仮面の王女
稚拙な文章なので、所々読み辛いと思いますが、少しでもお楽しみいただけたらと思います。
「ララ!帝国からお前に舞踏会の招待状が届いだぞ」
ただのデブ男…失礼。私の父であるアラン国王が双子の姉ララに一枚の紙を手渡した。
「まぁ!ウィル皇太子様の直筆ですわ。まるで夢を見ているのかのようだわ…」
デブ男から招待状を受け取ったララは、それを大切そうに胸に抱いた。それがまるで恋する乙女のようで、周囲にいた側近達は甘い吐息を溢す。
双子の姉ララは、光り輝く金髪に神聖な泉のように透き通る青い瞳、そしてとても愛らしい顔立ちをしていた。『綺麗』よりも『可愛い』が似合うララは大陸一の美姫と名高く、引く手も数多多数であった。
いくらララと同じ金髪碧眼だとはいえ、よくこの醜いデブ男の遺伝子から生まれたものだと感心してしまうほどに。
「きっと、ウィル皇太子もララを見たらすぐに気に入ってしまうだろう…あ、そういえばレイスにも招待状が届いていたぞ」
デブ男はララのついでと言わんばかりに白い仮面の人物にもう一枚の紙を渡す。その人物は招待状を受け取ると、その場を後にする。
「…こんなものを貰っても…」
その人物はあろうことか人目のない場所でその紙切れを握り潰した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アラリア王国には一人の王子と二人の王女がいる。双子の王女を妹に持つルイス王子は、容姿端麗で才色兼備という完璧少年。その妹ララ王女も大陸一の美姫と名高い。
そんな二人とは違い、唯一異端なのが末の妹レイス王女ぁ。レイス王女は産まれた時、何かしらの不手際により顔には醜い傷が出来た。それが原因でレイス王女は白い仮面を常に被っている。そんなレイス王女を人々は仮面の王女と呼んだ。
しかし、ここでルイス王子と一部の侍女にしか知らない真実がある。傷が原因で仮面を被っているというのは真っ赤な嘘だということに…。
「ルイス兄様、私にも招待状が届いたようです…王女ではなく『白獅子』として出席しなければならないのに…」
自分の部屋に戻ったレイスは、仮面を外し、近くの椅子に腰掛けた。レイスはララと違って、雪のように真っ白な髪に、真珠のようなシミ一つない肌、魅惑的な紫の瞳を持っていた。そんなレイスにルイスは儚さを感じる。ララなんて比較にならないほどレイスは美しくい。当の本人は自分を醜いと勘違いしているようだが…。
「『白獅子』はアラリア王国にとって欠かせない存在だ。『白獅子』の脅威が他国からの侵攻を防いでいると言っても過言ではない」
アラリア王国には四人の将軍がいた。『銀狼』『赤虎』『青熊』そして『白獅子』
特に『白獅子』は謎が多く、常に顔を隠し、主人であるルイス王子の命にしか従わない。しかし『白獅子』の実力は本物で、他の三人の将軍相手でも完膚なきまでに叩きのめすほどだった。そんな『白獅子』がこの今にも消えてしまいそうな少女だと誰が思うだろうか?
「ララ、とても嬉しそうでした。なんせ、あの美男子と名高いウィル皇太子から直々に招待状が届いたのですもの」
レイスはふと近くの机に視線を送る。机の上にはクシャクシャに握り潰された招待状が置いてあった。
「…レイス、実はそのことで相談をしにきたんだ。レイスの社交界デビューはあの我儘王女によって無くなってしまっただろう。そこでこれを機にレイスを披露しようかと考えている」
12歳になったララとレイスは同じ日に社交界デビューをするはずだった。しかし、ララが自分のドレスを豪華にしたいと駄々をこねたため、レイスの衣装費用が消えた。よって、レイスの社交界デビューは中止され、16歳になった今でもそれは実行できていないのだ。
「で、でも…衣装作るには仕立て屋を探さなくてはなりませんか?それにお金も…」
ルイスの提案に思わず心が躍ってしまう。しかし、現実は甘くないのだ。ララの衣装費用が国庫の大きな負担になっていることはレイスは知っていた。そこにレイスの衣装費用が加わるとなると、国庫の大ダメージは避けられないだろう。
「そのことは心配しなくていいよ。『白獅子』の財産を使えば、簡単に解決するから。それじゃあ、決まりだね?エレナ、部屋に入ってくれ」
ルイスが扉の外に呼びかけると、赤髪の令嬢が入室してくる。エレナは筆頭公爵家の令嬢でルイスの婚約者でもあるを
「初めまして。エレナと申します」
綺麗にお辞儀をし、レイスと目が合う。途端にエレナは目の前の少女に目が離せなくなった。美しい…まるで神話に出でくるエルフの王女のようだ。
「エレナ様、初めまして。レイスと気軽にお呼びください」
「これが…仮面の王女の正体…なるほど、あの噂は嘘だったのね。ルイス、急に私を呼び出してなにをさせるつもりかしら?」
エレナはなんとかレイスから目を離し、ルイスに向き直った。
「君にお願いがあるんだ。王国一の仕立て屋である君に、ね?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一ヶ月後、ラウジ帝国の王宮で大規模の舞踏会が開催されていた。豪華にドレスアップをしている者もいれば、上品で美しく装っている者もいる。皆、この人のために最高の一着を準備してきているのだろう。
一瞬、会場が騒めく。アラリア王国のアラン王とララ王女が入場してきたようで、途端に周囲の若い男性陣がララ王女に見惚れてる。ララ王女は、ピンク色のドレスを身に纏っており、ふんだんにフリルが使われていた。一見下品に見えなくもないドレスなのだが、ララ王女が身に纏うことで不思議と可愛らしいと思えてしまう。
それからすぐ後に、先ほどまでよりも一層入り口付近が騒がしくなった。会場の人々が入り口付近に目を向ける。ルイス王子と、彼がエスコートする少女が一人。少女は仮面を身につけていた。
しかし、皆が驚いたのはそこではない。仮面の王女と彼女が身に纏うドレスだ。光沢のある紺の生地で出来たドレスは、真珠のように真っ白な肌を惹きたたせていた。美しい…と誰かが呟いた。彼女を見ていると、まるで別の世界へ来てしまったそうな錯覚に陥る。容姿まで分からないが、雰囲気が今は亡き母君にそっくりだった。
「レイス、皆が君を見ているよ」
「そうですね…醜い私が珍しいのでしょう。美しいルイス兄様の隣を歩かせられるなんて…さらに醜さが目立ってしまうではありませんか?」
大きな勘違いするレイスにルイスは内心溜め息をするのであった。
「まぁ、仕方ないか…」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから、レイスはルイスに連れられるまま、主催のラウジ皇帝とその妃に挨拶をした。
お姉様方に連れてかれるルイスを見送った後、レイスはただ壁の花と化していた。しかし、視線はルイスから放さない。もし、ルイスが襲われるようなことがあれば、レイスはこの身を犠牲にしてまで守るつもりだ。
「…貴方がレイス王女か?」
ルイスを目で追うのに必死だというのに、そんなレイスに青年が話しかけてきた。軽いナンパなら無視してやろうと思ったのだが、相手が相手だった。流れる白銀の髪を後ろで束ね、濁りのない深緑の瞳という非の打ち所がないほど完璧な容姿を持った青年が立っていた。紛れもなくララが恋して止まないウィル皇太子がそこにいたのだ。
「はい。私が噂の仮面の王女です」
流石にそっぽを向いたままなのは失礼だと思い、ウィル皇太子に向き直る。
「どうして仮面を?」
「…私の顔が醜いからです。仮面を付けなければ、私の顔を見てきっと周囲の方が不愉快に思われましょう」
ルイスとエレナは「美しい」と言っているが、それは多分私が可哀想だからだろう…。でも、こんな私の顔を見ても尚、側にいてくれる彼らをレイスは絶対に守ると決心していた。
「なるほど…では一つ私と踊ってくれませんか?」
「え?…私と?」
ウィル皇太子の予想外の提案に思考が停止してしまった。
「この舞踏会父と母が私のために開いてくれました。最初の相手を貴方にお願いしたい…駄目だろうか?」
一応ダンスのレッスンはしている。元々身体能力は高いほどなので、体力面の問題ないだろう。問題はどうして私を選んだのか?ということだ。
「どうして、私を?」
「私も…分からない。ただ、貴方を踊ってみたい。一曲お願い出来ますか?」
手を差し出される。体調不良で断ることは簡単だろう。ただ、レイスも彼と踊ってみたかった。自分の手をそっと彼の手に重ねる。すると、自分の手を力強く握り締められ、彼に引っ張られる。
丁度曲が流れ始め、その心地よさについ身体を彼に任せてしまった。一曲だけだと思っていたのに、彼は中々手を離してくれない。まるで、君を逃がさないと言うばかりに…。
この時は私はどこか油断していた。こちらにナイフを持った従者が半径5メートルまで近くまで気づかなかったのだから。もう少し早く気付いていれば…簡単に対処することが出来ただろうに。
渾身の力で彼と従者の間に割入ったと同時に私の脇腹に鋭い痛みが走った。衝撃で仮面が外れ、カランと床に落ちた。レイスは唇を噛み締め、従者の首に手刀で一撃を与える。たちまちその従者はその場に崩れ落ちた。
「おい、しっかりしろ!」
彼が私の傷に手を当て、流れ出る血を止血しようとしているようだ。そんなことする必要もないのに…だって、私は化け物だから…。
「レイスッ!!!」
事態に気付いたルイスが駆け寄ってくる。レイスの傷を見て、舌打ちをするルイスにレイスは精一杯微笑む。
「ルイス兄様、私は、大丈夫です。でも、少し休ませて、ください」
レイスは静かに目を閉じた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目を覚ますと、賓客室の寝具に横たわっていた。誰かがここまで運んでくれたらしい。
「…レイス、目を覚ましたんだね?」
近くにルイスがいた。傷を負った脇腹には丁寧に包帯が巻いてあるらしい。もう、傷なんてないのに、だ。
「ルイス兄様、既に傷は治りましたよ?」
「あぁ、流石『女神の加護』のおかげだ」
レイスは『女神の加護』というものを所持してる。これは亡き母から受け継いだ体質で、生まれつきの身体能力が異常に高かったこともあり、ルイスの助けになればと始めた武術がいつの間にかアラリア王国最強の将軍になっていた。
コンコンと部屋の扉が叩かれる音が聞こえた。
「どうぞ」
ルイスが扉前に移動した。どうやら突然の来客に対応してくれるようだ。
「レイス…ウィル殿だ」
ルイスの口から予想外の名前が告げられ、思わず飛び起きてしまった。
「え、えーと、お入れして?」
どこか可笑しな場所はないか、手櫛で髪を梳かしていく。
「レイス王女、不甲斐ない私のせいで貴方に一生消えないかもしれない傷を負わせてしまった…この責任は必ず取る!」
深刻そうに謝罪をする彼に、レイスは首を傾げた。
「この傷は私の責任です。帝国の皇太子をお守り出来たこと、とても光栄に思います」
「…貴方は…」
ウィルがじーっと見つめてくる。ここでレイスは仮面を被ってないことに気が付き、近くの机に置いてあった仮面を近くに取り寄せた。そして、すぐに被ろうとしたのだが、彼によって阻まれる。
「仮面なんて…貴方には必要ない。貴方は…世界で最も美しく綺麗なお姫様だ」
大陸中のお姫様が恋して止まない彼。その彼が私のことを「美しい」という。彼に出会ってからレイスの白黒の世界が少しずつ色付き始めていた。ふと、レイスは自分の手に視線を落とした。
たくさんの敵を屠ってきた私の手……私が『白獅子』と知ったら、彼は離れていくに違いない。彼との関係が戻れなくなる前に離れなくては…。
「レイス、もし貴方が良ければ私の妃になってくれないか?」
なんて、魅力的な誘いなのだろうか?彼の手を取ることが出来ないと知っているのに…取りたくなってしまう。レイスの心がズキズキと痛み出す。彼と残りの人生を歩めたら、どんなに楽なのだろうか?
「…ごめんなさいッ!」
「待ってくれッ!!!」
彼と同じ空間に居るのが、辛くて息苦しい。レイスは寝具が飛び出ると、彼の言葉を振り切って走った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ルイスに頼んですぐに王国に帰還したレイスは、『白獅子』直属の軍を呼び出した。『白獅子』直属の軍は、総勢50名で結成されており、『白獅子』のみに忠誠を誓い、その力は一国の軍隊にも匹敵する。
「これから…この国に蔓延る膿を洗い流す。奴らの情報を掴み、速やかに抹殺しろ」
「「「「ハッ!!!」」」
以前帝国の皇太子が狙われた事件を細やかに調べたところ、どうやらこの国の中に犯人がいるらしい。彼の不安定要素は私は取り除くと誓い、いつも以上に影に目を配る。部下の数名を彼の護衛として送り込んでいるので万が一彼の命が狙われても大丈夫だろう。
ちなみにララは未だに帝国いるようだ。どうやら、ウィルが諦められないらしい。そんなララの気持ちなどをお構い無しに、ルイスは他国の豪商の子息との婚約を着々と進めている。ルイス曰く、「豪商クラスじゃないと、彼女の我儘に付き合いきれないからね。帝国なんかに嫁がせて問題を起こされては困る」と。ルイスはララと父王に対する長年の鬱憤が随分溜まってるらしく、今は父王を王位から引き摺り下ろす準備をしているらしい。
昼に情報を集め、静まり返った夜に敵を殺す。その作業が一ヶ月ほど続いたことだろうか?とうとう、敵さんが痺れをきたしたらしい。帝都に潜り込んだという噂を聞きつけ、レイスも急いで馬を走らせた。
真っ白なフードを深く被り、『白獅子』になる。すっかり暗くなって、白いマントが月に反射する。
敵はどうやらかなり王城にまで辿り着いてるらしい。彼が危ない!と心ばかりが焦る。
暗闇に耳を澄ませていると、剣と剣が打ちあう音が聞こえた。流行る心を抑え、慎重に近付く。そこにはウィルとその護衛達が必死に抵抗していた。レイスは内心で舌打ちをし、ウィル皇太子と敵の間に飛び出る。
「我が名は『白獅子』ッ!!!
王国に背きし裏切り者を抹殺しろ!」
ウィルは庇いながら、敵を切り殺す。いつも以上に動きが良い気がした。この時私は少し調子に乗っていたようだ。後ろから迫る剣が見えないほどに。
「ウグッ「…え?」」
恐る恐る振り返ると、胸を抑えるウィルがいた。どうやら、レイスの背後からの攻撃を庇ったらしい。
「ど、どうして⁉︎」
急いで彼に近寄る。
「やっぱり…君だった、か」
彼の血の付いた手がレイスのフードを取り払った。そのまま、そっと壊れ物を扱うかのようにレイスの頬に手を添わせた。
「私は…化け物だから平気なのに!どうして、どうして庇ったのですか⁉︎」
彼の傷を抑え、止血しようと試みる。
「化け物なんか、じゃない。気高く、美しい、戦乙女だ」
彼の頬にレイスの涙がポタポタと垂れる。
「泣かないでくれ…」
彼の手がレイスの涙を拭う。少しずつ冷たくな彼の手を強く逃げる。
「もし、私に『女神の加護』が存在するなら、彼をお救い下さい!」
初めてレイスは世界に祈った。ずっと、世界が憎かった。どうして、自分にこんな試練を与えるのかと。どうして自分ばかりが不幸な目にあうのか、と。自分の運命を常に呪っていた…でも、彼と出会って何かが変わった。
「私の…王子様…」
レイスはそっと、冷たくなった彼の唇に口付けをした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「どうして、『神の加護』を保持してたことを話してくれなかったのですか?知ってれば、あんなに取り乱さなかったのに…」
帝都のとある一室でレイスは拗ねていた。あの後、ルイスの傷が少しずつ塞ぎ始めたのだ。突然の出来事に固まっていると、ウィルの従者が気持ち良さそうに眠るウィルを抱き抱え、レイスをウィルの寝室に案内してくれた。従者が簡易に説明してくれたおかげで、レイスは混乱する頭を整理し、現在に至るというわけだ。
「レイスも私に『女神の加護』を秘密していたんだから、おあいこだ。あの日からレイスに一生消えない傷をつけてしまったと眠れない夜が続いたぞ」
「あ、何もルイス兄様に何も連絡しないで来たから、きっと心配してるわ…一回戻らないと!」
椅子から立ち上がろうとした途端、片方の腕を掴まれ、力強く引っ張られる。おかげで顔から彼の寝具にダイブする羽目になった。
「ちょっと、何をするのよ!」
起き上がろうと暴れてみるが、がっちり彼の腕の中にホールドされた。
「もう、逃がしてやらないから…」
お読みいただき、ありがとうございます!次は、現実恋愛の短編小説を書けたらと思います。