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それは灰被りの娘のように

それは舞い散る枝垂れ桜のように

ボロ小屋には夥しい血が散っていたが、

その中には誰もいなかった。


村人たちは村長と女が化け物に喰われたと語り合った。



一方その噂の元であるアルラウンは、

村長の血肉を喰らい、いつの間にか進化していたアルルーンから進化したばかりのアルラウンの身体を道中の獣たちで確かめながら、

道を、山を、谷を歩いていた。



途中でアルラウンが浴びた返り血を彼女の血だと心配してくれた青年に連れられて青年が住む国へと向かうことになった。

青年は裸足のアルラウンに自分の靴を代わりに履くように言ったが、

アルラウンは裸足の方が気持ちいいからと断った。

実際その足には傷は一つもついていなかったのだ。



そんなアルラウンと青年は青年の国は日差しと風が気持ちいい場所だと語り、

アルラウンはその声を心地よさそうに聞いていた。

そしてもうすぐ国へとたどり着くという時だった。



一筋の風が吹いた。

赤い頭巾が少し解け、その隙間から彼女の髪の毛が風に流される。


「気持ちいい…。

此処ね。ようやく来たわ。」


絶対の土、

絶妙の風、

絶好の火差(ひざ)し、

絶世の水。



四大元素(すべて)がそこにはあった。


彼女は悟った。

此処が彼女が根を張り種をまく場所だと。

他の植物、

いや、他の個体ならいざ知らず、

このアルラウンという個体には最高の土地だと。


アルラウンは昂って正体を現し、

そしてそのまま青年を養分へと変えた。




男達の扱い方に長けたアルラウンは、

その国の権力に近づいた。

女は魔物という言葉があるが、

女の魔物であるアルラウンにとっては女性経験のない皇太子を蝋略することに問題など何もなかった。

アルラウンが自身を疑う者達を殺めた時も皇太子は疑いもしなかった。


アルラウンはいきなり現れた異国の女でありながら、

男を吸い寄せる甘い香りを漂わせ、

花に誘われる虫の様に男達を夢中にさせた。


当然、人食い花のたぐいであるのだが、

その証拠を根程も出すことは無かった。


しかし、女たちの嫉妬の的にはなった。

この国で最も皇太子の妻に近いとされた貴族の娘がアルラウンに喧嘩を売った。


「貴女ちょっと可愛いからって勘違いしてるんじゃない?

どこの馬の骨かも知れない田舎娘が陛下に近寄ってもいいと思っているの?」


あからさまに敵意をむき出しにする彼女に余裕を向けながらアルラウンは返した。

「…少し場所を変えましょうか。

陛下に罵り合っているところを見られるのはお互いよくないでしょう。」


「宜しくてよ。」

皇太子妃の地位だけでなく、幼い日に皇太子と遊んだ少女の日々の事を、いつでも胸の内に思い浮かべていた女性は、

その挑発に乗ってしまった。


貴族の女性に案内されるがままに薄暗い部屋に誘い込まれたアルラウンは、

その部屋に入ってこようとしているのが自分たち二人だけでないことに気が付いていたが気にしてはいなかった。

―――けれど、聞いておくことが一応の礼儀だと思っていたのだ。


「あら、こちらの方々は?」


「お友達の騎士の皆さんですわ。」

貴族の女性は答えた。


「それにしては人相が宜しくないのですが、

類は友を呼ぶという言葉もありますし、

――――――――――それで、どうして彼らを此処に?」


確かに『お友達』の騎士様達は今までアルラウンに欲望を向けてきた男達のような眼をしていた。

だが、そんな男達を、勿論そのような(・・・・・)目的で用意しておきながら、

貴族令嬢は自分が侮辱されたことに激高した。

だから、言葉だけは丁寧に当初の予定を押し付けることにした。


「っっ!! …私のお友達をご紹介して差し上げようかと思いまして。」


「そのような友好的な風には見えませんが。

随分とギラギラして紳士らしさがありませんわ。」



そう応えるアルラウンを令嬢は嘲笑った。

少しでも精神的優位を保ちたい、そう考えた為かも知れない。


「貴女、男を咥えるのお好きでしょう?

男を食うのが好きなあなたなら喜んでくれると思って。」



しかし、付け焼刃の虚勢など、

それこそ、『御笑い種』だった。

…少なくともアルラウンにとっては。


「…こんなに沢山用意してくれて、

さぞかし『食べ応え』がありますわね。」


そういうと、そのスカートの中から幾つもの根を地面をつたわせながら生やし始めた。

根が踊り、茎が揺れ、花が嗤う。


―――――――――――――――ああ、一つ訂正しておきますが、

私が『食う』のは、男だけじゃありませんわよ?



















アルラウンは婚約者を喪った皇太子のプロポーズを受け、皇太子妃となった。

そしてアルラウンはいつでも国を支配できるようになった。



けれど誤算が生じた。

正確にはアルラウン自身が認識している為、誤算というものなのかどうかはわからないが。


彼女は人に近づきすぎてしまった。

それ故に彼女は皇太子を愛しすぎてしまった。

それは皇太子が漁村で生活を共にした男と面影が被っていた為かどうかは判らない。


しかし、確かに彼女は皇太子を愛してしまったのだ。

そして承認欲求というものだろうか、

彼女はその正体を皇太子に明かした。


――しかし拍子抜けするほど皇太子はそれを受け入れた。

国王も王妃も息子が愛した女性を受け入れ、

彼女が作り出した人間の感性において見目麗しい女性の形をした眷属をその国の貴族たちに宛がい、

貴族たちも眷属に夢中になった。


彼女の作りだした眷属達は人間たちに気に入られる様に、

ごく普通の女性の様に話せ、意思の疎通ができ、人と感情を通い合わせられるようにできていた。

その感情は気に入られるために特定の相手に予め強く行為を持つように設定されたものであったが、

愛し合う当人たちにはまぎれもなく自分たちの意思である、

何も問題はなかった。問題と言える問題は少々花嫁達の精欲が強いことぐらいだ。

水を吸う花の様に男達の精を吸い、

けれどもその土壌を干からびつくさせることは無く、

花は種を着け、各々可愛らしい子供を産んだ。



国王から後を継いだ皇太子は王となり、

貴族たちの全面的な支持を得て君臨した。


国民向けの説明としてひとまずは大移動してきた異民族という設定である、

アルラウンとその眷属達は、エルフと名乗り、

国王の承認のもと、手始めにドルイデルフと国名を改めさせた。



そして植物が覆い尽くしていく国家が誕生したが、

彼女達の支配した国はその後勇者たちに滅ぼされることとなった。

妖植精女王アルラウンのローケプヒェン・ドルイデルフ


その姿は、とある少女の母親に似ていた。




一つの国を支配するに至った歴史の教科書にも載ってる有名な植物モンスター。

しかし真にモンスターなのはその生涯だと言われている。

滅びた後は娼婦たちを見守る女神として信仰されている。

国家ドルイデルフが滅びたのは一説には彼女の美しさが戦争を起こしたという説もあるくらいである。

美しい女神と言えば、圧倒的な知名度で清漣の女神が筆頭にあげられるが、

その男を誘うような妖艶さは清楚さの象徴としてあげられる清漣の女神とは方向性が大きく違う。




妖植精少女アルラウネ

フォレストゾンビが人型を望んだ先に持たれた存在。

養分を求め、昏き森を彷徨う。



妖植精女アルルーナ

人型としての完成を求める為に、

ヒトを欲する。(養分として。)



妖植精婦アルルーン

人と交わり精を喰らい子を生すとされる。

しかし生まれるのは人ではない。



妖植精女王アルラウン

一国を支配した伝説的個体しか今までに確認されていない。





おまけ、


もし貴族令嬢とローケプヒェンの口が凄く悪かったら。


貴族令嬢「ア○ルから指突っ込んで親不知ガタガタ言わせてやる。」

ローケプヒェン「こっちは口内炎に指突っ込んで尻の穴ヒクヒク言わせてやんよ。」


何、その面白人間。

思わずそう突っ込みたくなるが、

後ろでこっそり聞いていた皇太子には幻滅されてアウト、

というか、人としてアウトである。

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