れんわな。やっぱりあそこはヤバいな、うん。


「そういやあそこ、割れた姿見あるよな。あれ、寝るときどうしてる?」

「ん?……いやなんも」

「……せめて後ろ向きにするなり、布被せるなりしろよ……」

「……もしかして元凶?」

「可能性として、な」

「…………マヂか」


 ちなみに相棒の他にも被害者が続出したうえ、契約先のセンター長も犠牲者になったため、現在は平和な救護室のベッドで安らかに眠っている。……たまにラップ音がするのは愛嬌だとスルーしているらしい。なお、部屋の電気は点けたまま寝ているそうだ。


 ……気持ちはすごくわかる。やっぱり怖いものは怖いのだ。



 今思うとあの店舗は県内の他の店舗に比べてやたらと良くない集団が集まってきていたように思える。ショッピングモールにはつきものの店内広場には常時、まるで浮浪者のような格好をした老人たちが居座っていたし、夕方になれば時代錯誤的な特攻服に身を包んだ暴走族が駐車場にたむろっていた。来店する客の半分は不審者、が言い過ぎにならない程度に挙動不審な人物で溢れ、子供の万引きは小学一年生から日常的に起きている。とにかく一般的な常識というものが欠け落ちているのだ。試食を食べ尽くすのはまだいい方で、陳列されている商品のブドウまで平然と親子で食い荒らし咎められれば『え、これ試食品でしょ?』といいのけるのには恐れ入った。(でも警察は呼んで弁償させてある)


 専門家に聞いた話によると鏡というものは宗教的にはいわゆる御神体になりうるものだ、という説明を聴いてそういや神道はもろにそうだっけな、と改めて思い至る。……まぁ、ここまで言えば元凶は、うん。わかるよね?……まさに無知は罪とは良く言ったものだよ!そういやすぐ近くに大規模な宗教施設あったしな!!良く俺ら無事に…………あ、隊長だけは犠牲になってたような……。(汗

 ともあれ今は和室に割れた姿見は無いらしいから多少はマシになってると信じたい。だからと言って和室で寝る気は全くないがな。



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